1000スポーツ 【1967,1968,1969】

SUBARUの先進性を象徴した生粋スポーツセダン

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技術者のこだわりが結実したスポーツモデル

 SUBARU(スバル)初の本気スポーツモデル、それが1967年10月に登場した1000スポーツだった。スバル1000は、水平対向エンジン&FFレイアウトという、現在に続くスバルのアイデンティティを決定づけた傑作車だ。

 スバル1000はカローラやサニーと同様に手頃なサイズの大衆車として誕生している。しかしカローラやサニーが上級クラスの忠実なダウンサイジング版で、メカニズム面で冒険が少なかったのに対し、スバル1000は理想の走りと豊かな室内スペースのため随所に先進技術を投入していた。当時、世界中を見渡してもスバル1000ほど凝ったメカニズムを持ったクルマは稀だった。スバル360を生みだしたスバルらしく、飛行機作りの系譜を持つ技術者のこだわりの結晶だったのである。

 1000スポーツは、もともと高いポテンシャルを持っていたスバル1000の走りの性能を磨き込んだ逸品だった。エンジンはもちろん、足回りやトランスミッション、内外装のディテールに至るまですべてをスポーティに仕上げていた。その徹底ぶりは英国のミニに対する、ミニ・クーパーを彷彿させた。ひとクラス上の上級スポーツ車を凌駕するハイパフォーマンスの持ち主だったのだ。

最高出力67ps! ラジアルタイヤ標準

 1000スポーツの心臓は、徹底的なファインチューンが施されていた。977ccの排気量と水平対向4気筒OHVというレイアウトこそベースモデルと共通だったが、圧縮比は9.0から10.0に高められ、カムシャフトのプロファイルを高回転型に変更。キャブレターは可変ベンチュリータイプのSU型ソレックスを2基となり、エグゾーストも排気効率に優れたデュアルパイプとなっていた。

 この結果パワースペックは標準比12ps/0.4kg・mアップの67ps/6600rpm、8.2kg・m/4600rpmを実現する。組み合わせるトランスミッションはスポーツ走行に適したクロスレシオ設定の4速フロアシフトで、クラッチも高速タイプのダイヤフラム・スプリング式である。

 フロントがウィッシュボーン式、リアがトレーリングアーム式の足回りはトーションバーの線径を太くしてばね定数をアップすると同時に15mmローダウン化が図られ、ブレーキもフロントが先進のディスク式に変更された。タイヤも145SR13サイズのブリヂストン・スーパースピードラジアル10を標準で装着する。パワフルなFF車の場合、エンジンパワーをフルに路面に伝えるには良質なタイヤが必須だが、1000スポーツはその必須条件を見事にクリアーしていたのだ。ちなみに国産車でのラジアルタイヤ標準装着はトヨタ2000GTに続き2台目。量産モデルとしては1000スポーツが初だった。

パフォーマンス鮮烈。ただし乗り手を選んだ

 内外装も完全なスポーツ仕立てである。フロントマスクはブラックアウトされたグリルに1本のメッキ横バーが走る精悍な処理で、リアランプもバックランプを一体化した専用形状。ブラックタイヤとシンプルなホイールキャップ、ルーフサイドの専用アンテナなどのディテール処理も凝っていた。

 室内は回転計を中央に配置した3連メーター、専用セパレートシート、ウッド調リムの3本スポークステアリング、ルーフ部までブラックで仕上げたインテリアカラーなどが独特の個性を放った。

 1000スポーツの走りは超ホットだった。トップスピードの150km/hは瞬間最高速ではなく、状況さえ許せば巡航可能な最高速で、0→400m加速も17.7秒と俊敏。ノーマルの3.6回転から2.9回転へとクイックになったステアリングの反応も素晴らしく、まさに生粋のスポーツモデルだった。

 ただし乗り手を選んだのも確かで、乗りこなすには相応のテクニックが必要とした。なにしろ取り扱い説明書に「エンジンは3500〜6000rpmを常用回転数とし、4速ギアでは2000rpm以下は使用しないこと」と明記されていたのだ。4速ギアは完全に高速走行用で、通常のドライビングではつねに他車より低いギアを選ぶ必要があった。1000スポーツはピーキーなエンジン性格を熟知し、FFレイアウトの特性を知ったドライバーの手に掛かると驚くほど速かった。しかしビギナーにはスムーズに走らせるのさえ難しいクルマだった。まさにスバルの作品らしい玄人好みの1台だったのである。

独創技術のひとつ、国産初のデュアルラジエターとは?

 スバル1000はスポーツを含めデュアルラジエター方式を採用していた。これは一般に採用されていた冷却方式とは異なっていた。メインとサブの2つのラジエターとリザーブタンク、サブラジエター用の小型電動ファンで構成した密封加圧式の冷却システムで、通常の冷却方式と違ってメインラジエターには冷却ファンがなかったのだ。

 デュアルラジエター方式は走行状態によって3段階の効率的な冷却を行い、エンジンの出力ロスを抑えると同時にエンジンのファンノイズを一掃。静粛性の向上に貢献した。さらに冬期にはサブラジエターが強力な暖房の熱源として機能したためヒーター効果にも優れていた。もちろんオーバーヒートの心配はなく、長期間冷却液の補充や交換が不要なこともメリットだった。