トヨペット・スポーツX 【1961,1962】

圧倒的な人気を集めたトヨタ初のショー出品プロト

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1961年ショーの主役となったスポーツX

 1961年10月に開催された「第8回全日本自動車ショー」のトヨタ・ブースは開催期間中、いつも熱気に包まれていた。スタイリッシュな2ドアクーペ、「トヨペット・スポーツX」が展示されたからである。その年のトヨタ・ブースの主役は、発売されたばかりの大衆車パブリカのはずだった。しかし来場者は、「現実的な夢」よりも、「憧れ」に飛びついた。上品なダークブルーメタリックに塗られたトヨペット・スポーツXの前には、いつも幾重もの人垣が出来ていたという。ちなみに現在でこそ、モーターショーにプロトタイプを出品するのは一般的だが、1961年当時は異例のこと。トヨタにとってモーターショーへのプロトタイプモデル出品は、トヨペット・スポーツXが初めての経験だった。

 トヨペット・スポーツXは、イタリア調の流麗なスタイリングを持った2ドアクーペで、当時のクラウンより280mm長く、160mm低いボディに、1900ccの105psユニットを搭載。トップスピードは180km/hに達すると公表された。しかしショーではボンネットフードを開けてエンジンを見せることも、詳細なメカニズムの説明をすることもなかった。市販前提のモデルではなく、あくまで今後のトヨタのデザインの方向性を提示したスペシャルカーという性格だったようだ。

2代目クラウンのメカニズムを先取りした流麗クーペ

 残された写真から判断すると、トヨペット・スポーツXは1962年に登場する2代目クラウン(RS40型)のメカニズムを先取りしたプロトタイプと推察できる。RS40型は新設計のX型フレームの採用で、低くスマートなシルエットを実現する。スポーツXはこのX型フレームを先取りしており、それが低いボディシルエットを実現した要因だった。サスペンションもRS40型と同様で、フロントがダブルウィッシュボーン式、リアはトレーリングリンク式が組み合わされていた。

 スタイリングは、シャープなラインが印象的である。ボディタイプは2ドアクーペ。伸びやかなボディに対してコンパクトなキャビンを組み合わせることで、軽快なイメージを計算していた、ドアはサッシュレスタイプ。全体の印象は、1960年11月のイタリア・トリノショーで発表され、トヨペット・スポーツXと同様に1961年の全日本自動車ショーに展示されたプリンス・スカイラインスポーツと同様に上品で、上級パーソナルカーに相応しい雰囲気を醸し出していた。縦型リアランプを配置したリアエンドには、当時のピニンファリーナ・デザインの影響も感じられた。

デザインはトヨタ社内と関東自工のデザイナーの合作!?

 トヨタはデザイナーの名を明言しなかった。スポーツXはトヨタの社内デザイナーと、実際にボディを製作した関東自動車工業のデザイナーの合作と受け取るのが順当なようだ。4灯式ヘッドライトを配置したフロントマスクや、サイドにくっきりとキャラクターラインを入れたデザイン手法など、R40型クラウンと共通するテーストが、海外のデザイナーではなくトヨタ社内で手がけたことを物語る。強い印象を与えるボンネット上にレイアウトしたウインカーにしても、1971年に登場する4代目クラウン(MS60&70型)に繋がる萌芽と受け取れる。ちなみにトヨタは1960年に登場した2代目スタウト(小型トラック)にもボンネットマウントのウインカーを採用していた。ウインカー形状で個性を表現する手法は、当時のトヨタデザインの得意技といえた。

 インテリアは、シートを含めすべて本革で仕上げた豪華仕様。職人の技と美意識が印象的な仕上がりだった。トヨペット・スポーツXは、モーターショーに登場しただけで市販モデルに発展することはなかった。しかし、そのデザインエッセンスは、その後の多くのトヨタ車に生かされていく。コンセプトカーの使命を、今後の市販車の方向性を先取りする存在と考えると、大いに意味の合った習作である。