ベクトラ 【1995,1996,1997,1998,1999,2000,2001,2002】

世界戦略車としての価値を高めた第2世代

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伝統の“インサイドファースト”思想の進化

 GMグループの海外事業の拡大展開に伴い、欧州市場でのシェアおよび業績を大いに伸ばしていた1990年代中盤のアダム・オペルAG。この上昇気流に乗って、開発現場では新世代のミディアムクラス車、すなわち次期型ベクトラの企画作りに邁進していった。

 主眼に置いたのは、伝統の“インサイドファースト”思想のさらなる進化。具体的には、人を優しく包み込む先進のパッケージングに空力特性とデザインを高度に融合させたスタイル、乗る人に安心感を与えるセーフティ技術、爽快なドライブフィールと高い環境性能などの実現を目指す。さらに、多様なユーザー志向に対応する目的で車種ラインアップの拡充も計画した。

先進の空力フォルムを纏って市場デビュー

 第2世代となる新しいベクトラ、通称ベクトラBは1995年10月に開催されたフランクフルト・ショーにおいて市場デビューを果たす。ボディタイプは4ドアセダンと5ドアハッチバックの2タイプでスタートした。

 新世代のDセグメント車となるベクトラBは、基本骨格にGMのグローバルプラットフォームであるGM2900型を大幅に改良して採用する。ホイールベースは先代のベクトラAより35mmほど長い2635mmに設定。ボディには様々なクラッシュテストプログラムのほか、コンピュータによる徹底したシミュレーションを行った新タイプのセーフティセル(殻)構造を導入した。

 懸架機構はフロントにマクファーソンストラット/コイル、リアにマルチリンク/コイルを採用し、サブフレームにマウントすることで不快な振動や騒音を抑制。また、フロントのサブフレームにステアリング機構を支持させることで、ハンドリング特性の向上も成し遂げる。さらに、オペル独自のセルフスタビライジング機構をもつDSA(ダイナミックセーフティアクスル)をセットした。

多彩なパワーユニットでユーザーニーズに対応

 搭載エンジンは排出ガス規制のEuro2に対応したガソリンユニットのX16SZR型1598cc直列4気筒OHC(75ps)/X16XEL型1598cc直列4気筒DOHC16V(100ps)/X18XE型1798cc直列4気筒DOHC16V(115ps)/X20XEV型1998cc直列4気筒DOHC16V(136ps)/X25XE型2497cc・V型6気筒DOHC24V(170ps)、同じGMグループのいすゞ自動車から供給を受けるディーゼルユニットのX17DT型1686cc直列4気筒OHCターボ(82ps)などをメインに設定。

 ガソリンの4バルブユニットは、燃焼効率を徹底追求した最新のECOTEC(EMISSION=排出ガス抑制/CONSUMPTION=燃料消費/OPTIMIZATION=最効率化/TECHNOLOGY=技術を組み合わせた名称)エンジンだった。トランスミッションには、5速MTと電子制御4速ATを採用。駆動方式はFFで、上級仕様には電子制御ASC付トラクションコントロールを装備した。

 エクステリアについては、「ダイナミックなラインとオーガニックなフォルム」をコンセプトに車両デザインを創出する。最大の特徴はフロントフードのU字ラインから流れように続くドアミラーの造形で、これらの工夫によりCd値(空気抵抗係数)はクラストップレベルの0.28(セダン)を実現。ほかにも、端正なイメージのフロントマスクや流麗なラインを描くルーフ、エッジを利かせたサイドビュー、ヒップアップしたリアエンドなどで美しくかつ洗練されたスタイリングを構築した。
 インテリアは、優れた新パッケージを活かしながら容積および形状、使用材などを徹底的に吟味した高品位のキャビン空間を実現する。インパネとスイッチ類は最新の人間工学に基づいてデザイン。車両情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイも他社に先駆けて導入する。シートはレカロ社と共同開発した逸品で、表地には上質なクロスやベロアなどを採用した。

シリーズ初のワゴンモデルの設定

 ドイツの自動車誌などで賞を獲得するなど、好評をもって市場に受け入れられたベクトラBは、1996年9月になると新しいボディタイプをラインアップに加える。ベクトラ・シリーズ初のワゴン、本国流にいうとキャラバンが設定されたのだ。
 リアセクションまで延長したセーフティセル構造ボディに包まれるラゲッジルームは、VDA測定法で460ℓの容量を確保。ダブルホールディング機構付きの6対4分割可倒式リアシートをすべて格納すると、1490ℓにまでアップした。また、取り外しが可能なカートリッジ式トノカバーや荷室とキャビンを仕切るレストレイニングネット、ラゲッジスルー付きの後席センターアームレストといった利便性の高いアイテムも装備する。スタイリングについては、Dセグメント車らしい上品な佇まいのワゴンフォルムを構築。大容量の荷物の積載を想定して、サスペンションには専用セッティングを施した。

 ワゴンの設定と時を同じくして、搭載エンジンにはX20DTL型1995cc直列4気筒OHCターボディーゼル(82ps)を追加する。さらに、翌1997年8月にはX20DTH型1995cc直列4気筒DOHC16Vターボディーゼル(100ps)を設定。また、安全装備としてサイドエアバッグを採用した。

スポーツモデル、イルムシャーの登場

 1997年中には、GM系列でドイツのチューニングメーカーであるイルムシャーが手がけたベクトラBのスポーツバージョンの2車種がリリースされる。1台はイルムシャー・ベクトラ 2.0 16V。ハッチバックボディをベースに専用デザインのエアロパーツをフル装備し、最高出力を150psにまで引き上げたX20系エンジンと専用セッティングの足回りを採用したイルムシャー・ベクトラ 2.0 16Vは、最高速度220km/h、0→100km/h加速9.5秒の俊足を披露した。

 もう1台は年末の12月に登場したイルムシャー・ベクトラi500だ。セダンボディをベースに専用デザインのエアロパーツをフル装備し、搭載エンジンに195psの最高出力を誇るX25XEI型2497cc・V6DOHC24Vを、足回りに専用の強化サスペンションを採用したi500は、最高速度236km/h、0→100km/h加速7.9秒のハイパフォーマンスを発揮した。
 車種ラインアップやエンジン設定の拡充などで、ベクトラBの販売台数はいっそうの伸びを示す。そして1996年から3年間、クラスのベストセラーモデルに発展した。

1999年にフェイスリフトを実施

 1998年中には、ベクトラBのキャラバンをベースにイルムシャーがチューニングした高性能ワゴンのイルムシャーi30が発売される。搭載エンジンには220psの最高出力を発生するX30XEI型2962cc・V6DOHC24Vを採用。足回りは専用セッティングの強化サスペンションと225/45R17Wタイヤで武装し、外装には専用デザインのエアロパーツをフル装備する。性能面では最高速度が242km/h、0→100km/h加速が6.9秒を誇った。

 1999年1月になると、ベクトラBは初のフェイスリフトを敢行する。外装ではヘッドライトやバンパーなどのデザインを刷新し、同時にグリル枠のクロームメッキ化やバンパー上部およびサイドモールのボディ同色化を実施。さらに、ドアミラーを大型化して視認性の向上を図った。内装ではシート表地など一部仕様の変更を行う。機構面では、ABSとトラクションコントロールを統合制御する進化版のTCプラスシステムの導入や足回りのセッティング変更などを実施したことが訴求点だった。

2001年モデルで搭載エンジンを大幅刷新

 2000年8月デビューの2001年モデルでは、排出ガス規制のEuro3(一部機種はEuro4)に対応した新エンジン群が新たに採用される。ガソリンユニットではZ16XE型1598cc直列4気筒DOHC16V(100ps)/Z18XE型1795cc直列4気筒DOHC16V(125ps)/Z22SE型2198cc直列4気筒DOHC16V(147ps)/Y26SE型2596cc・V型6気筒DOHC24V(170ps)、ディーゼルユニットではY20DTH型1995cc直列4気筒DOHC16Vターボディーゼル(100ps)/Y22DTR型2172cc直列4気筒DOHC16Vターボディーゼル(125ps)などを新設定した。また、亜鉛メッキ処理を強化したボディパーツを追加採用し、耐久性を引き上げる。足回りのセッティングにも変更を加え、ドライバビリティをいっそう向上させた。

 2002年3月になるとよりワールドワイドマーケットを意識した第3世代の通称ベクトラCがデビューし、ベクトラBはその車歴に幕を閉じる。名実ともにヨーロピアンメジャーと謳われたベクトラB。自動車史から見るとやや地味な存在だが、オペルにとっては間違いなく躍進に貢献した1台である。ちなみにベクトラBは1996年より当時のインポーターのヤナセの手によって日本への輸入・販売が行われる。当初はセダンのみの設定で、1997年よりワゴンが導入された。