アルト・ワークス 【1987,1988】

俊足を誇った“ジャイアントキラー”

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タウンカー、アルトの大きな挑戦

 ベーシックカーとして合理的な設計を施したアルトは。使いやすく、しかも経済的なタウンカーとして女性ユーザーを中心に爆発的な人気を博し、確固たる地位を確立する。アルトの魅力は1984年にモデルチェンジした2代目で一段と磨きがかかった。しかしアルトにも弱点が存在した。走りの楽しさである。

 アルトは誰もが簡単に運転できる気軽さと、燃費を含めた優れた経済性を主眼に設計されたクルマだった。エンジンはピークパワー以上に常用域でのトルクを重視した調律で、足回りもソフトだった。アルトの乗り味はタウンカーとしては満足のいくものだったが、当然ながら血気盛んなスポーツ派ドライバーには物足りなかったのである。スズキはこの不満解消に挑戦する。

手始めにDOHCエンジンを開発!

 軽量コンパクトなアルトは、小気味いい走りを生むベースモデルとして高いポテンシャルを持っていた。この事実をスズキの開発陣は見抜いていた。なにしろスズキは1968年にクラス初の3気筒&3連キャブレターを組み合わせた最高出力36psのフロンテSSを送り出し、その後もマイクロスポーツカーのフロンテ・クーペなどでマニアの心を虜にしてきた“スポーツの伝統”があった。

 スズキ開発陣は、手はじめに1986年7月に軽自動車初のDOHCエンジンを積むアルト12RSを投入する。12RSのDOHCユニットは1気筒当たり4バルブの凝ったバルブシステムと電子制御燃料噴射装置を組み合わせ543ccの排気量から42ps/7500rpm、4.2kg・m/6000rpmを生みだした。レッドゾーンは8000rpmオーバーである。専用に設定された足回りと相まって、12RSの速さは際立っていた。下りのワインディングロードで、リッターカーを追い回すのは朝飯前だった。

鮮烈なDOHC12Vターボ。レッドゾーンは9500rpm!

 12RSに続き、アルトのスポーツモデルの真打ちとして登場したのがワークスである。ワークスはすべてが別格だった。エンジンはクラス最強の64ps/7500rpm、7.3kg・m/4000rpmを誇るDOHC12Vターボ。レッドゾーン9500rpmオーバー、リッター当たり出力117.8psを誇る生粋のスポーツ心臓である。ターボの最大過給圧は0.9kg/cm2と高めの設定で、水冷式インタークーラーも備えていた。白金スパークプラグ、油圧式ラッシュアジャスター、エンジン各部の剛性アップなど信頼性面への配慮も万全だった。トランスミッションはクロースレシオ設定の5速マニュアルである。

 ワークスはFFレイアウトのRS-XとRS-S、そしてフルタイム4WD仕様のRS-Rの3グレードが設定されていた。絶対的な速さは軽量なRS-XとRS-Sが上回ったが、荒れた路面や雨などの悪天候下では、もはや前輪だけで64psを支えるのは難しかった。ドライビングには細心の注意と相応のスキルを要求したのだ。それに対しビスカスカップリングを用いたフルタイム4WD仕様のRS-Rは、悪条件化でも優れた走行安定性を示した。4WDモデルの悪癖だったコーナリング時のアンダーステア傾向も適度に抑えられていたため、オールラウンドで64psパワーをフルに路面に伝達可能だった。

速さは1.6リッタークラスに匹敵!とにかく痛快

 ワークスの速さは軽自動車の水準を完全に超えていた。信号からの発進加速は鋭く、ワインディングロードではまさに水を得た魚。高速道路でもスピードの伸びは衰えなかった。走りのポテンシャルは1.6リッタークラスのスポーツモデルとほぼ同等、場合によってはそれを上回った。とくに痛快だったのは道幅の狭い山岳セクションだった。右足の踏み込みに即応して盛り上がるターボパワー、ドライバーの意思に忠実なハンドリング、そして信頼感たっぷりのブレーキの相乗効果でまさに無敵と言えた。コンパクトスポーツならではの素晴らしい走りの世界がそこにはあった。絶対スピードはもちろんだが、クルマを操る楽しさがたっぷりと味わえるワークスは、マニアにとって“最高のオモチャ”だった。

 ビビッドな色遣いのインテリアや、空力特性をリファインする専用エアロパーツなどワークスは走りだけでなく、眺めるだけでもワクワクする要素に溢れていた。開発陣の遊びゴコロがストレートに結晶した逸材、ワークスは“ジャイアントキラー”の称号が似合うピュアスポーツだったのである。