Rolls-Royce Dawn Black badge 1 【2017年】
BMWグループから生まれた新世代ロールスロイス
1906年に英国で設立されたロールス・ロイス社の長い歴史は、経営破たんから国有化、その後も多くの買収に関わり、経営的には波乱に満ちたものであった。しかしながら高級車の代名詞としてのゆるぎないポジションは絶対的なものであり、今日に受け継がれている。
現在は良く知られるように2003年に「ロールス・ロイス」ブランドの乗用車を生産・販売する権利を得たBMWが同年、新会社「ロールス・ロイス・モーター・カーズ」をイギリス南部のウェスト・サセックス州グッドウッドに設立し、乗用車の製造・販売を行っている。
まず、はじめに登場した「ファントム」は、2003年から生産を開始。ファントム・エクステンディッド・ホイールベース、ファントム・ドロップヘッド・クーペ、ファントム・クーペをラインナップ。古き良きロールス・ロイス・ブランドにふさわしいイメージを持ち、その堂々たるサイズとスタイルは、まさにプレミアムカーの頂点を極めたモデルだった。
さらに、2009年3月のサロン・アンテルナショナル・ド・ロトで、コンセプトモデルの「ロールス・ロイス・200EX」が公開され、その後「ゴースト」に改名。「ファントム」よりやや小型のサルーンで、ロールス・ロイスのイメージを一新することになる。これまでの「ファントム」は、限られた富裕層によるマーケットで、販売されていたが、他のプレミアムブランドの高額サルーン・ユーザーのステップアップモデルとなり、ロールスロイスユーザーの幅を広げたのである。
事実、「ファントム」は大型プレミアムサルーンのユーザーにとっての憧れであったが、ゴーストの登場までは価格的、サイズ的に限られたハイエンド・ユーザーしか手に入れることができなかった。ゴーストは、その名門ブランドのイメージをそのままに、新たなユーザーの確保、その幅を広げることに成功し、ロールス・ロイスの新しい戦略を展開することになるのである。
さらに、ゴーストのメカニズムを共有する2ドアクーペの「レイス」が登場すると、そのユーザー層はロールス・ロイスが狙い通り、一気に若返っていく。若くして成功したVIP達はレイスのスタイリングや雰囲気に魅了されたのだ。
ロールス・ロイスという保守的で伝統的なブランドが、それまでのセオリーを覆す新鮮なスタイリングや、オーナードリブンにふさわしいパフォーマンスを与えることで、若き成功者の感性を刺激し、質の高い走行性能が高く評価された。事実、レイス・ユーザーの多くは50歳を下回ったと言われ、シニアのための超高級車ではなく、若返りに成功したのである。
「レイス」は、ロールス・ロイスのブランドがBMWに移るよりも遥か昔の1938年から39年に製造されていた2ドアクーペのプレミアムモデルで、2013年のジュネーヴ・モーターショーで、実に70年以上の時を経てその名が蘇り、ゴーストのクーペ版としてラインナップに加えられたのだ。「レイス」(Wraith )とは、日本語で「幽霊」「生霊」を意味するスコットランド語である。
そして、2015年9月のフランクフルト・モーターショーで発表されたドロップヘッドスタイルの4シーターモデル「ドーン(DAWN)」によって、ロールス・ロイスはさらに若返っていく。
新型のドロップヘッドクーペとして登場した「ドーン」は、1940年代から1950年代にリリースされていた「シルバードーン」のドロップヘッドクーペをモチーフに開発されたソフトトップのオープンモデルで、ベースモデルは「レイス」と言われているが、実際には全体の80%もの部分が専用に設計されていることから、単純に「レイス」のドロップヘッドクーペ版ではない。
エクステリアはゴーストやレイス同様、伝統的なロールス・ロイスの設計とモダンデザインが融合した美しいスタイルで、インテリアについても、レザーやウッドを多用してゴージャスかつ上品に仕上げられている。
パワートレーンにはV型12気筒6.6リッター 直噴ツインターボエンジンとZF製8速ATの組み合わせで、駆動方式は2WD(FR)のみ。最高出力は420kW(570PS)/5250rpm、最大トルクは780Nm/1500-5000rpm、車両重量は2640kg、最高速度はリミッター制御によって250㎞/hに抑えられるが、他を圧倒するスペックが与えられる。ロールス・ロイスの荘厳さに加えて、開放的なオープンドライブを楽しむことのできる完全なドライバーズカーであり、スポーティなパフォーマンスを含めて言うまでもなくロールス・ロイスの狙い通り、ユーザーの若返りに成功したモデルである。
ロールス・ロイスの新しいイメージをさらに強調するべく登場した新たなプログラムがブラック・バッジ・シリーズだ。その名のとおり印象的なブラックカラーを基調にしたクールで都会的なイメージを持ち、性能面も含めて、ドライバーズカーとしてのキャラクターが色濃く反映されているのが大きな特徴である。
まず、2016年に「レイス」と「ゴースト」のブラック・バッジモデルが登場。上品なクローム・シルバーから光沢のあるブラックに変更されたスピリット・オブ・エクスタシーをはじめ、シルバーに黒いRRの文字のバッジは反転され、黒地にシルバー文字でRRと入る。これがブラック・バッジの由来であり、クロームに輝くパルテノングリルやトランクリッドのフィニッシャー、さらにエキゾーストパイプなども専用のクロームサーフェスに仕上げられている。他にも21インチの専用ホイールは開発に4年を掛けたというカーボンコンポジット製で、パフォーマンスも向上。ロールス・ロイスのラグジュエリーなイメージにダイナミックかつスポーティなテイストが与えられ、世界的にこれまでのロールス・ロイスのカスタマーは、さらに若返りを果たすと同時に新しいユーザーの囲い込みに成功した。日本のマーケットでも人気は高く、実にブラック・バッジが40%程度占めているという。そして、2017年6月には「ドーン」にも「ブラック・バッジ」が追加される。さらにロールス・ロイス初のSUVとして2018年10月に発表された「カリナン」にも翌2019年に「ブラック・バッジ」がラインナップされている。