NV200(コンセプトカー) 【2007】

ニューモデル登場を予告したプロツール

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日産の巧みなモーターショー戦略

 モーターショーにショーモデルを出品する目的は、大きく分けてふたつある。ひとつは先進技術を駆使した未来像を提示しブランドイメージを向上させること。コンセプトカーの多くはこれに属する。もうひとつは市販予定のモデルをショーカーに仕立て、ユーザーの期待感を煽ることだ。2007年の東京モーターショーに出品された「NV200」はその好例だった。多くの観客が来場し、注目が集まるモーターショーはニューモデルのプロモーションに最適の場なのである。ちなみに日産は2007年の東京モーターショーにNV200だけでなく、2代目ティアナのプロモーション車両である「INTIMA」も出品していた。モーターショーにブランドイメージを向上させるコンセプトカーと、次期市販車への期待を高めるショーカーを揃え効果的なプロモーションを行う日産の戦略は、多くの自動車メーカーのなかでも群を抜いてスマートと言える。

荷物を運ぶだけでなくオフィスにも変身するプロツール!?

 NV200は2009年5月に正式発売された新世代コマーシャルビークル、「NV200バネット」の登場を予告したショーカーだった。「本物のプロフェッショナルに」をキーワードにした1.5BOXビジネスカーである。荷室エリアに長さ1600×幅1300×高1300mmのカートリッジを搭載し、多様な使用シーンにスマートに対応するように工夫していたのが特長だった。

出品車両はプロダイバー仕様で、カートリッジ内にウエットスーツや酸素ボンベ、マリンスクーターを収納し、ダイビングスポットに到着しカートリッジを引き出すと車内がサテライトオフィスとして使えるようになっていた。荷物を運ぶだけでなく、数々の気配りでクルマそのものがオフィスにも変身する、まさにプロツールだったのだ。スタイリングは欧州のコマーシャルカーを彷彿させる機能的な造形で、側方視界を大きくした個性的な造形のサイドウィンドーが目を引いた。ショーカーはオフロード走行にも対応した大径ワイドタイヤを装着していたこともあり、安定感たっぷりで大柄に見えたが、発表されたボディサイズは全長4380×幅1700×高1840mmと小型車枠に収まっていた。ホイールベースは2800mmと全長に対し非常に長い。メカニズム面の説明は、環境性能を磨いた新世代ディーゼルの搭載を想定していること以外はなかったが、その造形の高い完成度からもNV200が市販を想定したモデルであることは容易に理解できた。

 NV200は、マツダが生産するボンゴの日産版だったバネットの後継車としてゼロから開発されたクルマだった。ルノーとアライアンスを組む日産だけにヨーロッパ的な合理感覚で設計されていたのが魅力で、衝突安全性を高めるため短いノーズを持つ1.5BOXスタイルとされた。前述の2800mmというロングホイールベースは、並みのサルーン以上の走りの安定性を実現するための工夫だった。乗用車よりもモデルライフが長いコマーシャルカーだけにスタイリングは時代を先取りしたもので、良好な視界などの機能を重視したうえで、力強さを演出するホイールオープニングや、躍動感を感じさせる短いリアオーバーハング長など既存のコマーシャルカーとは別次元のスタイリッシュさを誇っていた。機能に徹した造形だけが持つ、いわゆる機能美をNV200はしっかりと携えていたのだ。

ショーカーの輝きを持った市販型NV200バネット

 NV200は、モーターショーから1年半後の2009年5月、NV200バネットとして正式にデビューする。NV200バネットのスタイリングは、ショーカーのNV200が持っていた機能美をそのまま継承していた。特徴的なサイドウィンドー形状も共通で、ボディサイズも全長4400×幅1695×高1855mmとほぼ同じ。ホイールベースは2725mmとやや短くなっていたが、これはリアのオーバーハングをリファインしたためだった。
 NV200バネットのエンジンは1597ccの排気量を持つHR16DE型ガソリンの1種。クリーンディーゼルではなかったが、環境性能に配慮しておりクリーンカーとして減税対象車に指定されていた。ちなみに燃費は14.0km/L(AT車/10・15モード)というクラストップを誇った。トランスミッションは5速マニュアルと4速ATから選べた。

 コマーシャルカーの本分であるラゲッジスペースの使い勝手も抜群だった。荷室長1900×幅1500×高1365mmのラゲッジスペースは、コンパクト設計のリアサスペンションの効果で無駄なスペースがないスクエア形状。荷室床高を520mmと低く設定したことで積載性は優秀だった。また豊富な小物収納スペースを配置した運転席回りは、助手席を前倒しすると作業机となるなど簡易オフィスに変身する工夫を盛り込んでいた。この点もショーカーの考えが継承されたのである。

 NV200バネットがショーカーを超えていた面もあった。商業車登録のバンだけでなく、3列シートを備えた定員7名のワゴンのラインアップである。これはショーカーを見たユーザーから「遊びのツールとして、タフに使えるワゴンが欲しい」という声が多く寄せられ、それに応えてラインアップに加わったモデルだった。3列シートワゴンは、ファミリーユースを想定したモデルが主流だが、NV200バネット・ワゴンは、ユーザーの使用パターンに応じて自在にアレンジできるホワイトキャンバスのようなワゴンだった。