ホンダ・ビートvsスズキ・カプチーノ 【1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998】

軽スポーツCARカテゴリーで展開された“BC対決”

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バブル景気を背景にした軽スポーツの開発

 1980年代後半は軽自動車の高性能化が一気に加速した時代だった。スズキのアルト・ワークスやダイハツのミラ・ターボ、三菱自動車のミニカ・ダンガン、富士重工のスバル・レックス・コンビ・スーパーチャージャーなどがハイパフォーマンス軽自動車トップの座を目指して凌ぎを削る。ユーザーにとっても安い価格と維持費で速いクルマを購入できるため、このムーブメントは歓迎された。

 1990年1月に軽自動車の規格が改定されてエンジン排気量が660cc以内、ボディサイズが全長3300×全幅1400×全高2000mm以内になると、各自動車メーカーはこぞって新規格に合わせた軽自動車をリリースする。当時はバブル景気真っ盛り。豊富な開発資金を背景に、意欲的なニューモデルが数多くデビューした。同時に、より高性能な軽自動車の登場を望む声が一気に高まる。これに応える形で、メーカー側は軽ピュアスポーツの企画を積極的に推し進めた。

ミッドシップレイアウトを採用したホンダ

 まず先陣を切ったのは、本田技研工業だった。1991年5月、軽自動車初の本格的な2シーターミッドシップスポーツとなる「ビート」を市場に放つ。
 スタイリングは固まり感のあるコンパクトなオープンボディを基本に、ミッドシップの証しであるサイドの大型エアインテークや手動開閉のソフトトップ、低くワイド感あふれるフロントノーズなどで個性を主張する。一方のインテリアでは、ドライバー中心のキャビンレイアウトにモーターサイクルを思わせる3眼メーター、ゼブラパターン表地のバケットシートなどを装備した。

 動力源については「ハイパワーはもちろん、どこまでもドライバーの気持ちに直結した小気味よいレスポンス」を追求した新開発の“660 MTREC 12VALVE”エンジンを搭載する。ベースとなったのは、既存のE07A型656cc直列3気筒OHC12V。ここに、ホンダF-1テクノロジーを応用した多連スロットルと2つの燃料噴射制御マップ切り換え方式によるハイレスポンス・エンジンコントロールシステムの“MTREC”(Multi Throttle Responsive Engine Control System)を組み込んだ。ほかにも、クラス初の大気圧センサー内蔵ECUの採用や10.0の高圧縮比、ステンレス製トリプル・エグゾーストマニホールドおよび大径エグゾーストパイプの装着、ピストン/コンロッド/メタル類の強化、オイルパン容量の拡大などを実施し、エンターテインメント性と信頼性のアップを図る。スペックに関しては最高出力が64ps/8100rpm、最大トルクが6.1kg・m/7000rpmを発生した。

スズキはFRレイアウトの軽スポーツを企画

 ホンダ・ビートのデビューから5カ月ほどが経過した1991年10月、スズキ初のリアルスポーツ軽自動車が「カプチーノ」の名で市場デビューを果たす。開発陣が目指したのは、乗ることで心を開放してくれるオープンマインドの2シータースポーツだった。開発に携わった一人のエンジニアは、「当時の開発スタッフは英国の伝統的なライトウエイトスポーツのファンが多かった。スポーツカーを造るなら、やっぱりオープン2シーターにしたいという意見が強かった」と、当時を振り返る。

 カプチーノのルーフは、古典的なソフトトップではなかった。頂上部は着脱ができる分割式のアルミ材パネルを採用し、外したパネルはトランク内に収納可能。リアガラスを組み込んだルーフ後部は、そのままの形でボディ内に押し込むことができた。その結果、ハードトップ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンという4通りものボディ形態が楽しめた。

カプチーノはパワフルなターボを搭載

 開発陣はメカニズムにもこだわった。エンジンはアルト・ワークス用のF6A型を縦置きにして搭載し、後方に専用シャフトドライブを通してFRの駆動方式を実現する。ロングノーズ&ショートデッキのボディとフロントミッドシップ化したエンジンの搭載位置は、前後重量配分51対49という好バランスを達成した。さらに足回りには前後ダブルウィッシュボーンサスと4輪ディスク(フロントはベンチレーテッド式)、専用開発の165/65R14サイズのラジアルタイヤを奢った。

 斬新なMRレイアウトに自然吸気の高回転型エンジンをセットするビートに対し、伝統的なFRレイアウトとパワフルなターボエンジンを採用したカプチーノ。未来的かつスポーティな内外装に古典的なソフトトップを組み込んだビートに対し、クラシカルなアレンジの内外装に創意工夫のルーフを備えたカプチーノ−−。車両レイアウトや内外装の造形など、設計思想を異にする2車だったが、走りの楽しさという点では甲乙つけがたく、それぞれに熱心なファンがついた。
 バブル景気の崩壊やレクリエーショナルビークル(RV)の隆盛もあって、ビートは1996年に、カプチーノは1998年に販売を終了する。しかし、カタログ落ちした後も2車は熱い支持を受け続け、ユーズドカー市場で高い人気を博したのである。