シビック・カントリー 【1980,1981,1982,1983】
アメリカンな本格ステーションワゴン
1979年7月に市場デビューを果たした2代目シビックは、キープコンセプトのスタイリングに進化したメカニズム、さらに快適性が増した居住性や乗り心地などで、名実ともに初代の進化版と高く評された。一方、本田技研の社内では、2代目の開発途中で重要な課題が議論される。日本の自動車市場は、ますます多様化の様相を呈し始めている。とくに、浸透しつつあるアウトドアレジャー・ブームには早急に対応しなければならない−−。排気ガス規制の対応にある程度の目処がつき、クルマの開発に資金と人員を割けるようになった1970年代末の同社は、鋭意アウトドアレジャー対応車の企画を推し進めた。
新ジャンルのクルマを開発するに当たり、本田技研のスタッフはベース車として開発途中の2代目シビック・バンを選択し、本格的なステーションワゴンに仕立てる方針を打ち出す。基本ボディとメカニズムはバンを流用。そのうえで、乗用ユースにふさわしい内外装の仕立てや走りの機構の再チューニングを実施した。また、開発陣は搭載エンジンの見直しも検討。バンには設定されていないEM型1488cc直4OHC(80ps/12.3kg・m)を採用し、長距離走行での快適性に配慮する。装着タイヤについても、バンの5.00-12-6PRから155SR13のスチールラジアルにグレードアップした。
ハッチバックモデルの登場から6カ月、バンモデルの追加から4カ月ほどが経過した1980年1月、シビック初、しかもホンダ初のステーションワゴンである“シビック・カントリー”が市場デビューを果たす。車種展開はモノグレード構成で、トランスミッションのみ5速MTとホンダマチック(AT)の2タイプから選択できた。
シビック・カントリーは、アウトドアレジャーで使用するにふさわしい装備内容で注目を集める。室内寸法はクラストップレベルの長さ1720×幅1290mmを確保。室内のアレンジにもフルトリム化やトータルカラーコーディネートを施す。後席のシートバックは4段階の角度調整が可能なバリアブルシートで、荷室床面とフラットにできる可倒機構も組み込んだ。さらに、テールゲートには運転席横のボタンを押すだけでロックが解除できる電磁式オープナーを採用し、ユーザーの使い勝手を大いに高める。エクステリアについては、木目調サイドパネル(発売記念として1500台に標準装備。以降はオプション設定)や木目調テールゲートパネル、サイドプロテクションモール、大型カラードバンパーなどを装着し、遊びのクルマらしい外観に仕上げていた。
走りに関しては、EM型エンジンによる力強い加速や優れた燃費性能(60km/h定地走行燃費はMT仕様24.0km/L、ホンダマチック仕様20.0km/L)、ラック&ピニオン式ステアリングが演じるスムーズなハンドリングなどが好評を博す。一方、乗り心地に関しては評価が分かれ、当時のユーザーによると「シビックのハッチバックモデルと同様に、リアサスペンションにストラット(カントリーはバンと同形式の半楕円リーフリジット)を採用してほしかった」という意見が多かったそうだ。
ホンダ初の本格ステーションワゴンであるシビック・カントリーは、爆発的な人気とはならなかったものの、上下動の少ない堅調な販売成績を記録し続け、やがてシリーズの定番モデルに位置づけられていく。
開発陣はカントリーのポテンシャルを引き上げる改良を積極的に実施する。1980年8月には、制御システムを改良して完成度を高めたCVCCIIエンジンを搭載。同時にオーバードライブ機構付きのホンダマチックの設定や内外装のグレードアップも実施した。1981年10月になると、ハッチバックモデルとともにマイナーチェンジを行い、角型ヘッドランプや新デザインのグリル&バンパーの装着、内装表地の見直しなどを敢行する。1982年9月にも、細かな装備を小変更した。
シビック・カントリーのリリースによって、小型ステーションワゴンの需要をつかみ取った本田技研。ワゴンの企画に自信を深めた開発陣は、次期型シビックでステーションワゴンのさらなる多用途性を追求し、やがてハイトワゴンの“シビック・シャトル”を生み出すこととなった。