スターレット1300 【1978,1979,1980,1981,1982,1983,1984】
欧州に学んだ軽快2BOX
1978年2月に登場したスターレットは、トヨタのスモールカー作りをゼロから見直した意欲作だった。トヨタのスモールカーは、1961年にデビューしたパブリカが起源だ。パブリカはデビュー当初こそシンプルさを強調したが、販売戦略の見直しなどにより数々の装備をプラス、しだいに“上級車の小型版”というキャラクターに変化する。この傾向は代を重ねるごとに顕著となり、今回の主役であるスターレットの直前のパブリカ・スターレットでは、キャラクター的にも価格的にも上級のカローラと遜色のないものにまで成長していた。スモールカーの上級指向は決してマイナスではない。しかし、スモールカー本来のユーティリティや経済性、走りなどをスポイルする上級化は問題を生む。
パブリカ・スターレットは確かにカローラと遜色のないクオリティを誇っていた。しかしカローラに勝るポイントはほとんどなかった。ボディサイズがひと回り小型だったため、室内スペースはタイトだったし、走り面でも充実装備が重量増を招き、けっして軽快ではなかった。燃費も優秀とはいえない。価格はカローラより若干安価だったが、一般的なユーザーはパブリカ・スターレットではなく、カローラを選んだ。パブリカ・スターレットは、上級化にこだわるあまり、スモールカーならではの魅力を見失っていたのだ。
後継となるスターレットの開発にあたり、エンジニアは国際的な視野でスモールカーの魅力を分析した。とくに重視したのは欧州のマーケットである。モターリーゼーションの成熟した欧州は、魅力的なスモールカーの宝庫であり、スモールカーが主役だった。フォルクスワーゲン、プジョー、ルノー、フィアット、オペル……、どのモデルも個性的で合理的。けっして背伸びしたところがなくスモールカーとしての魅力を発散していた。開発スタッフは、欧州製スモールカーが合理的なパッケージングにより高いユーティリティを実現していること、小型軽量な利点を活かしてキビキビとした走りを実現していることに注目。自身のスモールカー作りに存分に活かした。
パブリカの名称が消え、スターレットの単独ネームとなった新型は、すべてが斬新なクルマだった。ボディスタイルは当時の日本ではまだ珍しかった2BOX。トランクスペースとキャビンを一体化させることで、スリーサイズが3715×1525×1370mm(S)のコンパクトサイズながら広い居住スペースを実現していた。しかもボンネットの長さを先代モデルより100mm短縮すると同時にホイールベースを35mm、トレッドを前後ともに30mmワイドにするなど基本プロポーション自体を全面刷新し、クラスを超えた広々感を実現したのが光った。
空力性能にもこだわっている。エンジン冷却ファンを電動式とし、ラジエター前面に配置することで低いノーズ高を実現。同時にルーフ後部をダックテール状に仕上げることで空気抵抗の少ないスタイリングに仕上げたのだ。スタイリングの吟味には風洞テストが積極的に用いられたと言う。
走りの面でも意欲的だった。パワーユニットは全車が昭和53年排出ガス規制をクリアーした1290ccの4K-U型。72ps/5600rpm、10.5kg・m/3600rpmの余裕あるスペックと徹底した軽量化(先代比−60〜70kg)により俊敏な走りと良好な燃費性能を実現していた。その加速性能は兄貴分のカローラを凌駕する。
開発陣のこだわりはシャシー面にも存分に発揮される。リアサスペンション用にコイルばねを用いた新開発の4リンク式新開発し、ステアリングギアボックスには遊びのないラック&ピニオン方式を採用したのだ。スターレットの操縦フィールは欧州タッチのシャープな感覚で、しかも新開発サスペンションの効果で不整路面でも乗り心地&ロードホールディングともに良好だった。なにより画期的だったのは、走りにライブ感が溢れていたこと。スターレットは従来のトヨタ車に欠けていた“楽しい走り”を実現していたのだ。
スターレットはクラスレスの魅力を発散するスモールカーだった。国内はもとより、欧州でも高い評価を受けたのは、クルマ作りの方向性が的を得ていたからである。