eKワゴン 【2013,2014,2015,2016,2017,2018,2019】

三菱と日産の合弁会社で開発した第3世代の軽トールワゴン

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


三菱自動車と日産自動車で軽自動車事業の合弁会社を設立

 2000年代に入ってからの日本の自動車市場は、軽自動車の販売比率が大きく高まっていた。長引く景気低迷のなかで、維持費が安く済み、しかも使い勝手のいい軽自動車、とくに合理的なパッケージングで室内を広くとったトールワゴン系が、ユーザーから高い支持を集めていたのだ。

 こうしたなか三菱自動車と日産自動車は、軽自動車事業についての新戦略を打ち出す。2社合弁で軽自動車の商品企画および開発など行う新会社を創業させたのだ。2011年6月、三菱自動車50%/日産自動車50%で資本構成する軽自動車事業に関わる合弁会社の㈱NMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)が設立された。“Fusion for Innovation”を社是に据えたNMKVは、事業のビジョンとして①事業を通じ、人々の生活を豊かにする②すべてを明確、簡潔にし、活動の公開性、透明性を高める③多様性を尊重し、グローバルな視野で事業を行うという綱領を、それに伴うミッションとして①三菱自動車と日産自動車の両社の経験、知見を結集し、魅力ある、革新的な商品を創造する②それらは従来の枠にとらわれない柔軟な発想と、俊敏な実行力で実現していくという目標を掲げる。生産に関しては、三菱自動車の水島製作所が担当することとした。

 新しい協業プロジェクトのNMKVが最初に企画した軽自動車は、市場の中心モデルで量販が期待できるトールワゴン系だった。また、従来から親しまれてきた車両のネーミング、すなわち三菱自動車の「eK」は引き継ぐ方針を決定した。

NMKVの第1弾モデルとして新型eKワゴン/eKカスタムを発売

 NMKVの企画による新しい軽トールワゴンは、2013年3月に実施したエクステリアデザインの公表を経て、同年6月に市場に放たれる。車名は三菱車がeKワゴン/eKカスタム、日産車がデイズ/デイズ ハイウェイスターを名乗った。

 eKワゴンが“ウツクシeK”、eKカスタムが“カッコeK”というキャッチフレーズを冠した第3世代となるeKワゴン/eKカスタムは、基本骨格に高張力鋼板の使用比率を従来の8%から56%へと高め、同時にプラットフォームの刷新や、衝突安全強化ボディのRISEおよび歩行者傷害軽減ボディの導入などを実施した軽量・高剛性のトールワゴンタイプを採用する。燃費に大きな影響をもたらす空力性能にも注力し、前後バンパーやルーフの形状を工夫するなどしてCd値(空気抵抗係数)はクラストップレベルの0.32を実現した。懸架機構にはフロントに1枚板プレス成形のロアアームやパンケーキタイプのブッシュ等を組み込んだマクファーソンストラット式を、リアに1枚板プレス成形のトレーリングリンクや厚めのゴムブッシュ等をセットしたトルクアーム式3リンクを導入。制動機構は前ディスク(ターボモデルはベンチレーテッドディスク)/後リーディングトレーリングで、EBD付ABSやエマージェンシーストップシグナル、ヒルスタートアシストおよびブレーキアシストなどの先進機構を組み込む。操舵機構には電動パワーステアリングを装備した。

 搭載エンジンは後方排気レイアウトを採用した新世代MIVECユニットの3B20型659cc直列3気筒DOHC12Vの自然吸気(49ps)とインタークーラーターボ(64ps)をラインアップし、自然吸気にはコーストストップ機能付きのオートストップ&ゴーも用意する。トランスミッションには変速比幅の広いギアレンジに設定するとともに、低アクセル開度での直結領域を拡大した副変速機付CVTのINVECS-Ⅲをセット。駆動システムには2WD(FF)とビスカス式4WDを採用した。

伸びやかなスタイルと快適室内で個性を主張

 エクステリアについては、ボディサイドのダイナミックな3本のキャラクターライン“トリプルアローズライン”と流れるようなルーフライン、抑揚を利かせた面構成などによって、伸びやかで躍動感のあるスタイルを実現する。また、eKワゴンは光沢ブラックのグリルに2本のクロムメッキライン、切れ長のアイラインの中央に瞳をイメージしたリフレクターを組み込んだヘッドランプなどで個性的な表情を、eKカスタムはフロント全体を覆う大型クロムメッキグリルやディスチャージランプを内蔵した緻密なヘッドランプなどで精悍な表情を演出した。

 インテリアに関しては、開放的で柔らかな形状のトリムに包まれたキャビン空間に仕立てる。インパネには上質なピアノブラック調センターパネルや先進的なタッチパネル式オートエアコンなどをセット。また、前席にはホールド性と座り心地を重視したベンチタイプセパレートシートを、後席にはスライド&リクライニング機構とワンタッチフォールディング機構を内蔵した5対5分割可倒式シートを装備する。内装カラーはeKワゴンが上質で洗練された印象のブラック&アイボリー、eKカスタムがスポーティかつプレミアムなイメージのブラックを採用していた。

魅力度を高める改良を精力的に実施

 eKワゴンがE/M/G、eKカスタムがM/G/Tという計6グレード構成で展開した三菱ブランドの新しい軽トールワゴンは、発売開始から1カ月あまりで月販目標5000台の3.6倍となる約1万8000台の受注を記録し、好調なスタートを切る。この上昇気流をさらに高めようと、開発陣は積極的に車種設定の拡大や一部改良を図った。

 2014年6月には、減速時の運動エネルギーを利用して発電し、その電力をニッケル水素電池に蓄えて電装品に供給するアシストバッテリーを2WD車に採用。また、CVTの仕様を最適化するとともにエンジンの吸気ダクト形状を改良することで動力性能を向上させる。同年12月には、低車速域衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM-City)と誤発進抑制機能の2つの先進予防安全技術を採用した「e-Assist」搭載車をeKシリーズの全グレードに展開。さらに、e-Assist搭載車にはアクティブスタビリティコントロール(ASC)を標準で装備した。2015年10月になるとマイナーチェンジが行われ、フロントフェイスのデザイン変更や機能装備の充実化などを実施。また、eKワゴンにターボエンジン搭載車の「T Safety Package」を、eKワゴン/eKカスタムの上級グレードに従来のe-Assistに加えてオートマチックハイビーム/オートライトコントロール/マルチアラウンドモニター(バードアイビュー機能付)を装備する「Safety Package」を設定した。走行性能に関しては、NAエンジン車にローラー付カムシャフトを採用するなどしてフリクションを低減するとともにCVT制御を見直して燃費を向上。ターボエンジン搭載車や4WD車には、オートストップ&ゴーとアシストバッテリーを新たに採用する。さらに、ダンパーの減衰力の最適化による乗り心地の引き上げ、EPS制御の最適化によるパワーステアリングの取り回し性の向上も実施した。

燃費の不正問題が発覚して生産・販売を一時中止

 着実に中身の進化と魅力度のアップを図っていったeKワゴン/eKカスタム。しかし、2016年に入ると同車の燃費不正が発覚する。きっかけは日産自動車が新たな技術開発のためにデイズの燃費性能を試験した際、公表しているデータとの違いに気づき、三菱自動車側に説明を求めたこと。三菱側の調査の結果、燃費を実際よりもよく見せるために不正な操作が行われ、また国内法規で定められたものと異なる試験方法がとられていた事実も判明した。

 この不正行為に対し、国土交通省は当該車両の調査を三菱自動車に指示。再測定の結果、最大で燃費が16%乖離していたことが明らかとなる。これを受けて三菱自動車と日産自動車は、同年4月よりeKワゴン/eKカスタムおよびデイズ/デイズ ハイウェイスターの生産と販売を中止した。

ルノー・日産アライアンスに入って再出発

 燃費修正を行った三菱eKワゴン/eKカスタムと日産デイズ/デイズ ハイウェイスターは、2016年7月より順次生産と販売を再開する。当初は大きく販売を落とすかに見えたeKワゴン/eKカスタム。しかし、従業員や関連団体などによる懸命の買い支えもあり、8月には前年同月比で18.0%増を記録した。
 2016年10月になると、日産自動車による三菱自動車への2370億円の出資完了を受け、日産が三菱自動車の発行済み株式の34%を保有する単独筆頭株主となったことが発表される。これにより、三菱自動車はルノー・日産アライアンスの一員となった。そして、新体制に移行した後の2017年1月には、eKワゴン/eKカスタムのイメージ回復を狙ってボディカラー展開の見直しやクルーズコントロールの採用などをメニューとする一部改良を実施した。

 三菱自動車の開発・生産ノウハウとNMKVによる新たなマーケティング手法が融合した革新の軽自動車であると同時に、三菱自動車の屋台骨を揺るがせる発端のモデルともなった第3世代のeKワゴン/eKカスタム。スリーダイヤを冠するクルマの歴史を語るうえで、同車は様々な教訓を残した1台である。