三菱エコ01 【1996,1997,1998,1999,2000】

量産車世界初の“筒内噴射ガソリンエンジン”の開発と拡大展開

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“筒内噴射ガソリンエンジン”への挑戦

 1980年代初頭には純国産ターボチャージャーを組み込んで軽自動車からフラッグシップまでの“フルラインターボ”を成し遂げ、さらに1980年代中盤以降はシリンダー内に層流を引き起こして燃焼効率を高めた“CYCLONE”(サイクロン)エンジンを拡大展開させた三菱自動車工業。内燃機関の革新に情熱を燃やす同社の開発陣は、1990年代に入ると“筒内噴射ガソリンエンジン”の実用化を本格的に推し進めた。

 筒内噴射ガソリンエンジンは、一般的なガソリンエンジンのように空気とガソリンをあらかじめ混合してから吸入させるのではなく、空気だけを多量に吸入させたシリンダー内にガソリンを直接噴射する仕組みである。開発陣はこれを形成するために、シリンダー内の空気の流れを制御する直立吸気ポートや空気の流れと燃焼を制御する湾曲頂面ピストン、シリンダー内に直接ガソリンを噴射するために必要な高圧燃料を供給する高圧燃料ポンプ、そして噴霧の微粒化と分散を制御する高圧スワールインジェクターなどを設けた。

薄い混合気で安定した燃焼を実現

 実際の燃焼は、まず吸気段階でシリンダー内に空気だけを吸入。直立吸気ポートによって強い下降流が生まれ、湾曲頂面ピストンの形状と相まって、これまでのエンジンとは逆向きの強いタンブル旋回流を形成。圧縮段階でこのタンブル流がより強められたところに、高圧スワールインジェクターにより微粒化されたガソリンを直接噴射。ガソリンはタンブル流と湾曲頂面ピストンにより、拡散することなく素早く気化。燃焼しやすい層状を保ちながら点火プラグ周辺に混合気が集まり、力強く燃焼、という行程を踏む。これにより空燃比40:1という従来のガソリンエンジンの半分以下の薄い混合気で、安定した燃焼を実現した。

 この新燃焼システムを構築したうえで、開発陣はさらに低燃費と高出力の2つの燃焼モードをバランスさせるチューニングを行う。低燃費モードでは、圧縮段階の後期にコンパクトな球状の霧化ガソリンを噴射し、層状混合によって安定した超希薄燃焼を達成。高出力モードでは、吸気段階でガソリンをコーン状に噴射し、均一混合による強力な燃焼を実現した。

ギャラン/レグナムに搭載されて市場デビュー

 渾身の筒内噴射ガソリンエンジンは“GDI(Gasoline Direct Injection)”と名づけられ、1996年8月に8代目「ギャラン」と新型ワゴンの「レグナム」に搭載されて市場に放たれる。4G93型1834cc直4DOHC16V・GDIユニットは、10・15モード走行燃費が約35%も向上する。また、トルクと出力ともにほぼ全域に渡って約10%アップし、さらにCO2の排出量にいたっては約35%の削減を成し遂げた。

 GDIエンジンは1980年代のサイクロンエンジンなどと同様、矢継ぎ早にラインアップを拡大していく。まず1997年5月には、マイナーチェンジ版の「パジェロ」に6G74型3496cc・V6DOHC24V・GDIエンジン(245ps/35.0kg・m)が積み込まれる。燃料消費とCO2排出量は約30%低減した。同年7月になると、マイナーチェンジ版の「ディアマンテ」に6G72型2972cc・V6DOHC24V・GDIエンジン(240ps/31.0kg・m)が採用される。燃料消費とCO2排出量はやはり約30%削減された。1997年10月に入るとスペースユーティリティワゴンのシャリオがフルモデルチェンジし、「シャリオ・グランディス」となって市場に放たれる。搭載エンジンは新開発の4G64型2350cc直4DOHC16V・GDIユニット(165ps/23.5kg・m)で、10・15モード走行燃費は11.6km/L(FF)に達した。また翌11月には、2代目「RVR」に4G64型と4G93型のGDIエンジンが設定された。

コンパクトカーから大型車まで多彩なGDIエンジンを開発

 GDIエンジンの拡大展開は、まだまだ続く。1998年6月には「パジェロiO」が4G93型のGDIエンジンを搭載して市場デビュー。このとき、低燃費状態であることを知らせる“GDI ECOランプ”を装備した。1998年12月になると、“スマート・ユーティリティ・ワゴン”を標榜する「ミラージュ・ディンゴ」が発表される(発売は1999年1月)。搭載エンジンは新開発の4G15型1468cc直4DOHC16V・GDIユニット(105ps/14.3kg・m)で、10・15モード走行燃費は16.2km/L に達した。

 1999年9月に入ると、3基の新GDIが登場する。まず3代目となる新型「パジェロ」が、改良版GDIの6G74型エンジン(220ps/35.5kg・m)を採用。6G74型は2つの燃焼モード切り替えを設定すると同時に、中空カムシャフトの採用や各部材のアルミ化などにより従来比で約10kgの軽量化を達成した。次にマイナーチェンジ版のディアマンテが、新開発の6G73型2497cc・V6DOHC24V・GDIエンジン(200ps/25.5kg・m)を搭載する。10・15モード走行燃費はクラストップレベルの13.0km/Lに達した。3基めは新コンパクトハッチの「ピスタチオ」が採用する新開発の4A31型1094cc直4DOHC16V・GDIエンジン(74ps/10.2kg・m)で、これには新しい制御技術の“ASG(オートマチック・ストップ&ゴー)”が組み合わされる。“GDI-ASG”を採用したピスタチオは、同年12月より自治体などを対象に限定販売された。この販売と同月、デボネアの実質的な後継モデルとなる高級パーソナルセダンの「プラウディア」と本格リムジンの「ディグニティ」が発表される(発売は2000年2月)。旗艦エンジンには新開発の8A80型4498cc・V8DOHC32V・GDIユニット(280ps/42.0kg・m)を採用し、“移行期低排出ガスレベル(J-TLEV)”に適合した。

 コンパクトカーからRVにいたるまで、多様なジャンルで環境対応エンジンのGDIを展開した三菱自工。一方で同社は、GDIの技術を他メーカーにも売り込む。結果的にフィアットやプジョー、ボルボ、ヒュンダイといったメーカーが筒内噴射ガソリンエンジンを採用するに至った。