マーチ 【2002,2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009,2010】
コンパクトカーのベンチマークを目指した3代目
1999年にルノーとのグローバルな提携関係を構築し、「リバイバルプラン」と呼ぶ改革案に沿ってドラスティックな組織改革やコストカット、系列関係の打ち切り、販売網の整理などを矢継ぎ早に実施していった日産自動車。その最中にあって開発現場では、新型モデルの企画に汗を流していた。
日産自動車のボトムラインを支え、モデルチェンジの時期も迫っていたマーチに、開発陣は大いに力を入れる。開発のメインテーマとして掲げたのは、「次世代コンパクトカーのベンチマークを具現化する」こと。その方策として、開発陣は「コンパクトカーのカスタマーニーズ」と「マーチらしさ」を念頭に置きながら企画を推し進めた。同時に、環境と安全の性能を最高レベルに仕立てることも重視し、創意工夫を凝らしながら先端技術を組み込んでいった。
スタイリングは、特徴的なシルエットやバランスのいい量感などで従来のコンパクトカーの常識を超えた革新的なデザインを追求する。フロント部はキュートな印象のヘッドランプとグリルにインテグレートされたターンシグナルで個性的な顔を演出。サイドは水平基調のショルダーラインやマーチらしさを強調するアーチ状のルーフラインによって、乗りやすさと心地よさを外観から表現した。リアビューは空力とデザインをバランスさせたルーフエンドや安定感のあるフォルムで存在感を強調する。ボディカラーは全12色を設定。そのうち、「友達と一緒にカフェでランチ」をテーマとした専用色のパプリカオレンジ/アクアブルー/フレッシュオリーブ/アプリコット/ビーンズという5タイプのコミュニケーションカラーを用意した。
内装は「デザインと機能性が融合したハイクオリティでファッショナブルなインテリア」が開発テーマ。ラグビーボールのようにラウンドしたインパネは、乗員の有効な視界を確保するために低位置にレイアウト。そのうえで、機能部品を中央部に集中配置する。ヘッドルームやニースペースなど、空間自体も従来型より拡大させた。また、開発陣はインテリアカラーついても注力し、フレンドリーさを強調した“エクリュ”、ライブリー(生き生きとした)を表現した“シナモン”、シックな雰囲気を演出した“クリーク”という3タイプの個性的なバリエーションを設定する。装備面でも、インテリジェントキーやカーウイングス(日産情報サービス)といった先端アイテムを積極的に盛り込んだ。
プラットフォームに関しては、ルノーと共同で完成させた新設計の“Bプラットフォーム”を採用する。サスペンションはフロントがオフセットコイルスプリングやボールベアリングアッパーマウントなどを装備したストラット式で、リアが大型アームブッシュを組み込んだH型トーションビーム式。搭載エンジンは新開発のCR型系ユニット(CR14DE型1386cc/CR12DE型1240cc/CR10DE型997cc)を設定した。ミッションについては、ルノー製の5速MTと日産企画のフルレンジ電子制御4速AT(E-ATx)をラインアップする。
3代目となる新しいマーチは、K12の型式を付けて2002年2月に発表、3月から発売される。ボディタイプは3ドアハッチバックと5ドアハッチバックの2種類を用意。キャッチフレーズには、「あなたを見つめて、進化したスモール」と冠していた。
市場に放たれたK12型系マーチは、まずそのスタイリングや内外装カラーで注目を集める。2002年内には経済産業省選定のグッドデザイン賞を獲得。さらに、パプリカオレンジ/シナモンの内外装色の組み合わせおよびコミュニケーションカラーが日本流行色協会(JAFCA)主催のオートカラーアウォード2003のグランプリに輝いた。ちなみに、オートカラードアウォードにおけるK12型系マーチは、2006年にチャイナブルー/アイスブルーの組み合わせで、2008年にサクラ/カカオの組み合わせでグランプリを獲得している。
K12型系マーチは個性的な内外装のほか、エコ性能や経済性の高さでも脚光を浴びる。エコの面では、タンデムタイプ超低ヒートマス坦体触媒や連続可変バルブタイミングコントロールによる内部EGR効果の採用などにより国土交通省の低排出ガス車認定制度における「超-低排出ガス車」(平成12年基準排出ガス75%低減レベル)に認定。また経済性では、2010年燃費基準に適合した結果、グリーン税制の優遇措置を受けることができた。
開発目標として「マーチらしさ」を追求した開発陣は、K12型系のデビュー後も歴代マーチの伝統、すなわち長い時間をかけた熟成と進化、さらにバリエーションの拡大を着実に実施していく。
2002年9月には、FFをベースに後輪をモーターで駆動する「e・4WD」仕様を追加。2003年になると、7月にスポーティグレードの「14s」が、10月にはオーテックジャパンがチューニングを手がけたスポーツモデルの「12SR」が市場に送り出される。2004年に入ると、4月にマイナーチェンジを実施して新鮮味をアップさせ、12月には特別仕様車の「iセレクション」やオーテックジャパンの手によるレトロ調の「ボレロ」を設定した。
K12型系マーチの進化は、まだまだ続く。2005年4月には、スウェード調シートクロスを採用した「プレミアムインテリア」仕様を発売。同年8月にはマイナーチェンジを図り、内外観のリニューアルやHR15DE型エンジン搭載車の設定、スポーツモデルの「15SR-A」グレードの追加などを実施する。さらに2006年6月には、イギリスの有名デザイングループであるコンラン&パートナーズ社とのコラボモデル、「Plus CONRAN」(プラスコンラン)を期間限定でリリースした。
2007年に入ると、6月に質感向上や機能性のアップなどを念頭に置いた内外装のマイナーチェンジを敢行。7月には、英国日産自動車製造会社で生産する電動開閉ハードトップ車の「マイクラC+C」(マイクラはマーチの欧州市場名)を日本に輸入して販売した。さらに10月と11月には、マーチ誕生25周年を記念した特別仕様車を市場に放った。
K12型系マーチは、2008年と2009年にも特別仕様車を相次いでリリースし、ユーザーから好評を博す。そして2010年になって、ようやく新しいマーチが誕生することとなった−−といっても、これは東南アジアのタイでの話。タイ日産自動車会社において、新型グローバルコンパクトカーの「マーチ」がラインオフしたのである。
実はこのタイ産マーチは、日本にも輸入され、4代目マーチとして市場デビューを果たす。大量販売を見込める主力車種を海外移管するのは、日本の自動車メーカー初の出来事だった。この結果、K12型系の3代目は、日本産(追浜工場産)最後のマーチとなった。だが生産国が変更されても、歴代マーチが築き上げてきた伝統と美点は継承されている。4代目は、日本で生まれ世界で愛されるマーチだからこそ可能とした新たな生産システムによって、マーチらしさを訴求した。