ヴェゼル 【2013,2014,1015,2016,2017,2018,2019,2020,2021】

フィットから生まれた世界戦略クロスオーバーSUV

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世界的に人気が高まるコンパクトSUVへの対応

 2000年代後半から2010年代初頭にかけて、ワールドワイドで脚光を浴びた新ジャンルカーが出現する。コンパクトカー用のプラットフォームをベースに車高を引き上げたクロスオーバータイプのコンパクトSUV(スポーツユーティリティビークル)である。代表格としては欧州ブランドのフォルクスワーゲン・ティグアン(2007年デビュー)やBMW・X1(2009年デビュー)、BMWミニ・カントリーマン(2010年デビュー)、アウディQ3(2011年デビュー)、日本ブランドのスズキSX4(2006年デビュー)やスバルXV(2010年デビュー)、日産ジューク(2010年デビュー)などが販売台数を大いに伸ばした。

 ユーザー側としては、見栄えがよく所有欲をそそる。メーカーとしては、コンパクトカーと共通のプラットフォームで高効率に新型車を開発できる。さらに市場状況としては、環境対策のためのダウンサイシングが必須課題−−。コンパクトSUVは、まさに生まれるべくして生まれた新ジャンルカーだった。

 クロスオーバータイプのコンパクトSUVはまだまだ伸びる、しかも国際戦略車の大きな柱になる−−そう判断した本田技研工業の首脳陣は、次期型フィット(フィット3)のプラットフォームをベースとするコンパクトSUVの企画にゴーサインを出す。掲げた車両テーマは、「多面的な価値を高次元でクロスオーバーさせた新世代ビークル」の創造。また、開発は次期型フィットと同時進行で行う旨を決定した。

ハイブリッドとガソリンエンジンを設定

 新コンパクトSUVの基本骨格に関しては、フィット3用の新設計プラットフォームをベースに、ホイールベースの延長や車幅の拡大、車重および入力の増加などを踏まえた専用設計の車台を構築する。ボディシェルには超高張力鋼板を拡大展開するなどして衝突安全性能の向上と軽量化を高次元で両立させた新G-CONボディを採用。懸架機構はフロントにキャスター角を増やしたうえでロールセンターを低くしたマクファーソンストラット式を、リアにパイプを潰すように成形してねじり剛性を高めたクラッシュドパイプ構造のトーションビーム式をセット。フロントのダンパーには乗り心地と操安性を高次元で両立させた専用セッティングの振幅感応型を装備する。最低地上高はフィット比で50mmほど高い185mm(FF)を確保した。

 パワートレインは燃料噴射を直噴化したL15B型1496cc直列4気筒DOHC16V・i-VTECエンジン(131ps/15.8kg・m)と、LEB型1496cc直列4気筒DOHC16V・i-VTECエンジン(132ps/15.9kg・m)にH1型モーター(22kW/160N・m)を組み合わせた1モーターハイブリッドのLEB-H1型という2機種を設定する。トランスミッションはL15BにCVTを、ハイブリッドのLEB-H1には乾式クラッチの7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を採用。7速DCTはエンジンとモーターの間に組み込み、モーター走行時の高効率化やエネルギー回生量の増大を図る。また、リチウムイオンバッテリー内蔵のIPU(インテリジェントパワーユニット)や電動サーボブレーキシステム、フル電動コンプレッサー、リアクティブフォースペダルといった先進機構も導入して燃費性能を効果的に引き上げた。

 ハイブリッドには、アクセル操作に対する駆動力をより大きく制御するSPORTモードも設定する。この新ハイブリッドシステムは、総称して“SPORT HYBRID i-DCD(intelligent Dual-Clutch Drive)”と名乗った。駆動システムについては、FFのほかにリアルタイムAWDと称する電子制御4WDを用意。4WDはコンパクトSUVのキャラクターに合わせて専用セッティングを実施した。

“クロスオーバー”をテーマに車両デザインを構築

 エクステリアデザインは、“Dynamic Cross Solid”をコンセプトに開発する。具体的には、SUV的な安定感のあるロアボディとクーペライクなアッパーボディをシャープなキャラクターラインを介して融合させたフォルムを実現した。各パーツのアレンジにもこだわり、シャープな造形のLEDヘッドライトやワイド感を高めたLEDストップランプ&テールランプ(ハイブリッド車はLED導光ストライプ付)、ウィンドウグラフィックスに溶け込ませたリアアウターハンドルを装備する。ボディサイズは全長4295mm、全幅1770mm、全高1605mm、ホイールベース2610mmに設定。フィット3と比べて340mm長く、75mm幅広く、80mm高く、ホイールベースが80mm長いディメンションに仕立てた。

室内はパーソナル感と安心感を追求

 インテリアは“Expansible Cockpit”をコンセプトに、クーペのパーソナル感とSUVの安心感の両立を徹底追求する。ドライバー側に傾けたセンターパネルでドライビングのための空間であることを明確に表現。見た目や触感の上質さにもこだわり、ステッチライン入りソフトパッドやアッパー部全面表皮ドアライニング、ピアノブラック調パネルなどを装備する。

 計器系にはブラックフェースに光の輪が浮かんで見えるフローティングネオンリングと文字盤が発光して浮かび上がる大径自発光式メーターを採用。ラゲッジルームは低くてスクエアなフロアや404l の荷室容量、多彩なシートアレンジを実現すると同時に、大開口のテールゲートを組み込んで積載時の利便性を向上させた。

「多面的な魅力と価値を持つクルマ」の車名で市場デビュー

 ホンダ渾身の新世代コンパクトSUVは、「VEZEL(ヴェゼル)」の車名を冠して2013年11月開催の第43回東京モーターショーでワールドプレミアを飾り、翌12月に販売を開始する。車名は英語で「カットした宝石の小さな面」を意味するBezelとクルマを意味するVehicleをかけ合わせた造語で、角度によって表情を変える宝石のように「多面的な魅力と価値を持つクルマ」という思いが込められていた。ヴェゼルの車種展開は、L15B型ガソリンエンジンを採用するFFのG/X/Sと4WDのG、ハイブリッド仕様でFFのHYBRID/HYBRID X/HYBRID Zと4WDのHYBRID/HYBRID X/HYBRID X・Lパッケージで構成する。SのCVTとHYBRID全車の7速DCTには、パドルシフトを組み込んだ。

 注目の燃費性能については、ハイブリッド仕様でクラストップのJC08モード走行27.0km/L(FF)を達成する。また、ガソリンエンジン車でも同20.6km/L(FF)という好燃費を実現していた。

販売好調! SUV新車登録台数第1位を獲得

 ホンダが大きな期待を込めて市場に放ったヴェゼルは、発売40日ほどの受注が月販目標の8倍超となる3万3000台超を記録。その後も販売台数は伸長し、2014年11月には早くも国内累計受注台数が10万台を突破する。そして、2014年暦年(1月〜12月)のSUV新車登録台数ではトップに立った。

 一方で開発現場では、想定外のトラブルに苦心する。フィット3ともに、2014年の2月と7月、そして10月と、1年に3回もリコールを届け出るという事態に陥ったのだ。2月は7速DCTの不具合、7月はエンジン制御コンピュータ(ECU)プログラムの不適切、10月は点火コイルおよび電源供給回路の不具合だった。さらに翌2015年9月には点火コイルの不具合で、2016年4月にはガソリン車の電気装置(昇降圧充放電コンバーター)の不適切でリコールを届け出る。2016年4月を除くリコールの主な要因としては、DCTを開発したサプライヤーの独シェフラー社とのコミュニケーション不足とメカニズム自体のブラックボックス化、i-DCDシステムの複雑性と熟成不足が指摘された。

 繰り返される不具合の対応策として、経営面では当時の伊東孝紳社長と役員12人の報酬の一部を3カ月返納するというペナルティを課し、同時に品質改革担当役員を設置するなどの体制変更を行う。一方で開発陣は、i-DCDシステムの改良に精力を傾けた。イメージの回復を目指したヴェゼルは、まず2015年4月にマイナーチェンジを行い、快適装備の充実化や4WDモデルの拡大展開、振幅感応型ダンパーのリアへの採用などを実施する。翌2015年9月には、専用ボディカラーのプレミアムクリスタルレッドメタリックを設定するなどした特別仕様車の「STYLE EDITION(スタイルエディション)」を発売。2016年2月になると再度のマイナーチェンジを敢行し、スポーティ仕様のRSグレードやHonda SENSING(センシング)標準装備グレードの追加設定などを行った。

 現場の懸命の努力の甲斐もあり、ヴェゼルの販売は高いレベルを維持する。そして、2015年暦年と2015年度(2015年4月〜2016年3月)のSUV新車登録台数で第1位を獲得するという栄誉に輝いたのである。その後も販売は好調に推移。ヴェゼルはコンパクトクラスSUVの世界的なベンチマークに成長する。