ファーゴ 【1980,1981,1982,1983,1984,1985,1986,1987,1988,1989,1990】

スタイリッシュな本格ワゴン

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いすゞ哲学を貫いたワゴンの開発

 エルフ・バンという優れた商用キャブオーバー車を生産していたいすゞ自動車は、市場環境の変化に伴い多目的ワンボックスの企画を始める。そのなかで、とくに重視されたのがデザインだった。従来の商用バンとは異なる、レジャー用のワンボックスにふさわしいエクステリアとは--。
 いすゞの開発陣は外部のデザインスタジオと共同でエクステリアを手がける決断を下す。白羽の矢を立てたのは、117クーペなどのデザインで信頼関係を築いていたイタル・デザインのジョルジエット・ジウジアーロだった。当時、いすゞとイタル・デザインは117クーペの後継となるアッソ・ディ・フィオーリ、後のピアッツァのデザインを共同で開発していた。それと同時進行で、新ジャンルの多目的ワンボックスも手がけようとしたのである。

カプセルをキーワードに斬新デザイン創造

 多目的ワンボックスをデザインするに当たり、いすゞのスタッフは「カプセル」という基本コンセプトを掲げる。シンプルなスタイルの中に、しなやかさやつややかさ、緊張感を合わせ持ったカプセル形状を志向したのだ。具体的には、ガラスとボディをフラッシュサーフェス化して優れた空力特性を実現し、ヘッドライトなどのパーツ類は上質でシンプルに仕立てる。さらにガラス面積を大きくとって、広角視界と室内の開放感を創出しようとしたのである。ちなみにこのカプセル・コンセプトは、スペシャルティカーのピアッツァでも採用された。
 カプセルの中身となるインテリアに関しては、ソフトパッドを配した未来感覚のインパネ、長距離移動でも疲れないシート形状、視認性がよく使いやすいスイッチデザインなどで構成する。注目の2/3列目レッグスペースも、クラス最大級の広さを確保した。

市場での反応は--

 1980年12月、いすゞ渾身の多目的ワンボックスが「ファーゴ」のネーミングを冠して発表される。車種構成は9/10人のワゴンと商用車のバンを設定。ワゴンは2Lディーゼルエンジンのみ、バンは1.8L/2Lディーゼルに加えて1.6L/2Lのガソリンエンジンが選べた。
 シンプルでセンスのいい上質な外観や広いガラスエリアを持つファーゴは、デビュー当初は大きな注目を集める。しかし、販売成績は予想外に伸び悩んだ。当時のワゴン車に流行していた回転対座シートやサンルーフ、さらにオートマチックトランスミッションなどを設定しなかった点が、ユーザーの購入欲を削いだのである。
 この状況を打開するために、開発陣はファーゴの改良を相次いで実施していく。1982年7月にはワゴンLSに回転対座シートとサンルーフを装備。同年11月にはパワーステアリング装着車をラインアップに加える。1984年1月には2Lディーゼルターボを設定し、11月にはワゴンに4WD車を用意した。1986年に入ると、1月にマイナーチェンジを実施して内外装の意匠を一新。1987年1月には2WD車にオートマチック車を加える。同年11月には、ワゴンが全車ディーゼルターボ化された。

 ファーゴはその後も1991年と1993年にマイナーチェンジを実施し、結果的に1995年まで販売が続けられる。しかし、販売成績が大きく回復することはなかった。ライバル車との数字を比較すると、決して成功作とはいえない初代ファーゴ。ただし、上質でセンスのいいデザインやディーゼルエンジンの高い耐久性、さらにしっかりとしたボディーなどを評価する熱烈なファンは多かった。1台のファーゴを長く乗り継ぐ、またはファーゴからファーゴに乗り換えるリピーターが、珍しくなかったのである。このあたりは、同社の乗用車であるジェミニやピアッツァなどと同様の傾向だった。