デュアリス 【2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014】

ミドルサイズの国際派クロスオーバーSUV

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


欧州市場におけるクロスオーバーSUVの開発

 カルロス・ゴーンCEOの指揮による「リバイバル・プラン」(プラン発表時のゴーン氏の役職はCOO)によって、急速なV字回復を果たしつつあった2000年代初頭の日産自動車。その最中で同社の首脳陣は、欧州市場とくに英国日産自動車製造(NMUK)における生産車種の効率化を検討する。一時はN16型系アルメーラの次期モデルを企画したが、十分な採算が見込めないことから、開発計画は棚上げになっていた。

 一方、現地では別の企画も提案される。欧州市場で人気を高めつつあるクロスオーバータイプのミドルサイズSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を開発するべきではないか−−。この企画は、日産本体の回復基調が鮮明になった2003年中ごろになって本格始動することとなった。

開発コンセプトは“スマート&コンパクトクルーザー”

 新ジャンルのミドルサイズSUVを製作するに当たり、開発陣は日本とイギリスの2拠点にデザインチームを作り、内外装デザインの創出を図る。従来にはない取り組みで日欧の価値観を共有させ、新しいタイプの造形を生み出すことが目的だった。

 エクステリアに関しては、“Urban Nomad”(都会の遊牧民)というコンセプトのもと、流麗で洗練されたシルエットラインを持つボディ上部とSUVのタフな走行性能を予感させる力強い下部で構成する。具体的には、力強さとスポーティ感を強調したフロント部やフェンダーからルーフへと連続する動きのあるキャラクターライン、安定感と躍動感を表現したフェンダー部分のアーチライン、クロスオーバーの特徴をイメージさせるサイドウインドウグラフィックス、空力特性の向上も考慮してデザインしたリアコンビネーションランプ、力感あふれるリアバンパーなどを採用した。また、ボディデザインには日産車として初めてCFD(計算流体力学)解析を導入。空気抵抗係数は、SUVカテゴリーの最高レベルとなるCd値0.35を達成した。

 一方のインテリアは、クルマとの一体感およびコントロール感を演出するドライビングスペースを目指す。センターコンソールは高い位置に設定し、ドライバー側では適度な包まれ感を、パッセンジャー側では程よいくつろぎ感を演出。加えて、ブラック基調のカラーリングにメタリック調のフィニッシャーをバランスよく配することで、スポーティなコクピットに仕立てた。パッケージング自体は、SUV特有のアイポイントの高さと大きな面積をとったフロントガラスにより、開放感のある広い視界を確保。さらに、SUVとしては初めて大開口のスタイリッシュガラスルーフを採用し、全席における開放感を創出した。

キビキビかつ安定した走りを目指して−−

 新ミドルサイズSUVのプラットフォームについては、セントラやセレナなどに採用して定評のある“Cプラットフォーム”をベースに、剛性を引き上げるための大幅な改良を実施する。サスペンションには新開発の前マクファーソンストラット/後マルチリンクを採用。また、優れたハンドリング性能と快適な乗り心地を両立するため、高剛性スタビライザーやリバウンドスプリング、ハイスピードダンピングコントロール・ショックアブソーバー(ザックス社製)を組み込んだ。

 動力源はMR20DE型/HR16DE型のガソリンエンジン、M9R型/K9K型のディーゼルエンジンをラインアップし、ミッションにはCVT/6速AT/6速MT/5速MTを組み合わせる。この中で日本仕様には、フラッグシップのMR20DE型1997cc直4DOHC16V(137ps/20.4kg・m)+エクストロニックCVT-M6を採用した。一方、駆動機構には2WD(FF)と4WD(オールモード4×4)を用意。同時に、ステアリング操舵量やブレーキ操作量、車輪速センサーなどからの情報により車体の挙動を判断して走行時の安定性を高めるVDC(ビークルダイナミクスコントロール)も設定した。

キャッチフレーズは“The Powered Suit”

 日産製の新クロスオーバーSUVは、まず2007年2月に欧州市場において「キャシュカイ」の車名でリリースされ、同年5月より日本でも「デュアリス」のネーミングで発売される。デュアリスの車種展開は、MR20DE型エンジン+エクストロニックCVT-M6に2WDと4WD、上級仕様の20G/20G FOURとベーシックグレードの20S/20S FOURという計4タイプをラインアップ。先進装備として、カーウイングスナビゲーションシステム(HDD方式)やインテリジェントキーシステム、クイックブローシステム付きエアコン、サイドブラインドモニター、バックビューモニターなどを設定した。

 日産は日本でのデュアリスの広告展開にも力を入れる。最も注目を集めたのが、“The Powered Suit”というキャッチフレーズのもと、デュアリスがロボット(正確にはパワードスーツ)に変身するCM映像だ。パワードスーツのデザインを担当したのは、『超時空要塞マクロス』のバルキリーなどのデザインも手がけた河森正治氏。都市のビル街を駆け抜けるカッコいいパワードスーツ版デュアリスは、大人のみならず子供たちからも大注目を集めた。
 日本市場に送り出されたデュアリスは、メーカーの予想以上の人気を博し、発売後1週間で早くも月販目標の2000台の2倍以上となる約5000台を受注する。そして発売1カ月半後には、累計1万台オーバーを達成した。一方、日本以上に高い人気を集めたのが欧州市場だ。発売年の11月最終週には、販売累計が早くも10万台を突破する。この人気に対し、日産は生産体制の見直しを実施。英国のサンダーランド工場の生産能力を20%拡大するとともに、日本向けの生産は同年12月よりサンダーランド工場から日本の九州工場へと移管した。つまり、この時点で日本市場のデュアリスはMade in UKからMade in Japanに変わったのである。

さらなる魅力度のアップを目指した改良

 人気クロスオーバーSUVに昇華したデュアリスは、デビュー後も着実に車種ラインアップの拡大や緻密な改良を実施していく。
 2008年には5月に特別仕様車の「アーバンフレア」を、9月にオーテックジャパンが手がけたカスタムカーの「クロスライダー」を、12月に特別仕様車の「アーバンブラウンレザー」をリリース。2009年9月には一部改良を行い、フロントグリルデザインの変更やサイドクロームメッキモールの装備、ベーシュ色シートの設定などを実施した。
 2010年になると、1月に特別仕様車の「アーバンブラックレザー」を発売。そして、8月にはマイナーチェンジを敢行し、内外装の一部変更やエコドライブ支援機能(スムーズ発進アシスト機能/ECOモード機能/スマートレブコントロール機能/ナビ協調変速機能)の追加などを行った。

 ハッチバックとSUVの特性を融合させたミドルサイズの新世代クロスオーバーSUVとして市場デビューを果たし、多様な改良と車種強化によって商品力をアップさせていったデュアリス(とキャシュカイ)。その進化の工程は2014年まで続いた。ちなみに欧州では2代目に移行したが、日本国内では3代目エクストレイルに吸収されるカタチで初代のみの販売に終わった。