ビート 【1991,1992,1993,1994,1995,1996】

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開発者の熱意が凝縮

 1991年5月、ホンダは軽自動車としては初めてとなるミッドシップの2シーター・オープンスポーツ、「ホンダ・ビート」を発売した。それは走りの楽しさを徹底追及した本格派で、メカニズムはもちろん、スタイリングからインテリアまで開発者の熱意が結晶した異色の軽自動車だった。
 ビートは、シャシーやボディーパネルは完全な新設計だった。ただしエンジンだけは軽乗用車のトゥデイ用の水冷直列3気筒SOHCユニットを基本としていた。主に吸・排気系に大改造を加え、圧縮比を上げるなどで、排気量656ccの自然吸気まま、64ps/8100rpmの最高出力と6.1kg・m/7000rpmの最大トルクを得ている。これだけの高出力をターボチャージャーなどの過給装置を付けず、自然吸気のままで実現しているのはさすがにエンジン屋のホンダである。過給装置を用いなかったのは、絶対的な速度よりも、スポーツカーらしいエンジン・レスポンスの良さにこだわったため。車重は760kgと決して軽くは無いが、オープンボディーであるための各部強化やトップの収納装置などで重量増を招いたのだ。トランスミッションはマニュアルの5速で、0→400m加速18.7秒、0→100km/h加速13.4秒の性能は、小型スポーツカーとして十分魅力的な値となっている。

緻密な設計。リトルスーパーカー!

 ブレーキは4輪ディスク・ブレーキ(軽自動車初)となっているのは当然だが、装備されるタイヤのサイズは、前が155/65R13、後が165/60R14と僅かながらリアタイヤの方が太く大きい。重量バランスや駆動力のスムーズな伝達などのために採用されたものだ。ちなみにスペアタイヤはフロントフードの下に置かれ、スペースを節約するためにT115/70D14サイズのテンパータイヤとなっている。

 横から見て、ボディの丁度真ん中に座ることになるミッドシップ・エンジン車独特のドライビングポジションは、サイドラインが軽自動車としては比較的高位置にあり、同時にフロント・ウィンドウも強く寝ているためもあり、ドライバーズシートに座ると2.0リッター級の高性能スポーツカーに乗り込んだときのような感じがある。インスツルメンツも安っぽさは微塵もなく、ポルシェなどにも通じるある種の高級感さえ感じさせた。全体の造りが小ぶりなのは、軽自動車であることを思い出させる部分だ。室内に物置として使えるスペースが少ないのは仕方の無いところ。オーディオは別付けのオプション設定となっている反面、サイドウィンドウはパワー・ウィンドウであり、エアーコンディショナーは標準装備としていた。また、キャンバス製のトップは手動による開閉となる。

造形にはピニンの影響が!?

 スタイリングは明らかにイタリアン・カロッツェリアのピニンファリーナの影響を感じさせる。しかしホンダ自身はそのことを認めていない。ただ誰がデザインしていようと、ビートのスタイリングは軽自動車という枠を取り払っても十分魅力的なものとなっている。たしかに、軽自動車というサイズにこだわらず、自由にデザインしたなら、もっと異なるスタイリングになったであろうことは間違いないが、それはまた別の話である。
 ホンダ・ビートは、軽自動車というサイズ的な制限があったからこそ、これだけ合理的でかつ新しいスタイルになったのだろうと思われる。ちなみに、車名のビート(BEAT)とは「鼓動」とか「羽ばたき」などの意味を持つ。ホンダ・ビートは、軽自動車というジャンルに、大いなる鼓動と羽ばたきをもたらしたのだと言える。