エスクード 【1988,1989,1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997】

ライトSUVジャンルを切り開いたヒット作

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


ジムニーと大形SUVの間の新ジャンル創造

 軽自動車のオフロード向け4輪駆動車であるジムニーの販売などで長い経験を持っているスズキが、1.6リッタークラスのエンジンを備えたオフロード向け4輪駆動車(いわゆるライトSUV)として、1988年5月に売り出したのがエスクード(Escudo)である。車名のエスクードは、南米やポルトガルなどスペイン語圏で使われている通貨、エスクードに由来する。

 エスクードの持つ基本的なメカニズムやシャシー構造は、軽自動車のジムニーの発展リファイン版だった。ボディとは別体の頑丈なラダーフレームを持ち、エンジンなどの主要メカニズムはフレームに搭載。こうした構造は、なにより頑丈なこと、そして駆動系やサスペンションとは関係なく、上屋となるボディのスタイルが自由になる利点があった。その反面で、重量の増加や製造工程の複雑化、コスト上昇は必須。今日ではオフロード向けSUVの一部にしか採用されていない。

ホープスターから発展した名作ジムニー

 スズキは、1955年10月に初の軽自動車であるスズライトシリーズを発表して以来、一貫して軽自動車と1.0リッタークラスのコンパクトカー(1965年、フロンテ800など)を生産販売していた。その歴史の中で異色の存在がジムニーである。1950年代後半、軽3輪トラックのホープスターで知られたホープ自動車が試作した軽自動車規格のオフロード向け4輪駆動車であるホープスターON型がルーツだ。スズキは経営的に苦境を迎えていたホープ自動車からON型の生産と開発に関する権利を取得。1970年4月にジムニーへと発展させた。

 ジムニーは本格的なオフロード性能と手軽なサイズで大きなヒットとなり、スズキのドル箱モデルに成長する。ホープスターON型では、2速型副変速機やデファレンシャルギアなどに三菱系の部品が多く流用されていたが、ジムニーではもちろんスズキのオリジナル部品に変更。ジムニーは、軽自動車規格の360㏄、2ストロークエンジンでスタートし、排気ガス浄化規制への対応から水冷化と4ストロークエンジンに発展。同時に軽自動車の規格改定に合わせて排気量を拡大していく。

新ジャンルのパイオニア、エスクードの誕生

 ジムニーは海外へも輸出された。輸出バージョンは、絶対的なパワーが求められた。そのためエンジン排気量を拡大。1977年には800㏄エンジンを搭載する。エンジン排気量の拡大による性能向上は海外ではとくに好評で、ジムニーは「サムライ」の名で人気を集めた。

 人気の拡大は、新たなユーザーニーズを生む。快適性の向上である。高いオフロード性能に加えて、市街地でもファンカーとして使える乗り心地の良さ、そして都会的なスタイリングを求めるユーザーの声が高まった。そこで、スズキは新しく都市型SUVの開発を開始。その結果誕生したのが1988年5月に発売されたエスクードだった。「一般的な乗用車とオフロード4輪駆動車の融和」というスズキが掲げた開発コンセプトは、見事に実現されていた。
 エスクードは小型シティオフローダー(=ライトSUV)という新しいジャンルのパイオニアとなり、世界中に同工異曲のモデルを生み出す。ホンダCR-V、トヨタRAV4などは、エスクードの好調に刺激されて登場した新ジャンルSUVだった。

 エスクードのデビュー当初のラインアップは、2ドアのハードトップ(乗用車仕様と商用車のバン)、そしてコンバーチブルと呼ばれるソフトトップの2種。1990年9月には、ホイールベースを415㎜延長した4ドアワゴンがノマドの名でシリーズに加わった。駆動方式にはジムニー譲りのフロント縦置きエンジンによるパートタイム4輪駆動である。

エンジンは新開発。デザインはフレッシュ

 搭載されるエンジンは当初、排気量1590㏄の直列4気筒SOHC(G16A型、出力82ps/5500rpm)のみ。トランスミッションは5速マニュアルおよび3速オートマチックで、これに2速のトランスファー(副変速機)が組み合わされた。サスペンションは前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後がトレーリングリンクwithセンターウィッシュボーン/コイルスプリングと変わったシステムを採用していた。オンロードでのソフトな乗り心地を実現するためである。ブレーキは前がディスク、後ろがドラムの組み合わせ。ステアリングギアはボール&ナット形式でパワーアシスト機構を備える。

 エスクードのスタイリングはオフロード車の武骨さを極力なくし、市街地でも違和感がないスタイリッシュさを持った造形。フロントウィンドウの傾斜はきつく、ラジエターグリルはスラント形状、逞しく張り出した前後ブリスターフェンダーなど、それまでのオフロード車の武骨さを微塵も感じさせなかった。

4ドアのワゴンモデルがデビュー

 1990年9月には、それまでの2ドア仕様に加え、ホイールベースを415㎜延長した4ドア仕様がノマドの名でシリーズ化された。ノマド(Nomade)とは、遊牧民を意味する。ロングツーリングをイメージさせるネーミングとして最適のネーミングだった。ノマドはユーティリティを重視するユーザーに熱烈に支持され、エスクード人気は一段と高まった。なおこのタイミングで排気量1590㏄の直列4気筒SOHCエンジンが16V化され、最高出力は100ps/6000rpm、最大トルクは14.0/4500rpmへとパワーアップした。

1994年のマイナーチェンジでは、排気量1998㏄のⅤ型6気筒DOHC24バルブ(H20A型、出力140ps/6500rpm)およびマツダから供給される排気量1998㏄の直列4気筒SOHCターボチャージャー付きディーゼル(RF型、出力76ps/4000rpm)が加えられている。また、エスクードをベースとした派生車種としては、1995年にデタッチャブルルーフを装備するX-90と呼ばれるモデルが現れた。オープンエアを楽しめるオフロード向けモデルだったが、スタイルが個性的すぎたこともあり、大きな人気を集めるにはいたらなかった。

2.5リッターV6の3ナンバー車の登場

 1996年10月にも改良を実施。全体的な性能向上のため、V型6気筒エンジンの排気量は2493㏄(H25A型、出力160ps/6500rpm)に拡大され、2.0リッターエンジンは新設計の1995㏄直列4気筒DOHC16バルブ(J20A型、出力140ps/6500rpm)となった。さらに、ディーゼルエンジンにはスズキ独自のチューンアップで空冷式のインタークーラーが装着された。トランスファーギアの切り替えも走行中にも行えるシステムとされ、フレームの拡大と強化も加えられた。ノマドのネーミングは消滅し、車種は単にドア数で示されることとなった。第1世代のエスクードは、1997年11月まで9年6か月の長いライフスパンを保った後、第2世代へとフルモデルチェンジされる。

 エスクードは世界各地へ積極的に輸出されて、アメリカ市場では「サイドキック」、ヨーロッパ市場では「ビターラ」の車名で販売された。名車である。