セルボ 【1982,1983,1984,1985,1986,1987】

ターゲットを女性に変更。すべてを一新したクーペ



アルトの成功が後押しした大変身!

 1982年6月に登場した2代目のセルボはすべてを一新していた。初代から継承したのはイタリア語で“牡鹿”を意味するネーミングだけ。まず駆動方式が違う。2代目はリアエンジン・リアドライブ(RR)からフロントエンジン・フロントドライブ(FF)に大変身した。エンジンも初代の2ストローク3気筒(539cc/28ps)ではない。より静粛で排気ガスがクリーンな4ストローク3気筒(543cc/29ps)を採用する。車両コンセプト自体も初代のスポーティ路線から、女性をメインターゲットに据えたカジュアル路線に変わった。

 大変身の背景にはスズキが1979年に登場させたアルトの存在があった。アルトは徹底したシンプル路線の追求により47万円という全国統一価格を実現。シティコミューターとしての軽自動車の魅力を再認識させた。アルト以前の軽自動車は、言ってみれば小型車の忠実な縮小版に過ぎなかった。しかしアルトはコンパクトさ、経済性、シンプルさという軽自動車本来の美点を磨いた軽自動車の王道だった。小型車に手が届かないから選ぶクルマではなく、軽自動車だからアルトだから、積極的に選ぶクルマだった。

2代目は経済性と運転のしやすさを追求

 2代目セルボの開発コンセプトはアルトの延長線上にあった。軽自動車でなければ実現できないスペシャルティカーの方向性を真摯に追求したのである。なにより大切にしたのは経済性と運転のしやすさだった。経済性の実現のため、多くのメカニカルコンポーネンツをアルト&フロンテ系と流用した。パワーユニットは実用領域のトルクと良好な燃費性能を重視したシングルキャブ仕様のみ。29ps/6000rpm、4.2kg/m/4000rpmのスペックはアルト/フロンテの標準仕様と共通だった。

 パフォーマンスはお世辞にもスポーティとは言えなかったが、500kg台前半の軽量ボディもあって、実用上は十分。主要な使用舞台となる町中では結構軽快な加速を披露した。高速クルージングでもちょっぴり周囲に気を配れば快適にこなすことができた。しかもなにより燃費が優れていた。実用燃費の指針となる10モード燃費は、4速マニュアル仕様で21km/L。イージードライブを実現した2速オートマチック仕様でも16.5km/Lを誇った。先代の2サイクルエンジンを積む初代セルボと比較して実用燃費の向上ぶりは圧倒的だった。しかも2サイクルエンジン特有のビートやオイルが燃える白煙から解放され、静かなドライブが楽しめるようになったのだ。

大型グラスハッチで実用性もハイレベル!

 2代目セルボのスペシャルティカーとしての魅力はスタイリングにあった。リアに大きなガラスハッチを設けたクーペスタイルはキュートな印象でまとめている。しかもゆったりとした後席スペースや、多彩なアレンジが可能なラゲッジスペースなど、実用性能にも優れていた。軽自動車は日常生活に最も密着したクルマである。スタイリッシュなクルマであれば、その日常が一段と彩りを増す。セルボの開発陣は、その事実をきちんと認識していた。だからこそ心躍るキュートなスタイリングと、高いユーティリティを高次元でまとめ上げていたのだ。ちなみに幅広のBピラーと大型ハッチで構成するクーペフォルムは、デザインの要素としてはポルシェ928とも一脈通じる点があった。

 2代目セルボは、1982年9月に充実装備のCS-Lグレードを追加し、1983年11月にはパワフルなターボモデルを追加するなど、軽自動車唯一のスペシャルティカーとして独自の発展を遂げた。軽自動車本来の美点を追求しながら、小粋な雰囲気を大切にした2代目セルボは、現代にも通じる設計コンセプトを持つ存在だった。

魅力的な派生モデル、“スズキのマー坊”

 セルボには、個性的な派生モデルが存在した。2シーターのピックアップトラック、マイティボーイである。1983年2月に登場したマイティボーイは、Bピラーより前はセルボと共通。後席以降をラゲッジルームとしたキュートなモデルだった。トラックとはいえ実用性を前面に押し出したものではなく、荷室の長さは僅か660mm。反面キャビンは広くシート背後には実用的なフリースペースがあり、リクライニングシートを装備していた。コンセプト的にはスペシャルティトラックだったのである。

 ニックネームは“マー坊”。これは同車のCM内で“スズキのマー坊と呼んでくれ”というキャッチコピーが流れたのに由来する。マイティボーイの特徴はその価格で、廉価バージョンのAタイプは45万円。当時の量産モデルで最も安い価格だった。スタイリッシュで軽量なマイティボーイは走りもよく、若者の気軽な足として期待された。しかしコンセプトが斬新すぎたのか、アルトほどは成功しなかった。ただし現在でも熱狂的なマニアが存在する愛すべきクルマだ。