プロジェクト2&4パワードby RC213V(コンセプトカー) 【2015】
スーパーバイクのエンジンを搭載した4輪スポーツ
未来のクルマは、「移動のための道具」と、「ドライビングそのものを楽しむためのアミューズメントマシン」に分化するのではないだろうか。インターネットを代表する情報環境の進化により、人間のコミュニケーション手段は大きく変化した。ひと昔前までは、実際に会うことがコミュニケーションの基本だった。ビジネスでもプライベートでも、多くの人は人に会うためにクルマで移動した。しかし、現在はそうではない。メール、ツイッター、SNS、インスタグラム……、コミュニケーションの手段は多様になっている。その結果、クルマでの移動は、コミュニケーションの手段としては上位に位置するものではなくなった。以前よりも相対的にクルマの価値は下がっている。
そのことも関係しているのだろうか。クルマを移動のための道具と割り切る層が主流になってきている。道具と考えたときに重要となってくるのは、何より安全性とイージーさ、そして効率。自動運転化の流れはそのニーズを反映した技術に他ならない。“面倒な運転”から解き放たれ、安全に移動出来ることが何より、と考える層は今や世界中で増大している。
クルマには元来、操る歓びが存在する、と考える層は健在だ。人間の身体能力をはるかに超越したスピードで、ドライバーの意のままに動かす歓び、それをクルマ本来の魅力の重要な要素と考える、いわばドライビングを“スポーツの一種”と捉える考え方である。クルマは誕生以降、一貫してスピード性能を追い求め、モータースポーツは、クルマの発展に大きな貢献をしてきた。その背景には、クルマのドライビングは楽しい!という考え方が根底にあった。
ドライビングを“面倒”と考えるか、“楽しくワクワクする”と思うかは人によってさまざまだが、クルマの本質的な魅力を考えると、楽しいと考える層は永遠になくならないだろう。いやなくしてはならない要素だと個人的には考える。なぜならそのエンターテインメント性こそが、クルマを他の多くの道具、例えばいわゆる白物家電と区別する大きな要素だと思うからだ。前置きが長くなったしまった。本題に戻そう。
ホンダが2015年のフランクフルト・モーターショーで世界初公開し、同年の東京モーターショーにも展示した「ホンダ・プロジェクト2&4・パワードby RC213V(以下プロジェクト2&4)」は、“楽しい自動車”の未来像を示唆する存在として注目に値する。
プロジェクト2&4は、世界中のホンダの2輪と4輪のデザインスタジオから80名以上が参加して行われた社内コンペティション「グローバルデザインプロジェクト」で選ばれたコンセプトモデル。量産や市販を想定して開発されたものではない。あくまでデザインコンセプトカーとして製作されたワンオフ車だ。
デザインは、1960年代のフォーミュラワン世界選手権(F1)に参戦していたマシンをモチーフにしており、レイアウトはミッドシップ構成の4輪車。2&4プロジェクトのユニークな点は、そのネーミングが示しているように2輪車の魅力と個性を4輪車に盛り込んだ点にある。ボディ構造は、2輪車のようなフレームとボディカウルによって構成しており、シートはむき出しのフローティングタイプ。4輪車でありながら、全身でオープンエアが体感できる運転席は2輪車に近い。
エンジンは、FIMロードレース世界選手権(Moto GP)のMoto GPクラスに参戦しているRC213Vの公道仕様車「RC213V-S」用の999ccV型4気筒エンジンを採用。1万3000rpmの超高回転で215psの最高出力を発揮する2輪レーサーならではの心臓と、専用開発の6速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)との組み合わせで圧倒的なパフォーマンスを追求した。
プロジェクト2&4が目指したのは、究極の人車一体感。2輪と4輪のデザイナーがタッグを組み、「人をワクワクさせたい」という純粋な思いで作り上げたという。チーフデザイナーのマーティン・ペターソン氏(本田技術研究所・2輪R&Dセンター)はデザインについて「テーマは“むき出しの美しさ”です。ホンダのマシンを構成する最大の要素であるメカニカルな美しさは、むき出しの状態でこそ際立つのです。発想の原点は面白く、新しい乗り物を作りたいという熱意でした」と語る。
プロジェクト2&4は、人がクルマとの対話を楽しむ究極のスポーツマシンだ。快適性についてはまったく配慮されていない。荷物はまったく積めない。安全性は自己責任。でも、スポーツ派ドライバーにステアリングを握ってみたいと思わせる強いインパクトを秘めている。楽しいクルマの魅力は永遠。プロジェクト2&4からはそんな強いメッセージを感じる。