MGB 【1962〜1980】

世界を魅了した英国製トラディショナルスポーツの代表

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名車MGAの後を引き継ぐスポーツモデルの開発

 英国最大の自動車企業グループであるBMC(British Motor Corporation)内のスポーツカー・ブランドとして、MGA(1955年デビュー)やミジェット(1961年デビュー)などをヒットさせていたMG。その勢いを駆って、同社はMGAの後継を担う旗艦スポーツモデルの開発に邁進していた。

 新世代スポーツの企画が立ち上がったのは1957年ごろのこと。後に開発コードは“ADO23”と呼称する。当初はMGAと同様にフレーム構造を基本骨格に据えようとしたが、車重が増えて意図した性能に達しないことが予想されたため、最終的にオープンカーとしては画期的なスチール製モノコック構造の導入を決定した。組み合わせるサスペンションにはフロントにダブルウィッシュボーン/コイル、リアに半楕円リーフスプリングを採用。フロントサスはボディ直付けではなく、サブフレーム(クロスメンバー形状)にセットした。また、操舵機構にはラック&ピニオン式を導入し、ステアリングラックなどもサブフレームに取り付ける。一方、制動機構にはフロントにディスクブレーキを、リアに大径のドラムブレーキを採用した。

 搭載エンジンは“BMC Bタイプ”の18G型1798cc直列4気筒プッシュロッドOHVユニットで、燃料供給装置にSU-HS4キャブレターを2基組み合わせる。圧縮比は8.75に設定し、パワー&トルクは94hp/5500rpm、14.8kg・m/3500rpmを発生した。トランスミッションは2〜4速シンクロメッシュの4速MTを採用し、FRの駆動レイアウトに仕立てる。ちなみに、設計当初は2リッタークラスのV4や直4、1.6リッター クラスのDOHCといったエンジンの搭載も検討されたという。しかし、コストや生産性、そして整備性を考慮した結果、BMC Bタイプに落ち着いたそうだ。

基本はオープン。スタイルはスマート

 スタイリングに関してはオープン型のモノコックボディを基本に空力性能を最大限に重視し、Cd値(空気抵抗係数)も優秀な数値を実現する。同時に各部の造形にも工夫を凝らし、縦桟基調でかつ外気が取り入れやすい位置に設けたメッキグリルや可動式のサイドウィンドウ、シート後方にきれいに収まるように設計したソフトトップ、サイドにクオーターウィンドウを組み込んで視認性を高めた脱着式ハードトップ、流れるようなラインで構成した前後フェンダー、縦長でまとめたリアコンビネーションランプなどを採用した。

 インテリアは、時代に則した近代化を施すとともに操作性や居住性の向上を図る。室内空間自体はMGAよりも拡大。インパネはブラックカラーを基調とし、ドライバーの正面には大型の速度計と回転計を配置した。ステアリングはオクタゴンマークを中央に配した3本スポークタイプを装備。シートはクッションに厚みをもたせたうえでサポート性も引き上げた専用品を組み込む。リアセクションには実用的なトランクルームも設定した。

「MGB」のネーミングで市場デビュー

 MGブランドの新しいオープンスポーツは、1962年に開催されたロンドン・モーターショーでワールドプレミアを飾る。車名は「MGB」。従来のMGAの後継車であることを端的に示すネーミングを冠していた。

 市販に移されたMGBは、剛性を高めたボディやリニアなハンドリング特性、トルクの厚いエンジン、そしてスポーティかつシックな内外装デザインなどが好評を博し、英国内のみならず海外市場でも大いに販売台数を伸ばしていく。この人気に応えるよう、開発陣もMGBの改良とラインアップの拡充を実施。1963年にはレイコック・ド・ノーマンビル製の電磁式オーバードライブを設定し、1964年にはエンジンに循環式ブローバイガス機構を組み込み(18GA型)、1965年になるとクランクシャフトのメインベアリングを3つから5つに変更(18GB型)する。同時に、電気式タコメーターの採用やオイルクーラーの標準装備化などを実施した。

 車種ラインアップについては、1965年にハッチバッククーペ仕様を追加する。デザインを担当したのは、イタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナ。フロントウィンドウの上端をオープン仕様より伸ばし、そこから流れるようなルーフラインがリアへと至るスポーティなフォルムは、MGBに新たな魅力をもたらした。また、内装ではリア部に+2スペースの折り畳み式シートを設けるなど、実用性の面での向上も図る。ボディのネーミングに関しては「GT」を名乗り、既存のオープンボディの「ツアラー(Tourer)」と差異化させた。

時代の要請に合わせてMk-Ⅱへと進化

 スポーツカーは進化が命題−−その鉄則に基づくように、MGBは着実なリファインを図っていく。まず1967年には、G-HN4の車種ナンバーを付けたいわゆる“Mk.Ⅱ”がデビューする(従来モデルは一般的に“Mk.Ⅰ”として識別されるようになる)。エンジンは改良版の18GD型を搭載(米国仕様は18GF型。翌1968年には18GG/18GH型に変更)し、組み合わせるトランスミッションはオールシンクロの4速MTに換装。オプションとしてボルグワーナー製3速ATも用意した。アース機構をネガティブタイプに変更したのも注目点である。エクステリアは基本的に従来型を踏襲するが、インテリアにはプレート型ドアハンドルの採用やシフトノブの球形化といった小変更を施した。

 Mk-Ⅱのデビューの際には車種ラインアップの追加も行われる。“BMC Cタイプ”エンジンを7メインベアリング化した2912cc直列6気筒OHVユニット(150hp)を搭載する上級スポーティモデルの「MGC」を設定したのだ。開発コード“ADO52”として企画されたMGCは、MGBのシャシーをベースにフロンセクションの改良や前サスのトーションバー化、各取り付け部の強化などを実施。さらに、新設計の4速MTおよび3速ATや15インチホイールなども組み込まれる。ボディタイプはフルオープンのツアラーとクーペのGTが用意された。

最強モデル、V8を搭載モデルの誕生

 MGBの進化は、まだまだ続く。1969年になると2度目の大幅改良を施したG-HN5の“Mk.Ⅲ”に切り替わる。搭載エンジンはリファイン版の18GJ型(翌1970年には18GK型、1971年には18V型)に変更され、内外装パーツのデザインも刷新。とくにフロントグリルはブラック基調のリセスドタイプ、通称“レイランドグリル”に換装され、既存のMGファンにショックを与えた。

 旧来ファンの声をメーカーも感じ取ったのだろう。1972年には異例のマイナーチェンジを行い(Mk.Ⅲ-2)、フロントグリルをオリジナル造形のブラックメッシュタイプに変更する。同時に、キャブレターをSU-HIF4にブラッシュアップした。

1973年になると、MGBシリーズに新しい上級モデルが設定される。アルミブロックを用いたローバー製3528cc・V8OHVエンジン(137hp)を搭載する「MGB GT V8」が市場に放たれたのだ。V8エンジンを採用するに当たり、開発陣はバルジ付きフロントフードの採用やホイールハウス内部およびクロスメンバーの形状変更、サスバネレートの強化、専用ホイール+ラジアルタイヤの装着などを実施。また、グリルやリアゲートには“V8”エンブレムを装着した。性能については、最高速が200km/hオーバー、0→400m加速が15秒台と、4気筒版MGBや6気筒のMGCを大きく上回るパフォーマンスを発揮する。ちなみに、クーペボディのGTのみの設定としたのは、オープンボディの強度や生産ライン自体のキャパシティを考慮しての判断だったという。

18年ものロングセラーモデルに成長

 1970年代初頭までは順調に車種強化とパフォーマンスの向上を図っていったMGB。しかし、1970年代中盤に差しかかると、新たな課題に直面する。交通事故の急増に対応した安全対策、そして大気汚染の深刻化に伴う排出ガス対策だ。とくに最大の輸出国であるアメリカ市場では、この問題の克服が必須課題だった。

 開発陣の苦心と努力は、1974年になって具現化される。まず9月には黒色のポリウレタンバンパー、通称“5マイルバンパー”を組み込んだMk.Ⅲ-3-RB1/2をリリース。12月にはキャブレターをゼニスストロンバーグT-175CDの1基に変えた輸出向けのMk.Ⅲ-3-RB1が登場した(英国仕様はHIF4キャブレターを継続)。5マイルバンパーの装着などによって車重が増え、しかも重心が高くなって運動性能の低下を余儀なくされたMGB。開発陣はこの弱点を解消しようと、1976年に足回りの大幅な改良やステアリングギア比の見直し、ラジエター位置の変更などを実施。さらにMk.Ⅲ-3-RB2に移行した1977年には、電動ファンやヘッドレストの標準装備化、2系統ブレーキラインの採用、オーバードライブスイッチの移設(ワイパーレバー→シフトノブ)などを行った。

 市場環境に則した改良を毎年のように実施し、MGブランドの牙城を守ってきたMGBだが、グループ企業のBLの経営不振、強いては英国自動車産業の衰退に抗うことはできず、結果的に1980年には生産が中止される。同時に、生産拠点のアビンドン工場も閉鎖されることとなった。18年もの長きに渡る車歴で生み出された台数は、オープンボディのツアラーが38万6961台、クーペのGTが12万5282台、MGCが9002台、MGB GT V8が2591台の計52万3836台を誇る。自動車史に燦然と輝く英国製スポーツカーの大成功作−−それがMGBである。