KIKAI(コンセプトカー) 【2015】

人とクルマの関係を再提案するメカフレンドリーマシン

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人とクルマの関係をゼロから考えたKIKAI

 未来のクルマは、自動運転が当たり前になり、安全で環境性能に優れたモダンな姿に進化する。その反面、ドライバーのする仕事は減少。ストレスなく移動するためのツールとして洗練されるが、ドライバーとクルマの関係は希薄なものになる可能性が予測されている。なにしろ運転しなくても、目的地までクルマ側で運んでくれるのだ。ドライバーが操作してはじめて動き、ドライビングスキルが上がるほど上手に走らせることが出来た、いままでのクルマとは質的に変化することは間違いない。

 2015年の東京モーターショーにトヨタが出品したコンセプトカーの「KIKAI」は、そんな未来のクルマに対する警鐘。人とクルマの関係をゼロから考えた、もうひとつの未来のクルマの姿だ。
 KIKAIは「機械(クルマ)とは本来、人間の思想や情熱や知恵が生み出した身近な存在」という考え方をベースに開発された。クルマを人の手が生み出した“機械”と改めて捉え、その美しさ、精巧さ、動きの面白さなどを伝えることを目的としている。

スタイルはネイキッド。メカニズムの面白さを追求

 スタイリングは一見、クラシカルな印象だ。いわゆるボディパネルは存在せず、パワーユニットやサスペンションなどの機能パーツがむき出しになっている。基本レイアウトはキャビンの後方にパワーユニットを横置き搭載したハイブリッド式のミッドシップ。ボディサイズは全長3400×全幅1800×1550mm。全長は短いが幅は適度に広く、高さもある特異なプロポーションである。

 KIKAIの開発者は説明する。「クルマにおける機械への関心は、多くの場合パワーやスピードなどの力強さに対してのものだったように思います。しかし機械の魅力はそれだけなのでしょうか。背後にある設計思想や、細部に宿る情熱と知恵。そこには美しさ、精巧さ、あたたかさ、動きの面白さなどの豊かな魅力があります。その奥深い魅力にこそ、人と機械(クルマ)の絆を強くする力があるのです。KIKAIは、クルマは人間の叡智の結晶であることを身近に感じてもらいたいと思って作りました。“身の回りものはそれぞれ成り立ちがある”ことや“今まで見えなかったものに気づく”、モノに触れる暮らしの喜びを提案したいと思います」と。

 KIKAIは、従来ボディに隠されてきた機械の魅力を前面に出すこと、機能そのものをダイレクトに表現したことが新しい。デザイナーは、食器やお皿など、生活を支える普段使いの雑器の素朴な佇まいにも美が宿るように、クルマも走行を支える燃料タンクやリザーブタンクなど、誰もが知りながら、誰も気に留めなかった部品の細部にも美は宿ると考えた。だから外に露出させている。ハイブリッドを選択したのは、エンジンとモーターをプラネタリーギアで精巧に制御する、メカニズムとしての魅力にあふれる存在だからだという。

ドライバーが機能を実感できるアイデアを満載

 KIKAIは、ドライバーが機能をリアルに実感できる工夫も万全だ。典型が3シーターのキャビンレイアウトである。ドライバーズシートは直感的に車両感覚が把握できるように車両のセンターに配置。その後方両脇にパッセンジャーシートを置いた。これによりパッセンジャー相互が適度な距離感を保つ車内コミュニケーション空間を実現。同時にルーフまで広がる開放的なサイドウィンドーが、街や自然の中を走る楽しさを提供する。

 運転席からの視界もKIKAIの魅力ポイントである。ドライバーの足元に小窓を設置。この小窓を通してドライバーは、タイヤの動きやサスペンション、流れる路面の速度感が感じられるようになっている。しかもフロントガラス越しにはサスペンションのアッパーアームの動きも視認可能。つまりドライバーの操作に対してクルマが動く様、そしてその美しさがリアルに実感できるのである。開発者は「五感によってクルマをダイレクトに感じる新感覚の運転体験は、振動、騒音さえも、どう発生しているのか理解できることで、クルマとの味わいのある対話へと変化する」と説明する。

 KIKAIは、機能のブラックボックス化が進み、クルマが無機質なものに変化していく中で、機械としてのメカニカルな面白さこそが、人とクルマの新たな関係を築くきっかけになると提唱する。このままの姿で市販されることはないが、KIKAIに込めた開発者の思いは、未来のクルマにとって非常に大切な要素である気がする。クルマは人間にとって愛すべきパートナーであるべきだ。その前提が失われたとき、クルマの輝きは失われるに違いない。