BRZ 【2012〜】

ボクサーエンジンを積んだ珠玉のFRスポーツ

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トヨタとの提携が名車を生んだ

「瓢箪から駒」の諺にもあるように、世の中には時々思いもかけないものが生まれることがある。2005年10月にトヨタ自動車とスバルの富士重工業(現SUBARU)との間で締結された資本提携という瓢箪は、その7年後にスバルBRZ(とトヨタ86)という駒を生み出すことになった。両車とも、最近の日本車には珍しい本格的なライトウエイトスポーツカーであり、スバルが持つメカニズムの優位性とトヨタが持つスタイリングデザインのノウハウや販売上の利点を融合したとも言える、極めて特徴的なクルマなのである。

 スバルが、技術偏重の傾向があることは、第二次世界大戦後の1953年に富士重工業が設立された時から受け継がれたことであった。1958年に軽自動車のスバル360を発売して本格的な自動車生産を開始している。その後のスバル1000、レオーネなどでメーカーとしての地歩を確実なものとしたが、メーカーとしてのスケールが決して大きくはなく、経営的には常に不安定なものであった。日産自動車との提携(1968年)やアメリカのGMとの提携(2000年)を経て、最終的にトヨタ自動車との提携に至るのである。

 経済的なことはともかく、世界でも最も早い時期から水平対向型エンジンを採用した前輪駆動車(1966年のスバル1000)を発売、また世界の趨勢に先駆けて4輪駆動システムの実用化(1972年のレオーネ エステートバン)を果たすなど、技術的な先進性は大いに注目を集めている。このスバルとトヨタが共同開発した最初のモデルがスバルBRZであり、トヨタ86である。

BRZと86はディテール違いの双子の兄弟

 スバルBRZとトヨタ86は事実上の双子車であり、バッジエンジニアリングと言って良い。群馬県にある生産工場では、BRZとトヨタ86が同じラインで生産されている。両車の異なるところと言えば、フロントグリルをはじめボディ細部の意匠と室内の艤装、サスペンションセッティングがわずかに異なる程度のもの。したがって、直接比較するのでなければ、乗り味の違いなどは明確にはわからないレベルだ。ただしバッジエンジニアリングとはいえ、BRZは86から単に派生したモデルではなく、スバルとトヨタの英知を結集して作り上げたスポーツカーだ。まさしく両社のスポーツパッションが結集したモデルと言える。具体的には企画をトヨタが担当。開発・生産はスバルが行った。

 スタイリングは、基本的にはハイデッキ、ロングノーズの2ドアクーペで、定員は4人だが、後部座席は特に傾斜の緩いリアウィンドウのためにヘッドスペースが必然的に狭く、事実上2+2となる。ハッチゲートは持たない。これは、高いボディ剛性を追求したためで、多用途性を求めたデザインではないことの現れだ。きわめて単純明快なコンセプトである。車名のBRZとは、装備される水平対向型エンジン(Boxer Engine)と駆動方式であるリアホイールドライブ(Rear Wheel Drive)そして究極を意味するゼニス(Zenith)のイニシャルを採ったもの。いかにもスバルらしい技術指向の強いネーミングである。デビュー当初のBRZのモデルバリエーションは、上級からS、R、RAの3種だった。

ボクサー+直噴の新開発エンジン

 スバルの技術陣は、トヨタとの共同開発で新型スポーツカーを開発するに際し、自らが長年にわたって培ってきた水平対向型エンジンは最適であると考えた。左右幅はあるが、シリンダーの位置が低い分だけ低重心化がしやすいからである。スポーツカーにとって、低重心であることは大きな要素だ。実際にBRZに搭載されたエンジンは、スバルがインプレッサやフォレスターなどに使っていた排気量1994㏄の水平対向型4気筒DOHC16バルブ(FB20型、出力148ps/6000rpm)をベースに、トヨタが独自に開発したガソリン直接噴射システムであるD-4Sを組み合わせたもので、排気量は1998㏄となっている。形式名はFA20型とされ、出力は200ps/7000rpmへと向上している。

 トランスミッションは6速マニュアルと6速オートマチックが選べる。オートマチックトランスミッションにはパドルシフトやエンジン回転を制御するブリッピングコントロールなども装備される。実際の販売において、マニュアルシフト仕様が6割以上と高い比率を示している。スバルBRZやトヨタ86が人気を集めた効果で、マニュアルトランスミッションの復権も囁かれている。

軽量ボディで俊敏な走りを実現

 サスペンションは前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後ろがダブルウィッシュボーン/コイルスプリングの組み合わせ。スタビライザーは前後サスペンションに備わる。ブレーキは全車種とも前がベンチレーテッドディスクで、RAとRグレードの後輪がソリッドディスクとなり、Sグレードでは4輪ベンチレーテッドディスクとなる。

 電子制御によるABS(アンチロッキングブレーキシステム)のほか、VDC(ヴィークルダイナミックコントロール)、TRC(トラクションコントロール)を備えており、モードを切り替えることで、5つの走行モードを選択することが可能。また、ABSとトルセンLSD(リミテッドスリップデファレンシャル)はいかなる場合にも有効になる。装備されるタイヤは前後とも215/45ZR17サイズが標準装備となる(Sグレード)。車両重量は仕様によって若干の差はあるが、1190㎏~1250㎏となっており、この種のモデルとしては十分に軽い。

 トップスピードは法規上180㎞/hで抑えられているが、実力的には220km/hオーバーに達する。燃料は無鉛プレミアム(ハイオク)仕様で、燃料タンク容量は50リッター、燃費はJC08モードで1リッターあたり12.4~13.4㎞となっているから、満タンではおよそ600kmは走れる計算になる。ボディーカラーはスバルのイメージカラーであるWRブルーマイカなど全部で7種が設定されている。

ピュアで高性能なスポーツカー

 スバルBRZは、その開発コンセプトで謳われているように、「ピュア ハンドリング デライト=新しい次元の運転する楽しさ」を実現するために生み出された。水平対向エンジンによる低重心、軽さ、コンパクトネスを十分に生かし、さらにフロントエンジンによる後輪駆動方式の採用により、誰もが気軽に安心して高性能な走りを楽しめることを最大の狙いとしている。電子デバイスによるコントロールを最小限度に抑えて、ステアリングを握るドライバーの意思を尊重しながら、安全かつ快適に走ろうというわけだ。

 すっきりしたスタイリングや扱いやすいボディーサイズ、十分な性能を秘めたエンジンをはじめとするドライブトレーンの完成度の高さなど、実際に走らせてみると、その魅力は掛け値なしであることが分かる。日本が世界に誇るスポーツカーの1台である。