シルビア 【1988,1989,1990,1991,1992,1993】
デザインと走りで魅了した“アートフォース”
1988年5月に登場した5代目のシルビアは衝撃的な存在だった。シルビアは日本にスペシャルティクーペの世界を紹介したパイオニアだったが、当時ホンダのプレリュードやトヨタのセリカに人気を奪われ、いささか影が薄い存在になっていた。しかし5代目は再びシルビアをスペシャルティクーペの頂点の座に押し上げる。
人気の源泉は、その流麗なスタイリングにあった。“アートフォース”をキャッチコピーに仕上げられた5代目のスタイリングは実に美しかった。低いノーズからややハイデッキ処理のテールへと連なるエレガントなストリームライン、大径タイヤを強調するグラマラスなフェンダー処理、そして虚飾を排したディテールなど、その造形センスは抜群だった。スペシャルティクーペらしい力強くシャープな印象を与えながら、同時に繊細さを感じる珠玉のスタイリングだったのだ。
インテリアもエクステリアに負けない完成度だった。なだらかな曲面がパッセンジャーを優しく包み込む造形で、手触りのいいファブリックで仕上げたモダンフォルムシートや曲面形状のシフトノブなど細部までデザイナーのセンスが息づいていた。あくまで低いドライビングポジションやドライバー正面にメーターを配置したコントロール類など、機能的に優れているだけでなく、観る者を魅了しドライビングしたいと思わせるサムシングを秘めたインテリアだった。
使い勝手に優れていた。前席優先パッケージングには間違いなかったが、後席のスペースも実用的だった。3時間程度のミニドライブなら大人でも快適に過ごせた。しかも後席シートバックを前倒しするとトランクとつなげることが可能でスキーなどの長尺物も無理なく収納することができた。
ライバルのプレリュードやセリカもスタイリングの面では高い評価を受けていたが、シルビアは別格だった。スポーティなだけでなく、どこか気品さえ感じる完成度を持っていたのだ。1988年のグッドデザイン大賞グランプリを獲得したのは当然の結果と言えた。
シルビアは走りも美しかった。FRレイアウトが生み出すナチュラルな操縦性により意のままのハンドリングを楽しめたからだ。フロントエンジン、リアドライブのFRレイアウトは、1988年当時も少数派だった。プレリュードやセリカはFFが基本。FRレイアウトはソアラやセリカXXといった上級クラスのものだった。しかしあえてシルビアはFRレイアウトにこだわった。滑らかなステアリング操舵性と、アクセルの踏み込みひとつで挙動を調節できるFRの特性を大切にしたからだ。しかも後輪に新世代のマルチリンク式サスペンションを組み込むことで、ロードホールディングのレベルを一挙に高めていた。望めば4輪操舵システムのHICAS機構を組み込むこともできた。
シルビアのフットワークはしなやかだった。町中では快適な乗り心地が楽しめ、高速道路では抜群の直進性を示した。そしてワインディングロードではリススポーツに匹敵する俊敏さを披露した。シルビアでクルマを操ることの楽しさに目覚めたユーザーも多かった。
ラインアップは3グレード構成。175ps/23kg・mのパワフルなターボエンジン(CA18DET型)を搭載するのがK’s。135ps/16.2kg・mの自然吸気エンジン(CA18DE型)は販売主力のQ’sと、ベーシックなJ’sが採用した。K’sは60偏平の15inタイヤが標準装備になり、ビスカス式LSDも装着するなどハイパワーに対応してヘビーデューティに仕上げられていたが、基本的にグレードによる差別化は少なく、どのモデルを選んでもシルビアらしいスタイリングと、気持ちのいい走りが味わえた。
取り回しのいい5ナンバーサイズに美しさと俊敏な走りを封じ込んだ5代目シルビアは、現在でも魅力的な存在である。コンディションが良好なモデルは中古車市場でも高い価格で取り引きされている。