92スバル・インプレッサWRX vs 92三菱ランサー・エボリューション 【1992】

WRCでの勝利を目指した2台のスポーツセダン

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WRCでの勝利を目指してベース車を変更

 レクリエーショナルビークル(RV)の人気で活況を呈していた1990年代初頭の日本の自動車市場。この状況下でとくに勢いに乗っていたのが、パジェロを生産する三菱自動車工業とレガシィ・ツーリングワゴンを有する富士重工業だった。また、2社はともにWRC(世界ラリー選手権)の舞台にも挑戦し、三菱自工はギャランVR-4で、富士重工はレガシィRSで、強力な欧州製マシンを相手にしながら覇を競っていた。

 好成績は残すものの、欧州勢を凌駕するまでには至らない……現状の打破を目指して、2社はベース車の変更を決断する。機動性に優れるコンパクトなボディで、効果的に軽量化が図れ、2リッターのターボエンジンを積めば無類の速さを発揮するモデル−−白羽の矢が立ったのは、三菱自工では1991年10月デビューの6代目ランサー、富士重工では開発途中の新世代小型乗用車であるインプレッサだった。選択したボディタイプはともに4ドアセダンで、これをベースに高度かつ緻密なチューニングを施していった。

ランサーをベースに高性能化を実施した三菱

 新世代ラリー車を最初に披露したのは、三菱自工だった。1992年9月、WRCグループAのホモロゲーションモデルとなる「ランサー・エボリューション」(CD9A型)を市場に放つ。グレード展開は、標準仕様のGSRエボリューションとコンペティションモデルのRSエボリューションを設定した。

 注目のエンジンは、ギャランVR-4に採用していたターボ付きの4G63型1997cc直列4気筒DOHC16Vをベースユニットとして選択し、各部の徹底チューニングを図る。圧縮比を8.5まで引き上げたうえで、ピストンやコンドロッド等の軽量化を実施。4バルブDOHCのヘッド回りでは、ナトリウム封入中空排気バルブを組み込んだ。また、ターボチャージャーには横470×縦256×厚65mmという大容量のインタークーラーをセットし、過給効率の向上を成し遂げる。ほかにも、専用チューニングの電子制御燃料噴射システム(ECIマルチ)や圧力検出型カルマン渦式エアフローセンサー、ローラロッカアーム、オートラッシュアジャスター、空冷式オイルクーラーなどを組み込んでエンジンの高性能化と耐久性のアップを図った。得られたパワー&トルクは250ps/6000rpm、31.5kg・m/3000rpmと当時クラス最強を誇る。組み合わせるミッションは2/3/4速をクロスレシオ化すると同時に、2速にダブルコーンシンクロを、3/4/5速にサイズアップしたシンクロ機構を導入した専用の5速MTを設定。駆動システムにはVCU(ビスカスカップリング)&センターデフ方式のフルタイム4WDを採用した。

 ランサーはボディやシャシーの強化にも抜かりはない。ボディはベース車比でねじれ剛性を20%引き上げ、同時にアルミ製フロントフードを装着するなどして効果的な軽量化を達成。サスペンションは各部の取付剛性をアップさせるとともに、専用セッティングのダンパー&スプリングの採用やピロボールの拡大展開(各アーム6カ所)などを実施した。エクステリアについては専用デザインのグリル一体型バンパーやサイドエアダム、リア大型エアスポイラーなどで武装。インテリアではレカロ製バケットシートにモモ製本革巻きステアリング、本革巻きシフトノブといったスポーツアイテムを標準で装備した。

富士重工は新世代セダンのインプレッサを改良

 ランサー・エボリューションの登場から1カ月ほどが経過した1992年10月、富士重工は新世代セダン&スポーツワゴンのインプレッサを発表(発売は11月)し、そのシリーズの最強モデルで、かつWRCグループAのホモロゲーションモデルとなるセダンボディの「インプレッサWRX」(GC8型)をラインアップする。グレード展開は、標準モデルのWRXとコンペティション仕様のWRXタイプRAを設定した。

 インプレッサの開発過程では当初からWRCへの参戦を念頭に置いた高性能モデルの設定が構想されていたという。ただし、走り好きのプロジェクトメンバーにこのことを伝えると高性能モデルにウエイトが置かれる懸念があったため、ベーシックモデルの開発にある程度の目処がついた時点で、高性能モデルの設定がメンバーに知らされたそうだ。

走りのメカはボクサー4ターボ+4WD

 WRXの心臓部となるエンジンについては、新世代フラット4ユニットであるEJ20型1994cc水平対向4DOHC16Vがベースとなる。ここに専用チューニングの水冷式ターボチャージャーやダイレクトプッシュ式バルブ駆動などを導入。得られたパワー&トルクは240ps/6000rpm、31.0kg・m/5000rpmに達した。組み合わせるミッションは、油圧レリーズ式プルタイプクラッチを装備した専用クロスレシオの5速MT。駆動機構にはビスカスLSD付きセンターデフ式フルタイム4WDを採用した。

 開発陣はシャシーのディメンションにも徹底してこだわる。サスペンションはアームやブッシュ類を強化するとともに、ダンパー&スプリングにハードタイプを装着。ボディは曲げとねじれともに剛性を引き上げ、同時にアルミ製フロントフードを導入するなどして軽量化を図った。専用の内外装パーツとしてリアスポイラーやサイド&リアアンダースカート、ナルディ製本革巻きステアリング&シフトノブ、バケットシートなども装備した。

 高度にチューニングしたセダンボディに強力なターボエンジン、フルタイム4WDの駆動システム、ホモロゲーション取得のための生産工程、そしてWRC制覇を目指した宿命—正真正銘のライバル関係にあった2台の高性能スポーツセダンは、デビュー後競うように進化の歩みを続けていったのである。