ジャガーXK 【2006,2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014】

伝統と革新を融合した高性能スポーツカーの第2世代

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高性能スポーツカーの全面改良

 世界規模で自動車メーカーの合従連衡が進んだ1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界。そのなかで英国の老舗メーカーであるジャガーは、フォード傘下のPAG(プレミアム・オートモーティブ・グループ)のもと、ブランドイメージの強化を図っていた。多くのプレミアムメーカーに対して、ジャガーの強みはどこにあるのか−−。多角的に、かつ歴史を踏まえて検討した結果、ジャガーのスタッフは“美しさ”や“速さ”といったキーワードが重要になるという結論を導き出す。そして、ブランドのフィロソフィーとして“Beautiful Fast Cars”を謳い、新時代の車両デザインや先進技術を精力的に開発していった。

 新時代のジャガー車を市場でアピールするため、ジャガーはXKの全面改良を企画する。美しくて速いクルマのイメージが、高性能スポーツモデルのXKに凝縮していたからだ。新型XKはスポーツ路線を明確にし、デザインとエンジニアリングともに大きく転換させる方針を打ち出す。デザイン面では、初代XKのヘリテージスタイルからモダンさと伝統を融合させた新スタイルの創出を計画。エンジニアリング面では、先進技術を積極的に開発し、新型車に取り入れるというプロセスを構築した。

オールアルミニウムボディを纏った2代目XK

 “X150”のコードネームで開発が進められた2代目ジャガーXKは、まず2005年開催のフランクフルト・ショーでクーペモデルを、翌2006年開催のデトロイト・ショーでコンバーチブルモデルを公開。デトロイトの場では受注開始もアナウンスされ、発売は同年3月中旬と発表した。

 2代目XKの基本骨格および外板は、ジャガー独自のライトウエイトビークルテクノロジーを駆使した最新のアルミニウムモノコックボディで構成する。アルミ材の成形には圧延シートのプレス成形、高圧ダイカスト鋳造、押し出し成形という3種の製法を用いた。新ボディはクラストップレベルの軽量を実現しながら、クーペで従来型比31%、コンバーチブルで同48%のねじり剛性アップを成し遂げる。懸架機構は新設計の前後ダブルウィッシュボーン式サスペンションに、複数のセンサーで路面状況を瞬時に把握してダンパーのセッティングを自動調整する電子制御アダプティブダンピングの“CATS”をセット。ラック&ピニオン式の操舵機構には、車速感応式バリアブルレシオのパワーステアリングを装備した。

 搭載エンジンは最新式のドライブバイワイヤマネジメントシステムやVCP(バリアブル・カムシャフト・フェージング)を組み込んだ改良版のAJ34系4196cc・V8DOHCを採用する。圧縮比は11.0に設定し、パワー&トルクは304ps(224kW)/42.9kg・m(421N・m)を発生。また、加速特性を重視して2000〜6000rpmの幅広いレンジで最大トルクの85%以上を絞り出すようにチューニングした。組み合わせるトランスミッションはパドルシフト付きのZF製6HPシーケンシャルシフト6速ATの1機種で、ドライブ/スポーツオートマチック/マニュアルの3モードの選択が可能。シフト基部の形状にはL字ゲートを採用する。制動機構には前後ベンチレーテッドディスクブレーキをセットし、先進システムとして4チャンネルABS/EBD/EBA/EPBを装備。操縦安定性を電子制御で総合的に高める“TRAC DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)”も設定した。また、安全機構としてジャガー独創のA.R.T.S.(コンピュ—タ制御・包括的乗員安全システム)を採用。さらに、量産車として世界初採用となる歩行者保護システムのデプロイアブル・ボンネットを導入した。

新たなジャガーの方向性を示唆する筋肉質の造形を創造

 スタイリングに関しては、ジャガーのデザインディレクターの任に就いていたイアン・カラムが存分に腕を振るって造形を主導する。従来のヘリテージデザインとは一線を画すモダンな流線形フォルムを基本にしたエクステリアは、彫りの深いアスレチックなラインや筋肉質のリアビュー、Eタイプのグリルを現代的に解釈した楕円形グリル、サブウィングエアインテークを組み込んだスポーティなフロントセクションなどで構成。ジャガーデザインが新時代に突入した事実を、存分にアピールした。

 4シーターのインテリアも、モダンな造形とクラシックなアレンジを高次元で融合させた新しいデザインテイストで仕立てる。インパネは人間工学に基づいてスイッチ類をレイアウトしたうえで、操作フィールに上質感を加味。また、構成パーツも最高品質の素材を厳選して使用した。フロントシートは従来よりも大型化するとともに、調整機構の緻密化やサポート性の向上などを実施。レザー表地では、ユーザーの好みに則してスポーツタイプとパーフォレーテッドソフトグレインタイプを設定した。

ハイパフォーマンス仕様のXKRを追加設定

 新しい時代を志向した第2世代のXKは、世界のマーケットから好評をもって受け入れられる。受注台数も順調な伸びを示した。この流れをさらに加速させようと、ジャガーは車種ラインアップの拡大と徹底した改良を図っていく。

 2006年開催のロンドン・ショーで、ハイパフォーマンス仕様のXKRを発表。ボディタイプはクーペとコンバーチブルを設定した。搭載エンジンはスーパーチャージャーの過給器を組み込んだAJ34S系ユニットで、パワー&トルクは426ps(313kW)/57.1kg・m(560N・m)を発揮する。また、ツインエアインレットやアクティブエグゾーストシステムなどをセットして吸排気効率を高めた。シャシー面ではリアダンパータワー間へのブレイスの追加や強化タイプのダンパー&スプリングの装着、改良型CATS(2ステージ式電子制御アダプティブダンピング)の採用などを実施。制動機構では前ディスクローターの拡大などを行った。

 エクステリアでは専用デザインのバンパーにアルミニウムフィニッシュのフロントアッパー&ロアメッシュグリル/トランクフィニッシャー/サイドパワーベント、ボンネットルーバー、専用アロイホイール、クワッド(4本出し)エグゾーストパイプなどを装備。インテリアではRロゴ入りヘッドレスト付専用スポーツシートやウィーブパターン専用アルミニウムパネルなどを組み込んでいた。

 2007年開催のジュネーブ・ショーでは、スポーティングラグジュアリーモデルを謳ったXKR PORTFOLIOがデビューする。専用のアレンジを施した華やかで高品質な内外装には、Alcon社と共同開発したハイパフォーマンスブレーキシステムをセット。また、Bowers&Wilkins社製のスピーカーシステムを組み合わせるプレミアムオーディオシステムも装備した。ちなみにPORTFOLIO仕様は、後に内容を変えながらXKグレードでも展開された。一方でジャガーは、さらなる拡販を狙って2007年にエントリーモデルのXKも設定する。搭載エンジンには改良版AJ-V8の3555cc・V8ユニット(258ps/34.2kg・m)を採用した。また、2008年開催のジュネーブ・ショーではボディのエアロチューンや足回りの強化を実施したスペシャルモデルのXKR-Sを発表。欧州市場向けに、200台限定でリリースした。

搭載エンジンを新開発の5L・V8ユニットに換装

 2008年3月、フォードはジャガーおよびランドローバーをインドのタタモーターズに売却する。背景には、2007年に表面化したサブプライムローン問題に端を発する米国の急激な景気後退があった。新体制に移行したジャガーは、XKの改良を行い、2009年には大がかりなマイナーチェンジを敢行する。最大の注目点はパワートレインの刷新で、搭載エンジンにはダイレクトインジェクション方式やトルク駆動可変カムシャフトタイミング機構を取り入れた新開発のAJ-V8 GEN系4999cc・V8DOHCを採用した。

 仕様としてはカムシャフトプロフィールスイッチングと可変吸気マニホールドを組み込んだXK用の自然吸気と、新型冷却および潤滑システムを導入したXKR用のスーパーチャージャー付きという2機種を設定。パワー&トルクは自然吸気版が385ps(283kW)/52.5kg・m(515N・m)、SC付きが510ps(375kW)/63.7kg・m(625N・m)を発生した。また、組み合わせるトランスミッションにはトルク容量をアップしたZF製6速ATを採用。内外装では新設計のバンパーやリアLEDランプ、新意匠インテリアパネルなどを設定した。

最高出力550ps! 最強XKR-Sデビュー

 2011年開催のジュネーブ・ショーでは、最速モデルのXKR-Sが登場(2008年デビューのXKR-Sとは別モデル)する。SC付きAJ-V8 GENエンジンは専用のチューンアップによってパワー&トルクが550ps(405kW)/69.3kg・m(680N・m)へと向上。足回りも強化され、アダプティブダイナミクスおよびADCのプログラミング変更やサスペンションコンポーネントの改良、タイヤおよびホイール幅の拡大などを実施する。また、内外装にはツインエンジンナセルやエアロバンパー、バーティカルサイドインテークおよびサイドシルエクステンション、カーボンファイバー製スプリッター/リアエプロン/リアウィング、20インチ“Vulcan”軽量鍛造合金製アロイホイール、カーボンレザー&ソフトグレイン・パフォーマンスシート、ダークリニアアルミニウムパネルなどの専用パーツを豊富に盛り込んだ。

 XKの進化は、さらに続く。2012年モデルではフロントマスクを中心に外装デザインを大幅刷新し、新鮮味をアップ。2013年モデルでは、内外装カラーやアロイホイールのラインアップ変更を行う。また、2013年開催のニューヨーク・ショーではXKR-Sをベースに空力性能のさらなる向上やサスペンションの改良、新ステアリングシステムの導入、ブレーキのカーボンセラミック化などを図ったスペシャルモデルのXKR-S GTを発表し、世界限定30台(後に英国向けに10台を追加)でリリースした。

 新時代のジャガーデザインを象徴するフラッグシップスポーツとして、世界市場で熱い支持を獲得した第2世代のXKは、発売から8年あまりが経過した2014年の夏に生産を終了する。次期型は設定されず、2013年にデビューしたFタイプが実質的な後継を担ったのである。