マツダECO2 【2003~2010】

マルチ燃料対応のハイドロジェンREの進化

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水素とガソリンのどちらでも走行できるクルマの開発

 次世代の環境対応エンジンとして、水素ロータリーの開発に邁進した1990年代のマツダ。クリーン性能とクルマ本来の気持ちのいい走りとの調和を図ることができ、かつ従来の内燃機関と同様の使いやすさが確保できる水素ロータリーエンジン車のプロジェクトは、マツダ本体の経営逼迫およびフォード傘下への体制変更によって一時棚上げになるものの、新世代ロータリーの“RENESIS”13B-MSP型が登場するのを機に、水素でもガソリンでも走れる“デュアルフューエルシステム”へと進展していった。

 CO2排出量ゼロの水素燃焼と内燃機関ならではのトルク感や加速感を生むガソリン燃焼を両立させ、しかも従来のガソリンスタンドが使えて航続距離も伸ばせるデュアルフューエルシステムは、既存のエンジン部品や生産設備などが活用できるため、低コストでの実用化が可能。また、走りの楽しさや爽快感にこだわるマツダ車の特性が活きる新機構だった。独自技術でマツダらしい究極のエコカーを造る—高い理念を掲げた開発陣の努力は、2000年代中盤になって花開いた。

RX-8ハイドロジェンREのリース販売を開始

 2003年10月、マツダはデュアルフューエルシステムを採用した「RX-8ハイドロジェンRE」を公開する。注目のロータリーエンジン(13B型654cc×2ローター)は、1ローターにつき2本の電子制御ガスインジェクターで水素直接噴射により高効率燃焼を実現。加えて、高圧水素タンク(110L/35MPa)とガソリンタンク(61L)を組み込んだ新システムによって水素とガソリンのどちらの燃料でも走行可能とした。パワー&トルクは水素使用時で109ps/14.3kg・m、ガソリン使用時で210ps/22.6kg・mを発生。10・15モード走行での航続距離は水素使用時で100km、ガソリン使用時で549kmを達成した。

 RX-8ハイドロジェンREは2004年10月、国土交通大臣認定を受けて公道走行実験をスタートさせる。そして2006年2月にはついにリース販売を開始し、エネルギー関連企業や広島県および広島市といった地方公共団体、日本科学未来館などに納車された。2007年2月には北海道開発局からの依頼を受けて寒冷地における走行テストを実施。スムーズかつ安全に走れることを証明する。さらに、2008年にはノルウェーにてRX-8ハイドロジェンREのモニター車の公道走行を開始した。

 一方、マツダは2005年2月より本社の宇品地区にて水素ステーションの稼働をスタートさせる。同施設は中国地方では初の水素供給基地。20MPa(約200気圧)の水素ガスを昇圧し、35MPa(約350気圧)で水素自動車に充填する仕組みだ。1日あたりでは、およそ10台の水素自動車への充填が可能となっている。

ハイブリッドに進化したハイドロジェンRE

 マツダは2007年3月に“サステイナブルZoom-Zoom宣言”を策定する。ワクワクさせる走りで、かつ持続可能(サステイナブル)なクルマ社会を実現するための指針として、デュアルフューエルシステムの進化は必須の課題となった。

 2008年6月、水素ロータリーエンジン(デュアルフューエルシステム)+モーターのシリーズ式ハイブリッド機構を搭載した「プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド」が国土交通大臣認定を取得して公道走行実験を開始する。水素およびガソリンの燃焼エネルギーを高効率に電気エネルギーに変換し、モーター(110kW/350Nm)を駆動するハイブリッドシステムは、高いエネルギー効率と優れたレスポンスを実現。バッテリーには先進のリチウムイオン電池(40kW)を組み込んだ。

 走行実験を繰り返してリファインを加えた後、プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッドは2009年3月にリース販売を開始する。エネルギー関連企業や広島県および広島市、山口県などに随時納車され、自動車業界のみならず地方自治体や環境団体からも大きな注目を集めた。ちなみに水素での航続距離はRX-8ハイドロジェンREの2倍となる200kmを達成。また、プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッドは、植物由来のバイオプラスチックやバイオファブリック、総称“マツダバイオテックマテリアル”を使った内装材を採用し、製造から廃棄における脱石油とCO2削減を成し遂げた。

 マツダの水素ロータリーエンジンに対する取り組みは海外でも高く評価され、2010年5月には国際水素エネルギー協会(IAHE)の「サー・ウィリアム・グローブ賞」を受賞する。独自の技術によって走る歓びと環境安全性能が調和した次世代車を造り出す−−その個性的かつ積極的な開発姿勢は、マツダのアイデンティティとなっている。