インプレッサWRX・STI 【2007,2008,2009,2010,20112012,2013,2014】

WRCで鍛えたスポーツ性能を持つ逞しき駿馬

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WRCで活躍のスーパーウェポン

 スバルのブランドで知られる富士重工が、インプレッサと呼ばれる小型車をデビューさせたのは1992年10月である。車名のインプレッサ(IMPREZA)とは、英語で紋章とか金言と言った意味を持つimpresaから生み出された造語である。インプレッサは、旧態化したレオーネシリーズの後を受け継ぐモデルであり、特に若年層へのアピールを狙っていた。当然、スバルがワークスチームを送り込んで1994年シーズンからフル参戦を開始していたWRC(世界ラリー選手権)への参戦は、このインプレッサが中心となった。

 3世代目のインプレッサは、4ドアハッチバックのスタイルに一新され、2007年6月にデビューする。本命とされたハッチバックモデルの生産が優先されたため、4ドアノッチバックセダンのデビューはおよそ1年後の2008年10月(WRX STIの4ドア版は2010年7月に追加)までずれ込むことになった。

 2008年シーズンでWRCでのワークス活動から撤退したスバルだが、それまでにドライバーズタイトルは1995年にコリン・マクレー、2001年にはリチャード・バーンズ、2003年にはペター・ソルベルグが獲得している。また、マニュファクチャラーズタイトルは1995年から1997年まで3シーズン連続で獲得している。さらに、優勝回数では47回を記録している。

WRCはSSでの速さを競う公道レース!

 インプレッサのトップグレードのネーミングにも使われているWRXは、WRCをイメージしたものだ。WRCとは1973年からFIA(国際自動車連盟、本部はパリに置かれている)が世界各地でバラバラに行われていたラリーイベントを統合、世界選手権規格で開催するようにしたもの。開催期間は金曜日から日曜日までの3日間を使って行われる。この辺りはF1と同じである。

 競技の形態は、区切られた一般公道を使う2㎞から40㎞に及ぶコース(スペシャルステージ=SS)を競技車両が数分間隔で走り、タイム的に最も速かったものが、そのSSの勝者となる。こうしたSSが数10カ所あり、ポイントによって総合勝者を決める。20数台が一度にスタートするF1などとは違うところである。こうした方法を採るのは安全性確保のためだが、それでも道路状況によってはコースアウトなどで事故は起こることは避けられない。最近では、特別に造られたサーキットで2台によるマッチレースを行う場合もある。

WRカーとの共通項がインプレッサ人気の秘密

 WRCに出走する車両は、多くのレギュレーションによって制限されるが、インプレッサWRX・STIが参戦していた当時のレギュレーションでは、いわゆるWRカーと呼ばれていた種類の車両だった。グループAの特別車両として定められていたもので、継続する12カ月の期間中に2万5000台以上が生産された実績を持つ量産車をベースとして、ワイドボディへの変更や4輪駆動システムの搭載、リアサスペンションの形式変更、同じメーカーの生産するハイパワーエンジンへの積み替え、ターボチャージャーの付加などが可能となっている。今やWRカーはWRCの中核的なモデルになっている。

 WRマシンのなかでインプレッサは量産モデルとの共通項が多かったが、シトロエンやフォードといったライバルは、もはや、かつてのグループBほどではないにせよ、量産車とはほとんど別物の車両になっていた。WRCでのインプレッサの速さは、ベースモデルの高いポテンシャルが支えていたが、シトロエンやフォードは必ずしもそうではなかった。WRCファンのなかでインプレッサの人気が高いのは、自ら購入可能なモデルと基本的に同一のモデルが戦っていたからだった。

300ps超の水平対向ユニット搭載

 スバルは、3世代目となったインプレッサでも、WRCでの活躍をイメージさせる高性能モデルを、WRX・STIと名付けて、標準仕様デビューから4カ月の2007年10月に発売した。ベースとなったのは、4ドアハッチバックで、外観上では拡幅されたタイヤをクリアするために、大きく張り出した前後のオーバーフェンダーやボンネット中央に据えられたインタークーラーへの冷却気を導入するエアスクープなどで識別は容易である。このモデルには、標準モデルとは異なる専用の形式呼称(CBA-GRB)が与えられた。

 ボディサイズは、ホイールベース2625㎜、全長4415㎜、全幅1795㎜、全高1475㎜となっており、標準仕様と比べるとオーバーフェンダーの張り出し分だけ全幅が広くなっていることが分かる。トレッドも前が1530㎜、後が1540㎜と、標準仕様の1495㎜/1495㎜と比べて若干広げられている。最低地上高は155㎜。駆動方式はDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)システムを持った4輪駆動システムを採用している。

 搭載されるエンジンは、スバルのお家芸ともなっている排気量1994㏄の水平対向4気筒DOHC16バルブにインタークーラー付きターボチャージャーを装備したEJ20型で、電子制御燃料噴射装置と圧縮比8.0から、308ps/6400rpmの最高出力と43.0㎏-m/4400rpmの最大トルクを発揮する。吸気系と排気系の双方に可変バルブタイミング機構を採用したことで、平成17年度排出ガス基準の50%低減をクリアしている。ラリーマシンと言えども、エンジンのクリーン化は必須なのだ。

大径ブレンボ製ブレーキを採用

 サスペンションは前がストラット/コイルスプリング、後ろがダブルウィッシュボーン/コイルスプリングと、形式は標準仕様と同じだが、高性能化に対応してショックアブソーバーを含めて大幅に強化されている。ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスクで、イタリアのブレンボ社の特製。タイアは前後輪とも245/40R18サイズが標準装備となる。車両重量は1480㎏と、この種のスポーツモデルとしては決して重すぎることはなかった。

 室内はブラックトリムが基調とされ、レカロ製バケットシートをメーカーオプションとして設定し、本革巻きステアリング、テレスコピック式ステアリングなども採用された。おそらく、当時の市販モデルとしては、ワークスカーに最も近い雰囲気を持ったモデルであった。

WRC撤退後もその戦闘力は憧れに

 2008年12月にスバルはワークスチームによるWRC参戦の中止を発表した。資金面やチームの運営上の問題などが主な理由とされている。インプレッサによるWRCへのワークス活動は14年以上に及んだ。また、アメリカで行われているラリーアメリカには、ワークスではないが、インプレッサがプライベート参戦している。

 インプレッサWRX・STIは、スバルがWRCを撤退した後も生産が継続された。限定生産モデルも多い。2009年7月発売のWRX・STIスペック C(18インチ仕様が限定900台)や同じく2011年11月発売のWRX・STI・S206(300台限定)などがそれだ。これらの限定モデルには即日完売するものが少なくないことからも、スバルのスポーツモデルの人気の高さが分かる。名車のひとつである。ちなみにWRCからは撤退したが、ドイツのニュルブルクリンク・サーキットで開催される24時間レースに精力的に参戦しており、2011年と2012年は2年連続でクラス優勝を飾っている。過酷な条件のなかでも安定した速さを見せつけるのがインプレッサWRX STIの魅力。ニュルブルクリンクでの勝利は、素晴らしいポテンシャルを見事に証明している。