グランドファミリアAP 【1973,1974,1975,1976】

いち早く排出ガス対策を施した上級ファミリーカー

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ロータリーとレシプロ、2種の排出ガス対策

 東洋工業(現マツダ)は排出ガス規制の対応策として、「AP(アンチ・ポリューション)」と称する革新的な戦略を掲げる。まず手をつけたのが、同社が誇るロータリーエンジンの改良。基本となる考えは、薄い混合気で完全燃焼を達成する、いわゆる希薄燃焼だった。これを実現するために技術陣は、アペックスシールやコーナーシールなどのガスシールを改善する。さらに、有害成分を減少させるサーマルリアクター(排気ガス再燃焼装置)を新たに組み込んだ。低公害技術の総称として“REAPS(ROTARY ENGINE ANTI POLLUTION SYSTEM)”を名乗ったリファイン版12A型ロータリー(573cc×2ローター)は、従来ユニットに比べて大幅な排出ガスのクリーン化を達成し、いち早く昭和50年排出ガス規制をクリアする。そして1972年10月発表(発売は11月)の2代目ルーチェを皮切りに、ロータリーAPモデルを相次いで市場に放っていった。

 ロータリーエンジンの排出ガス対策を図る一方、技術陣はレシプロエンジンにおけるAP化も鋭意実施していく。開発技術の総称には、ロータリーのREAPSに対して“CEAPS(CONVENTIONAL ENGINE ANTI POLLUTION SYSTEM)”を名乗った。

排出ガス対策のコア技術はサーマルリアクター

 CEAPSの核となる技術は、レシプロ用に新設計したサーマルリアクターだった。サーマル=熱、リアクタター=反応器を意味する排気ガス再燃焼装置はエグゾーストポート付近に設置し、新しい空気を送り込みながら排出ガスを再燃焼させることで有害成分であるHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)を削減する仕組みだ。エンジンのパワーダウンを極力防ぎながら、効果的に排出ガスのクリーン化が図れるという特性を持つ。マツダではサーマルリアクターを耐久性に富んだ3重構造で設計した。さらにエンジン本体やイグニッションコントロールの改良などにより空気と燃料の比率を再調整し、NOx(窒素酸化物)の発生量も抑制する。ほかにも、ブローバイガスや蒸発燃料の各対策装置なども設定して低公害化を図った。

 CEAPSが最初に採用されたエンジンは、NA型1586cc直4OHCユニットだった。最高出力は90ps/6000rpm、最大トルクは13.0kg・m/3500rpmを発生し、既存のNA型に比べて10ps/1kg・mのダウンに抑える。低公害化装置を加えたために動力源自体の重量が増し、搭載時の0→100km/hや0→400mなどの加速性能はややダウンしたものの、最高速度は従来車と同レベルをキープした。

レシプロエンジン低公害車第1号として発売

 CEAPSを組み込んだ新設計の低公害エンジンは、1973年11月に「グランドファミリア1600AP」に積まれて市場デビューを果たす。ボディタイプは4ドアセダンと2ドアクーペの2種類をラインアップした。

 グランドファミリア1600APが発売された当時、低公害エンジンとしてはホンダが開発した複合渦流調速燃焼方式のCVCC(Compound Vortex Controlled Combustion system)エンジンが脚光を浴びていた。同ユニットは1972年12月にアメリカのEPA(環境保護庁)でテストを受けて合格し、マスキー法をクリアした第1号エンジンとなる。ただし、CVCCエンジンがシビックに搭載されて市場デビューを果たすのは1973年12月。それに先んじて昭和50年排出ガス規制をクリアした低公害車となったのが、グランドファミリア1600APだった。

 グランドファミリア1600APは、“お求めやすい公害対策車”というキャッチコピーを掲げてユーザーにアピールする。“お求めやすい”としたのは、低公害車の優遇税制が受けられたからだ。1974年3月までなら物品税の4分の1と自動車取得税の3分の2が減免。同年4月から9月までは物品税の8分の1と自動車取得税の3分の1が減免されたのである。

 低公害車第1号として市場から注目を集めるグランドファミリア1600AP。一方で開発現場では、さらなる低公害化を図るために搭載エンジンに改良を加える。そして1975年9月には、昭和51年排出ガス規制をクリアしたグランドファミリア1600APを発売。内外装の一部刷新も図り、フロント部には丸形2灯式ヘッドランプや大型グリルなどを配して上級感を引き上げた。