グロリア 【1991.1992,1993,1994,1995】

“ニューダイナミクス”を謳ったドライバーズサルーン

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1990年代向けた上級4ドアハードトップの開発

 後に“バブル景気”と呼ばれる未曾有の好況を背景に、「1990年代に技術の世界一を目指す」という“901運動”を展開していた1980年代終盤の日産自動車は、同社の高級サルーンであるグロリアとセドリックの次期型を企画する。市場ニーズなど様々な要素を踏まえて打ち出した方針は、セダンとハードトップの明確な差別化だった。

 1988年1月デビューのFY31型セドリック・シーマ/グロリア・シーマの大ヒットによって、“シーマ現象”という一大高級車ブーム、当時の言い方ではハイソカー・ブームを巻き起こした日産は、シーマのスタイリング、すなわち3ナンバー規格の4ドアハードトップが市場で高い人気を集めることを把握していた。そこで、グロリアとセドリックの全面改良を4ドアハードトップのみに絞り、セダンは既存型(Y31)の改良にとどめることを決断する。そのぶん、予算と人員を4ドアハードトップの刷新に集中。また、車種設定を従来以上にワイド化する案が決定し、日産の高性能イメージを強調するスポーティ志向のラインアップに力を入れる施策が展開された。

スポーティとラグジュアリー、2つの個性を創出

 1991年6月、9代目となる新型グロリアと8代目の新型セドリックが、Y32の型式を冠して市場デビューを果たす。今回の主役となる9代目グロリアは、キャッチフレーズに“ニューダイナミクス”を掲げ、新しい高級車の在り方を示した。ボディタイプはセンターピラーを配した3ナンバー規格のピラード4ドアハードトップボディを採用。車種展開としてスポーティ志向のグランツーリスモ(Gran Turismo)系とラグジュアリー路線のブロアム(Brougham)系、そしてブロアム系のベーシック仕様となるクラシック(CLASSIC)系を設定する。グレードとしてはグランツーリスモ系にグランツーリスモ・アルティマ/グランツーリスモSV/グランツーリスモを、ブロアム系にブロアムVIP/ブロアムVIP・Cタイプ/ブロアムG/ブロアムを、クラシック系にクラシックSV/クラシックをラインアップした。

 エクステリアは、グランツーリスモ系とブロアム系およびクラシック系で、徹底した差異化を図る。フロントマスクは、グランツーリスモ系に丸型4灯ヘッドランプを、ブロアム系およびクラシック系には変形角型2灯ヘッドランプを採用。グリルやバンパーもそれぞれ専用デザインを施し、全長はグランツーリスモ系が4800mm、ブロアム系およびクラシック系は4780mmとする。さらに、ブロアム系およびクラシック系にはフードマスコット(ブロアム系は照明付き)を装着。足元はグランツーリスモ系に6.5JJ×16アルミホイール+215/55R16タイヤを、ブロアム系に6JJ×15アルミホイール+205/65R15タイヤを、クラシック系には5.5JJ×14スチールホイール&フルホイールキャップ+195/70SR14タイヤを組み込んだ。

 インテリアも、3タイプそれぞれ独自のアレンジを施す。グランツーリスモ系は、モーブブラックの内装色にヘリボーン柄織物またはバイアス柄織物表皮の専用シートを採用。また、ブロアム系はソフトブラウン/ブラックチェリー/グレーの内装色にウール混紡モケット表皮の専用シート表皮を、クラシック系はソフトブラウン/ブラックチェリー/グレーの内装色にカラーミックスモケットまたはピンストライプ起毛トリコット表皮の専用シートを導入する。
インパネ造形は基本的に全車共通で、水平基調のダッシュボードに独立したメーターパネル、リトラクタブルスイッチボックスを装備。また、フルオートエアコン(ブロアム系はフルオートITエアコン)や電磁式パーキングブレーキリリース、4本スポークステアリングホイールなどを標準で採用する。機能アイテムとして、3ウェイエレクトロニックメーターやマルチAVシステム、オートステアリングポジションシステム、運転席オートドライビングポジションシステム、カードエントリーシステム、ホログラフィックサウンドシステムDSPなどもオプションで設定した。

パワーユニットにVG30DETとVG30DEを新設定

 基本骨格に関しては、ホイールベースを2760mmに設定した新プラットフォームに、コンピュータ解析技術と数多くの衝突実験により高剛性に設計したピラード4ドアハードトップボディを組み合わせて構成。懸架機構はフロントにハイキャスターのマクファーソンストラット式を、リアにキャンバーコントロールで旋回性能を向上させたマルチリンク式を採用し、グランツーリスモ系にはスポーティサスペンション、ブロアムVIPには電子制御エアサスペンションを組み込む。また、グランツーリスモ・アルティマには最新の4輪操舵システムのSUPER HICASも採用した。

 パワーユニットはVG30DET型2960cc・V型6気筒DOHC24Vターボ(255ps/35.0kg・m)とVG30DE型2960cc・V型6気筒DOHC24V(200ps/26.5kg・m)を新規に搭載したほか、VG30E型2960cc・V型6気筒OHC(160ps/25.3kg・m)、VG20E型1998cc・V型6気筒OHC(125ps/17.0kg・m)という計4機種のガソリンユニットと、RD28型2825cc直列6気筒OHCディーゼルユニット(94ps/18.0kg・m)を設定。トランスミッションはVG30DEとVG30Eにフルレンジ電子制御5速ATを、VG30DETに各ギア比を接近させた専用セッティングのフルレンジ電子制御4速ATを、VG20EとRD28にフルレンジ電子制御4速ATを組み合わせる。また、VG30系エンジン搭載車にはECCS(エンジン集中電子制御システム)と電子制御オートマチックユニットを連携させた統合制御システムのDUET-EAと、後輪左右の回転差に応じて駆動力を最適配分するビスカスLSDを採用した。一方、操舵機構については電子制御パワーステアリングを導入し、VG30DETおよびVG30DEエンジン搭載車にはツインオリフィス車速感応型を装備。そして、制動機構は4輪ベンチレーテッドディスクブレーキで構成し、VG30系エンジン搭載車には油圧ブレーキブースターを組み込んだ。ABSについては、ブロアムVIP系およびブロアムGに標準、その他のグレードにオプションで用意していた。

マイナーチェンジでフェイスリフトを実施

 9代目グロリアは、発売とともに大きく販売台数を伸ばす。とくに注目を集めたのは従来の高級パーソナルサルーンでは未設定だったスポーティ志向のグランツーリスモ系で、高級欧州車、BMWを彷彿させる丸型4灯式ヘッドランプを配したアグレッシブなスタイリングやVG30DE系エンジンがもたらす高性能な走りなどが好評を博し、従来の熟年層だけではなく若者層からも好評を博した。

 この勢いをさらに高めようと、日産は精力的に車種設定の強化や商品改良を実施していく。まず1992年2月には、装備を充実化させたVE30Eエンジン搭載のグランツーリスモSを追加設定。また、同年5月には日産車生産累計4000万台達成を記念したV30Eエンジン搭載の特別仕様車のクラシックSV・プライムセレクションを発売する。さらに、同年6月にはVG30DETエンジンを搭載した最上級スポーティ仕様のグランツーリスモ・アルティマLVをリリースした。

 1993年6月になると、新鮮味をアップさせるマイナーチェンジを実施。グランツーリスモ系とブロアム系ともにフロントマスクに小変更を加えたほか、ブロアム系のバンパーを刷新して全長を4800mmに統一する。また、アルミホイールのデザインやリアコンビネーションランプの配色、ボディカラーのラインアップ、インテリアのアレンジなどの変更も実施。VG30DETエンジン搭載車には、V-TCS(ビスカスデフ付トラクションコントロールシステム)をオプション設定した。車種展開の見直しも図り、クラシック系はカタログから外れてブロアムJに名称を変え、またグランツーリスモ系にはリアスポイラーやピンストライプ、専用ハードサスペンション、エクセーヌ表皮シートなどを組み込んだグランツーリスモ・アルティマ・タイプXをラインアップした。

 9代目グロリアの車種強化は、まだまだ続く。1994年1月には、V30Eエンジンを搭載した特別仕様車のグランツーリスモS・㈼、ブロアムAV・㈼、ブロアムJ・㈼をリリース。また、同年6月にはグランツーリスモ・アルティマ/グランツーリスモSV/ブロアム(VG30DETおよびVG30DE搭載車)にSパッケージを設定する。さらに、同年9月にはVG20Eエンジンを搭載するベーシックなグランツーリスモを発売した。
 1995年6月になると、当時の4年周期のモデルチェンジに倣って、グロリアおよびセドリックは新世代のY33型系に移行する。車種展開は、好評だったグランツーリスモ系とブロアム系を継承。グランツーリスモ系の特徴である丸型4灯式ヘッドランプも、洗練度を増しながら継続採用された。

最大のライバルであるクラウンと真っ向勝負した最後のモデル

 従来の高級パーソナルサルーンにはなかったスポーティ志向のグランツーリスモ系を設定して、幅広い層から熱い支持を集めた9代目グロリア(と8代目セドリック)は、最大のライバルである9代目トヨタ・クラウンのハードトップ(1991年10月デビュー)が比較的地味な印象だったこともあり、月間販売台数ではグロリア/セドリックが上回る月も多かった。
 クラウンと真っ向勝負ができ、また中古車になっても後のVIPカー・ブームの一翼を担った9代目グロリア(と8代目セドリック)。その功績は、グロリア史上で燦然と輝いている。