CR-Z 【2010,2011,2012,2013,2014,2015,2016,2017】
エコと走りが融合!元気なスポーツハイブリッド
2010年2月、ホンダはハイブリッドモデルの第3番目となるHONDA CR-Zを発売した。ホンダらしくアルファベットを並べた車名は、「Concept Renaissance Zero」のイニシャルに由来する。「コンセプト ルネッサンス ゼロ」とは判ったような、判らないような不思議な言葉だが、要するに「新しいコンパクトスポーツカーを生み出すことを目的に、原点に立ち返る」と言った意味である。かつてのコンパクトスポーツCR-Xの系譜を継承するクルマという意味も持っていたようだ。
CR-Zはホンダのハイブリッドカーの3号車としてデビューしたが、初代のインサイト(2人乗り、直列3気筒995㏄エンジン+モーター付き)が実験車的な意味合いのクルマだったから、直接的には2代目インサイト(4ドア、1.3リッター直列4気筒エンジン+モーター付き)のスポーツ仕様と考えていい。
1999年11月に発売された初代のインサイトは、初期段階のハイブリッドカーということもあり、量産モデルとしては考えられないほどの贅沢な設計が施されていた。シャシーからボディパネルの主要部分は大幅な軽量化のために全てアルミニウム素材で作られ、スタイリングも航空機用の風洞を使っての空力的試験を重ね、徹底した空気抵抗の減少が試みられていた。
初代インサイト用に開発した、全く新しいパワートレーンとなった、ホンダの独自開発による電動モーターによるパワーアシスト機構である初期のIMA(Integral Motor Assist)システムは、生産効率が良いわけではなかった。したがって初代インサイトは、量産によるコストダウンも期待できず、一説によれば、一台当たりのコストは通常のリッターカーの十数倍に達していたと言う。つまり、作れば作るほど、赤字となってしまうわけである。これでは、ホンダが早々に生産を中止せざるを得なかったことも分かろうというものだ。
こうした事情から、ホンダは本格的なハイブリッドシステムを搭載した市販車となった第2世代のインサイトでは、実用性と経済性を最優先に、しかも生産性の向上も視野に入れた開発を行い、2009年2月に発売した。空力重視のハッチバックスタイルの4ドアモデルとして5名乗車を可能とし、快適装備の充実やナビゲーションシステムの拡充などを行っている。ボディは高張力鋼板を全体の25%に使用するなど、衝突安全性の確保と軽量化、生産性の向上を図っている。パワートレーンは排気量1339㏄の直列4気筒SOHCエンジン(最高出力88ps/5800rpm)にモーターを組み合わせたハイブリッドシステム。初代のインサイト同様、ホンダの独自開発によるIMAが大幅な改良を受けて搭載された。車重は1200㎏と、同じクラスのモデルに比べても十分な軽量化を果たした。
ガソリンエンジンと電気モーターという2つのパワートレーンを持っているハイブリッドカーは元来スポーティーな走りを持っている。特にトルクフルなモーターの特性を生かしたスタートダッシュの素晴らしさは、通常のガソリンエンジン車にはないもので、これだけでもハイブリッド車に乗る価値はある。第2世代のインサイトのスポーティーモデルを望む声は強く、ホンダはその期待に応える形で“ハイブリッドカーはエコで終わるな。”をキャッチコピーに掲げた2+2のシーティングを持った2ドアハッチバッククーペのCR-Zを登場させた。
新登場となったCR-Zは、第2世代のインサイトのイメージを巧みに残しながら、本格的なスポーティーモデルとして完成された造形の持ち主である。スタイリングは強い先進性を感じさせるウェッジシェイプで、強く傾斜したフロントウィンドウ、初代インサイトから受け継がれている第2のリアウィンドウを持つリアハッチ、鋭角的なフォルムを見せるヘッドライトとテールライト、大きな前後スポイラーとサイドスカートが、CR-Zのエクステリアを特徴づけている。
インテリアも超現代的なもので、ドライバーの正面に位置する円形の巨大な一体化された速度計とエンジン回転計を中心に、燃料ゲージや水温計を含むコンビネーションメーター、およびIMAの使用状態を示すグラフ状のメーターが左右に分かれて、ひとつのクラスターに収められる。その外側には各種のコントロールのダイヤルが並ぶ。速度計は「ECON」、「NORMAL」、「SPORT」と3種の走行バージョンに切り替えることで、メーターを照明する色が変わり、ドライバーに知らせる。ホンダではアンビエントメーターと呼ぶ。
シートは、前席こそサイズもたっぷりしたものだが、後席は特にヘッドスペースが決定的に不足しており、子供用か緊急用、あるいは手荷物置き場と考えていた方がいい。ただし、シートバックを倒すことができ、トランクスルーとなって、大スペースのトランクとなるのは大きな利点だ。
オールスチール製となったボディの寸法は、全長×全幅×全高4080×1740×1395mm。ホイールベースは2435㎜で初代のインサイトより35㎜長いだけ。全幅は1740㎜で逆に45㎜拡大されていた。搭載されるエンジンは、排気量1496㏄の水冷直列4気筒SOHC16バルブ(LEA型、出力CVT113ps/6000rpm)。経済性向上のため、低速時やアイドリング時にはバルブ休止する機構を持つ。併載する電動モーターは第2世代インサイトと同じ薄型DCブラシレスモーター(MF-6型、出力14ps(10kw)/1500rpm)で、システム総合で124psのパワーを生み出す。
トランスミッションはパドルシフト付きのCVTと6速マニュアルの2種が設定されている。サスペンションは、フィットなどと同じ前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後がトーションビーム/コイルスプリングと平凡なものだが、スポーツ走行に対応して、各部は大幅に強化されている。ブレーキは4輪ディスクでサーボ機構を持つ。タイヤは195/55R16が標準装備となる。
CR-Zは、発売されるや月間販売予定台数1000台に対して1万台の予約が集まるという大人気となり、製造ラインはフル稼働する状況となった。やはり、ハイブリッド車でもスポーティーカーの人気は大きいのである。
また、CR-Zは2010~2011年日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得しているのをはじめ、2010年度グッドデザイン賞、オートカラーアウォード2011ではグランプリに輝いた。モータースポーツの分野でも、2012年2月にスーパーGTへの正式参加を表明、本田技研とザイテックの共同開発によるマシンがサーキットを駆け抜けた。
ハイブリッドシステム搭載のスポーティーモデルという難しい存在を確実なものとしたホンダCR-Z、名車である。