昭和とクルマ9 【1972,1973,1974】

上級ラグジュアリーカーの進化とFF2BOX車の芽生え

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社会的なブームを巻き起こした“ケンメリ”

 1970年代前半の日本の自動車業界は、クルマを開発するうえで4つの課題を抱えていた。排出ガス対策、安全対策、低燃費対策、そしてユーザーの要求性能の多様化および上級化に則した対策である。なかでも販売に直結する多様化および上級化への対応は、メーカーによって手法が大きく分かれることとなった。

 日産自動車は高性能スポーティ車のスカイラインを1972年9月に全面改良する。4代目となる新型の開発コンセプトは「1970年代の先端をいくスポーティファミリーカーの創出」。車両デザインに関しては、従来の“ダイナミックで優美なスタイル”を踏襲しながら、さらにシャープなスピード感を加えて近代的かつ斬新なエクステリアに仕上げた。また開発陣は、ボディごとに外観の個性を際立たせる。ハードトップは美しいプロポーションをもつファストバックスタイルを、セダンは上品で優美なノッチバックスタイルを演出した。搭載エンジンは従来の改良版であるL20型1998cc直6OHCを筆頭に、G18型1815cc直4OHCと新開発のG16型1593cc直4OHCを設定した。
 計17系列/37基本車種というワイドバリエーションで多様化するユーザー指向に対応し、さらに“ケンとメリーのスカイライン”と称する従来にはないファッショナブルな販売キャンペーンを展開した4代目は、“ケンメリ”という愛称とともに競合車を上回る高い人気を獲得し、登録台数を大いに伸ばしていった。

最上級小型車の完成形を目指した2代目マークII

 トヨタ自動車工業は1972年1月にマークIIをフルモデルチェンジし、上級小型車需要の拡大に対応する。2代目となる新型の開発テーマは「最上級小型車の完成」。エクステリアについては精悍さと流麗さを調和させた躍動美あふれる造形に一新し、セダンはセミファストバック、ハードトップはファストバックのスタイルに仕立てた。インテリアは、快適性と機能性を引き上げると同時に、華やかさや上質感を目いっぱいに表現。装備面でもクラストップの充実度を誇った。メカニズムに関しては、新たにM型1988cc直6OHCエンジンを搭載したことがトピックとなる。フロント部を伸ばして6気筒ユニットを積み込んだ仕様は“L”シリーズを名乗った。4気筒エンジンは従来の改良版となる6R型1707cc直4OHCと18R型1968cc直4OHCおよび直4DOHCを設定する。サスペンションはリアに新設計のラテラルロッド付4リンク式を採用し、加えて操舵系の改良を図ることで走行安定性と操縦性の向上を成し遂げた。

 Lシリーズの追加によってクルマ自体の上級化とバリエーション拡大を達成した2代目は、従来型を上回る顧客層の広がりを実現する。この勢いを持続させようとメーカー側はさらなるリファインを敢行し、Lシリーズの拡充や機能装備の高品質化などを積極的に行っていった。

台形2BOXを採用した新世代ベーシック車の登場

 4輪車メーカーとしては新進の本田技研工業は、1970年代に入ると水冷エンジンを積む新しい小型車の開発を本格化。1972年7月デビューの新世代実用車「シビック」に結実した。シビックのスタイリングは、台形フォルムのFF2BOXを基本に構成される。これは必要な機能を最小限で実現するという、ホンダ独自のアプローチから誕生したものだった。具体的には、当時の小型車の基本目標とされた“5平米規格”をベースに、全長に対してオーバーハングを短くしてホイールベースを長くとり、かつタイヤを可能な限り四隅に配置し、同時に広い室内空間と安定した走行性能を成し遂げるために2BOXの台形フォルムを構築した。また、安定して落ち着き感のあるフォルムは、小さくても引け目を感じない“知的”な小型車デザインを実現するうえで有効な策となった。
 デビュー当初のシビックは、独立したトランクを持つ2ドアのみが用意される。その後は続々と新しい仕様が登場。1972年8月には上ヒンジ式のリアゲートを持つ3ドアと高性能版のGLが、1973年12月には画期的な低公害エンジンのCVCC(複合渦流調速燃焼方式。ED型1488cc直4OHC)搭載車とホイールベースを延長した4ドアが、1974年10月にはスポーツモデルの1200RSが、1977年9月には4ドアモデルにリアゲートを設けた5ドアがラインアップに加わった。

生活に寄り添う軽自動車の登場

 本田技研は斬新な小型乗用車を企画する一方、軽乗用車の刷新にも注力する。そして1971年5月になって、Nシリーズの後継車となる「ライフ」を市場に送り出した。ライフは商品コンセプトに“まろやかなフィーリングファミリーカー”を掲げる。パワー競争に終始した従来のNシリーズとは異なり、優しさと強さを兼ね備えた新しい軽カーの創出を目指したのだ。スタイリングに関しては2080mmのロングホイールベースを採用してクラス最大級の室内空間を確保したうえで、FF2BOXの合理的なパッケージングを構築する。ボディタイプは独立したトランクを持つ2ドアと4ドアを用意。搭載エンジンは水冷式のEA型356cc直2OHCで、カムシャフトの駆動には国産車初のコグドベルトを採用した。