Rolls-Royce Dawn Black badge 2 【2017年】

ドロップヘッドクーペの最高峰

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中川和昌
ブラック基調が際立つスピリット・オブ・エクスタシー。

ゴージャスかつ高性能なロールス・ロイス「ドーン」はドロップヘッドクーペの頂点ともいうべき1台で、これに勝るモデルは存在しないと思う。1940年代から50年代のドロップヘッドクーペ、「シルバードーン」の名を受け継ぎ、2015年に発表されたドーンは、BMWグループ以前の1950年代の「シルバークラウドⅡドロップヘッド」や1960年代の「シルバーシャドー コンバーチブル」、1970年代の「コーニッシュ」といった、ロールス・ロイス伝統のオープンモデルを継承している。言うまでもなく、ロールス・ロイスの中でドライバーズカーとしてパーソナル性の強いモデルとして位置づけられるが、それをより強く望む新しいタイプのカスタマーとブランドの若返りを狙うマーケティング戦略に対応して登場したのが、「ドーン・ブラック・バッジ」である。
 まず際立つのは、先に触れたように、「ブラック・バッジ」の名の通りハイグロス・ブラック・クロームに仕上げられたスピリット・オブ・エクスタシーをはじめ、シルバーとブラックが反転された黒地にシルバーのダブルRのエンブレムやパルテノングリルやトランクリッド・フィニッシャーなどだ。

アピアランスにふさわしい専用装備。

さらにオプティカルな部分だけでなく、搭載される6591ccV型12気筒ツインターボエンジンは、標準モデルのドーン用では最高出力420kW(570ps)、最大トルク820Nmを発揮するのに対し、ブラック・バッジ用はチューンナップされ、442kW(601ps)と840Nmを発揮する。1インチアップの21インチ・カーボンコンポジット・ホイール採用やそれに伴いブレーキディスクも大径化されるほか、ウインカーレバータイプのシフトレバーに備え付けられた「low」ボタンを押すと、V12 エンジンの中低音が更に強調される新しく開発されたビスポークのエキゾーストも注目すべきシステムで、同時にサスペンションやZF製8速ATトランスミッションはよりスポーツライクな設定に切り替わり、よりエキゾーストノートを強調するとともに、走りも軽快になる。こうしたメカニズムは、ドバイバーズ・カーとしての魅力を強調するもので、明らかに新世代ロールス・ロイスであることを主張している。

デザイン的にもブラックを基調。

もちろん、デザイン的にもブラックを基調としている。ソフトトップはブラックキャンバス仕様、リアデッキはブラックレザー。インテリアも上質なブラックレザーを基調として、夜のとばりが降りる前の夕日をイメージして、オレンジレザーのハイライト・ストリップでコクピットを囲んでいるところも見逃せない。他にも1930年代、ロールス・ロイスのエンジンで数多くの速度記録を樹立した偉大な先駆者でパトロンの一人でもあったサー・マルコム・キャンベルに敬意を表して、彼がシンボルとした「インフィニティ(∞)」がリヤ・ウォーターフォールに美しく刺繍され、ロールス・ロイスの栄光とブラック・バッジの威厳を表現している。こうした細部に至る魅力的な演出が「ドーン・ブラック・バッジ」がドライバーズカーであることを強調している。

ドライバーズカーであることを強調。

ゴーストやレイス同様、前開きの大きなドアをドアトリム上部にあるクローズドスイッチで閉めて、コクピットに収まると、ロールス・ロイスであることを実感するが、かつてのモデルとは異なるイメージに気が付く。
 ロールス・ロイスは、BMWグループになる以前、1931年にベントレーを傘下の収め、それ以後のベントレーは1990年代までロールス・ロイスのバッジエンジニアリングを行ってきたことはよく知られている。この2本立てによるそれぞれのキャラクターは明確で、すべてのモデルではないが、基本的にはロールス・ロイスはショーファードリブン、ベントレーはドライバーズカーとしてスポーツ性を盛り込んでいた。そのふたつの魅力がひとつのブランドに盛り込まれるようになったのが今日のロールス・ロイスであり、ドライバーズカーであることを強調しているのが「ブラック・バッジ」シリーズなのである。「ドーン・ブラック・バッジ」はドロップヘッドクーペ
として、ほかの「ブラック・バッジ」よりスポーツ性やパーソナル性を強く感じさせてくれる。

あくまでジェントルなパフォーマンス。

エンジンスタートボタン押した途端、中低音の重厚なエンジンサウンドが差別化を明確にしている。通常のロールスロイス・エンジンはパワフルでありながらその存在を抑えているのだが、「ドーン・ブラック・バッジ」は、専用のエキゾーストシステムによってスポーツ性を盛り込んでいるのである。さらにスロットルレスポンスもシャープで、ペダルの動きに対して反応は鋭い。サスペンションも専用のセッティングとなる。とはいえ、一般的な高性能モデル用意する場合は、各部にこうしたスポーツライクなチューニングを加えることで、乗り心地が硬くなったり、加速に対する動きが唐突かつシャープになったりと、その違いが明確に表れる。ところが、「ドーン・ブラック・バッジ」の凄いところは、ロールス・ロイス本来の重厚でしっとりとした乗り心地に大きな変化はなく、ノーマルのドーンと比べたら、高性能化は明らかだが、レスポンスやパワーはあくまでジェントルなのである。
 走り出すと、それをさらに感じることができる。ソフトトップでありながら、重厚な6層構造によって、クーペやサルーンと変わらない静寂さが保たれる。全長5295mm、2.6tを超える重量級ボディを走らせているとは思えないフィーリングも魅力的だ。0-100km/h加速4.9秒というだけのことはあるが、その感覚はあくまで上品で、極太トルクによって、優雅に速度を上げていく。アクセルペダルを強く踏み込まむ必要もなく、力強く発進するし、ボディの重さをまったく感じさせず気持ちよく加速し、速度を上げていく。さらに、加減速やブレーキングに対してもスムーズで、フラット感はあくまでジェントル。乗り心地の良さは、ボディの重さがポジティブな方向に貢献しているのであろう。うねりがある路面ではゆったりと滑らかな上下動終始するし、路面の不整は、丁寧にショックを吸収して、マジックカーペットライド、いわゆる魔法の絨毯と言われる乗り心地の良さは、さすがとしか言うほかない。
 ステアリング操作に対して、クルマの挙動は極めて正確かつ忠実であることも見逃せない。ステアリング・ギヤ比はそれほどシャープではなく、操作量は若干多いものの、車速に対して正確で、ニュートラルステアに近い挙動で上品に気持ち良く、向きを変えていくところにBMWの大型サルーンの片鱗を感じることができる。重厚でありながらドライバーズカーとしての魅力を兼ね備え、「ドーン・ブラック・バッジ」との繋がりを感じさせてくれる。

伝統的な持ち味をモダンに仕立てたインテリア

独特で上質な手触りのレザーを使用してたっぷりとしたクッションを持つシートの座り心地の良さもロールス・ロイスらしい。ぶ厚いフロアカーペットも、ラグジュアリー性と伝統を強く感じさせる。スウィッチ類も伝統的なデザインを意識して、プッシュ式、ロータリー式、さらに上下に動かすトグル式が組み合わせられ、メーター類もクラシカルな雰囲気を持ち、伝統的な持ち味をモダンに仕立てている。
時速50m/hまで走行中でも操作が可能な電動開閉式のソフトトップの開閉にかかる時間は22秒。しっとりと無音のままに開閉するのが特徴で、作動音はまったく聞こえてこない。ソフトトップを開け、サイドウィンドウも開けたままで走ると、風はそれなりに巻き込むが、不快感は少ない。もちろんサイドウィンドウを上げて走れば、巻き込みは少なくなり、高速でもオープンエアを楽しむことができる。
パルテノンの上に鎮座するハイグロス・ブラック・クロームのスピリット・オブ・エクスタシーを眺めながら、走らせているのは至高の喜びであり、ロールス・ロイスならでは贅沢な世界観に包まれる。