日本カー・オブ・ザ・イヤーの歴史06 【1996,1997,1998】

地球規模の環境対策への見事な処方箋

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ガソリン直噴でCO2を大幅低減

 1990年代後半は環境問題があらためてクローズアップされた時代である。それもかつての公害問題のように局所的な汚染に対する対策が求められるのではなく、グローバルな地球規模での環境対策、処方箋が必要とされた。豊かな生活の代償として排出されるCO2(二酸化炭素)が問題視され、その総量を抑制することが、地球を地球として存続するために不可欠と理解されるようになったのである。

 クルマはCO2排出の元凶のひとつだ。1996-1997年は、この点に着目しエンジンそのものの本格改良に取り組んだギャラン&レグナムがイヤーカーに輝いた。ギャラン&レグナムは、環境改善の切り札として、シリンダー内にガソリンを直接噴射するGDIエンジンを搭載していた。

 GDIエンジンは“より低燃費、よりパワフル、よりクリーン”を合い言葉に開発された新世代エンジンで、従来エンジンと比較して+10%のパワー、−35%の燃費を実現。結果的に−35%のCO2排出量削減を目指していた。ところで高い燃焼効率を誇る直噴エンジンは、ディーゼルでは採用例があったものの、ガソリンエンジンではかつてメルセデス・ベンツ300SLに搭載されたのみ。ガソリンエンジンの直噴システムを成立させるためには緻密な燃料コントロールが必要とされるため、それがネックとなり実用化が見送られてきた。三菱自動車ではGDIエンジンの開発に先立ってエンジンの燃焼状態を徹底的に解析。シリンダー内の状況を可視化できたことがGDI実用化のブレークスルーとなったという。

熟成不足が招いた不本意なつまずき

 ギャラン、そしてそのワゴン版であるレグナム用の4G93型DOHC16Vエンジンの排気量は1834cc。最高出力はクラス水準を上回る150ps/6500rpmを発揮し、最大トルクも18.2kg・m/5000rpmと豊かだった。しかも燃費は従来の35%アップ。カタログスペック的には、まさに夢のエンジンといえた。搭載車に選ばれたギャラン&レグナム自体もエンジンだけでなく各部に先進的なアイデアを盛り込んでおり、クルマ自体が魅力的な存在だった。

 イヤーカーを受賞したギャラン&エテルナの販売は好調に滑り出す。メーカーが予定した販売目標台数を大きく上回る受注が殺到し、メーカーは増産体制を敷いた。さらにギャラン&レグナムだけでなく、他の生産車にも順次GDIエンジンを搭載していくことを表面。三菱自動車はGDIエンジン“フルライン化”に向けて邁進する。

 しかし三菱自動車はGDI化をやや急ぎすぎたようだ。GDIエンジンは、あくまで新規の技術である。エンジンの熟成には相応の時間を必要とした。ギャラン&レグナム用の1.8Lエンジンは確かにカタログスペック的にはパワフルさと良好な燃費を実現していた。だが実際の日常使用ではさほど燃費はよくなかった。走り方によっては従来エンジン以上に燃費が悪化することもあった。指定ガソリンがプレミアムだったのもネックだった。期待値が高かっただけにユーザーの失望は大きく、GDIエンジンに対する不信感が募る結果となってしまう。

 三菱自動車は、積極的なリファインに取り組みGDIエンジンはしだいにカタログ値どおりの実力を発揮するようになる。しかし、その頃にはユーザーの興味はすっかり薄れていた。新世代エンジンの決定版として期待されたGDIだったが、船出はけっして順風満帆ではなかった。

世界が驚愕したプリウスの革命性

 翌1997-1998年のイヤーカーに輝いたトヨタ・プリウスは、高い技術レベルと完成度の高さで日本だけでなく世界中の自動車シーンに大きな影響を与えた。プリウスは、いままで生産された数多くの日本車のなかで最もエポックメーキングな存在といえた。“21世紀に間に合いました”というキャッチコピーとともに登場したプリウスは、すべてが画期的だったのだ。

 なにより世界中が驚いたのが先進のハイブリッド・システム。GDIが、エンジン本体の改良で環境問題に挑戦したのに対し、プリウスでは動力システムそのものにメスを入れ、CO2を排出しない電気モーターと、高効率エンジンを組み合わせたハイブリッド・システムを開発した。燃費は従来のガソリンエンジン車に比べ2倍(10・15モード燃費28km/L)、つまり排出されるCO2は2分1に過ぎなかった。同時にシステム全体のクリーン化にも積極的に取り組み、排出ガス中のCO、HC、NOXも規制値の約10分の1レベルとしていた。クリーンでしかも燃費がよく走りも俊敏。プリウスは21世紀のクルマに求められる要素を、いち早くすべて実現していた。

ハイブリッドが提示した未来像

 プリウスは、まさに画期的なクルマといえた。なにしろモーターショーに参考出品されるコンセプトカー・レベルの高い環境性能を市販車として実現していたのだ。

 じっさいの走りも未来的で、不要なときにはエンジンを積極的に停止させる点が印象的だった。とくにエンジンがストップした停止時の静けさと、モーターが先行し、後からエンジンが追いかける独特の発進スタイルはプリウス独自の世界を作り上げていた。

 実際の実用燃費も驚異的で、走りも合格点。プリウスは従来のエコカーの基準をすべて塗り替え、あらたな世界のベンチマークとなるに相応しいクルマだった。欧米のセレブリティもこぞってマイカーにプリウスを選んだ。それはプリウスが世界で最も地球環境に配慮したクルマだったからである。環境先進国である日本の技術力を世界に証明したショーピースがプリウスといえた。