マセラティ・クーペ 【2002,2003,2004,2005,2006,2007】

フェラーリ譲りの高性能メカを満載したスポーツクーペ

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フェラーリ傘下に入った新生マセラティの新たなる挑戦

 イタリアの老舗プレミアムカーメーカーであるマセラティは、1993年にイタリア最大の自動車企業グループであるフィアットの一員になり、1997年7月にはフェラーリ傘下に入った。資本の安定化を果たしたマセラティは、既存車の改良を図る一方でニューモデル“Tipo338”の企画を鋭意推し進め、1998年開催のパリ・サロンにおいて高級4座クーペの「3200GT」を発表した。

 3200GTの量産化までの道程は決して順風満帆ではなかった。3200GTがデビューする1年半ほど前の1997年7月、前述のようにマセラティはフェラーリ傘下に移行したからだ。プレミアムカーブランドの体制強化を狙ったフィアットの戦略のひとつだったが、マセラティにとっては大きな体制変更となった。フェラーリから経営部門や開発部門のスタッフが大量に送り込まれ、また生産技術や購買もフェラーリ流に再構築されたのである。純マセラティのエンジニアリングが結集された3200GTは、必然的に製造ラインの抜本的な改革が行われ、また販売網の再編も実施された。

 デビューした3200GTは好評を博す。マセラティ・オリジナルのビトルボ系エンジンを搭載した3200GTは、瀟洒な内外装デザインとV8ツインターボならではの豪快な加速が楽しめるGTカーとして独自のポジションを築き、コアなスポーツカーファンを魅了した。だが、開発現場ではこの状況にあまり満足していなかった。3200GTの走りの完成度が、まだまだ未熟と判断していたのである。とくに、フェラーリ出身のエンジニアは少なからぬ不満を抱いていた。開発陣は早々にフェラーリの一員としての完成度を持つGTカーに仕立て直すことを決断。新しい体制下での新型車の企画“Tipo M138”がスタートすることとなった。

スパイダーに続き、3200GT後継クーペ登場

 新生マセラティのGTカーは、まず2001年開催のフランクフルト・ショーにおいてオープンボディの「スパイダー」がワールドプレミアを飾り、後に市販に移される。そして2002年開催のデトロイト・ショーでは、3200GTの実質的な後継を担うクローズドボディの新型「クーペ」を発表した。

 マセラティ・クーペに採用するシャシーは3200GTおよびスパイダーの改良版で、ホイールベースはスパイダー比+220mmの2660mmに設定する。同時に、4座のキャビンスペース自体を3200GTより拡大した。サスペンションはドイツのザックス社と共同開発したスカイフック制御型の前後ダブルウィッシュボーン/コイル+スタビライザーで構成し、ダンパーには電子制御方式の減衰力可変システムを採用。シューズにはフロントに235/40ZR18タイヤ+8J×18軽量アルミホイールを、リアに265/35ZR18タイヤ+9.5J×18軽量アルミホイールをセットする。組み合わせるクーペボディは剛性と衝撃吸収性を高めたモノコック構造。3200GT比でねじり剛性を15%、曲げ剛性を5%向上させた。

流麗なスタイリングはジウジアーロがリデザイン

 クーペボディの基本デザインは、3200GTと同様にイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロが担当する。古典的なアレンジと最新のエアロダイナミクスを高い次元で両立させたエクステリアは、トライデント(三叉矛)エンブレムを組み込んだオーバルシールドのグリルに長いフロントノーズ、ルーフから流れるような造形で仕立てたリアピラー、抑揚のあるフェンダーライン、4本のエグゾーストパイプを配置した厚みのあるバンパーで構築。ボディ長は3200GT比で13mmほど長くなった。

 内装デザインについては、3200GT用の各種パーツを流用しながら新たなアレンジを施した。インパネは左右席の前をなだらかに抉ったシンメトリカルな造形で構成。センターパネルには5.8インチのカラー液晶モニターを装備し、ここにオーディオやエアコン、ナビゲーションなどの情報を表示する。その上部には伝統のオーバル型アナログ時計を配した。縦溝を刻んだレザー表地の電動調整式フロントシートにはヘッドレストを一体化した新デザインのバケットタイプを装着し、2名掛けのリアシートもバケット形状で統一する。また、ヘッドルームおよびレッグルームの拡大やペダル配置の見直し、SRSサイドエアバッグの追加なども行った。

新クーペはフェラーリ血統のV8ユニット搭載

 フロントに搭載するエンジンは、フェラーリが主導して開発したアルミ合金製ブロック&ヘッドの136R型ユニットを採用する。ボア92.0×ストローク80.0mm/排気量4244ccに設定した90度のバンク角をもつ水冷V型8気筒DOHC32Vユニットは、単体重量で従来の3200GT用V8エンジン比−約20kgの184kgを実現。燃料供給装置にボッシュ製電子制御システムを、インテーク機構に可変システムを、スロットル機構にドライブバイワイア・システムをセットし、11.1の高圧縮比から最高出力390ps/7000rpm、最大トルク46.0kg・m/4500rpmを発生した。

 組み合わせるトランスミッションには6速MTのほか、マニエッティ・マレリ社と共同開発した6速セミAT“カンビオコルサ”をラインアップする。カンビオコルサはステアリング部のパドルでシフトチェンジする機構を内蔵し、ノーマル/スポーツ/オート/ローグリップの4種の走行モードを設定した。また、ギアボックス自体はデファレンシャルと一体化して車体後方にマウントするトランスアクスル方式を導入。先進の安全装備であるボッシュ製のASR(アンチスリップレギュレーション)も装備した。制動機構についてはブレンボと共同開発した4輪クロスドリルド・ベンチレーテッドディスクブレーキを採用する。ローター径×厚はフロントが330×32mm、リアが310×28mmで、パッドにはフェロードHP1000をセット。同時に、ボッシュ製の4チャンネル5.3ABS(EBD付)を標準で装備した。最終的なクーペの車体重量は、MTモデルが1670kgでカンビオコルサが1680kg。前後重量配分は3200GTの54:46、スパイダーの53:47に対して52:48と、より良好な前後バランスを達成していた。

“Maserati Tradition”を掲げて市場デビュー

 マセラティのDNAを受け継ぐ正統派の高性能GTである事実を表す意味で、キャッチコピーに“Maserati Tradition”を掲げたマセラティ・クーペは、洗練されたスタイリングにフェラーリ譲りの自然吸気V8エンジンを搭載したスポーツモデルとして、市場から大きな注目を集める。パフォーマンス面においても超一級で、最高速度は285km/h、0→100km/h加速は4.9秒、0→400m加速は13秒、0→1000m加速は23.5秒と公表された。

 クーペは2005年モデルになると、マイナーチェンジが実施される。トライデントを組み込んだフロントグリルの内部は、太い横バーを基調とした形状に一新。ノーズや前後スカート部の造形も、よりスタイリッシュなデザインに切り替わった。また、アルミホイールは7本スポークタイプに換装される。内包するインテリアでは、センターコンソールへのカップホルダーの追加やメーターおよびスイッチパネル類のデザイン変更などが行われた。

高性能モデルの「グランスポーツ」をリリース

 勢いに乗る新生マセラティはクーペをベースとするスペシャルモデルも企画し、2004年開催のジュネーブ・ショーにおいて「グランスポーツ」と称するハイパフォーマンスGTを発表した。
 外装に関しては、前後バンパーおよびスカートの形状を変更して空力特性を高めるとともに、クローム仕上げのメッシュグリルを組み込んで存在感を強調。足回りでは10mmのローダウン化や19インチタイヤ&アルミホイールへの換装を行う。また、内装では新デザインのバケットシートやアルミ製ペダルの装着、ステアリングホイールリムのCFRP化、センターコンソールの小型化およびパネルのカーボン化などを実施した。

 動力源については、既存ユニットをベースに排圧コントロールシステムを内蔵するスポーツエグゾーストシステムの採用やインテークマニホールドおよびバルブシートの見直し、ECUのセッティング変更を実施。最高出力は400psにまで引き上がる。トランスミッションには変速時間を短縮したカンビオコルサを組み合わせる。パフォーマンスは最高速度が290km/h、0→100km/h加速が4.85秒、0→400m加速が12.8秒、0→1000m加速が23秒と公表された。ちなみに、グランスポーツモデルは後にスパイダーにも拡大展開。また、2006年にはマセラティMC12がFIA GT選手権を制覇したことを記念する限定モデルの「グランスポーツMCビクトリー」をリリースした。

 GTカーを新世代に切り替え、また2003年にはプレステージサルーンの5代目クアトロポルテを発売するなど、着実に発展を遂げていった新生マセラティ。しかし、2005年3月になると予想外の出来事が同社を襲う。フェラーリがマセラティを傘下から切り離し、再びフィアットの元へ戻す、しかもアルファロメオと同じセクションに移すと発表したのだ。背景には、フェラーリの株式上場を狙ったルカ・モンテゼモーロ会長がフェラーリの決算の改善、具体的にはマセラティへの設備投資の回収をフィアットに任せる意図があったようだ。フェラーリの直接的なコントロール下を離れたマセラティは、苦心しながら再度、独自路線を追求。マセラティ・クーペは2007年に生産を中止し、新たにクアトロポルテの基本コンポーネントを使用するピニンファリーナ・デザインの「グラントゥーリズモ」を旗艦クーペとして市場に放ったのである。