FEV 【1991】

ファーストカーとしてのEVを初提案

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タウンカーからファーストカーへの転換

 1991年の東京モーターショーでスポットライトを浴びたFEV(FUTURE ELECTRIC VEHICLE)は、ファーストカーとしてEVを捉えたエポックメイキングな存在だ。日産は走行中CO2を排出しないゼロエミッションのEV(電気自動車)の開発でつねに業界をリードしてきた。1960年代から数々の試作車を送り出してきたが、初期のEV試作車は充電に手間が掛かり、しかも1充電当たりの航続距離が短い電気自動車の欠点を踏まえ都市内での限定使用を想定したコミューターばかりだった。いわばガソリン内燃機関車の機能の一部を補完する存在としてEVを捉えていたのだ。

 しかしFEVは違っていた。確かにFEVも開発コンセプトは“人と地球に優しい小型タウンカー”である。都市での使用をメインに想定している。だが、1充電当たりの走行距離を250km(40km/h定速走行時/10モード走行では100km)まで伸ばし、6分間で電池容量の40%充電を可能にした“超急速充電システム”の開発により、FEVを都市で使うクルマの主役=ファーストカーとして捉えていた。メインとなる使用舞台こそ共通だったが、脇役から主役へと意味的には180度変わっていたのだ。モーターショーで配布したカタログでは“ふだんの生活の中で、ふつうに走れるEVを作ること。それがFEV開発にあたっての日産の思いでした。250km走るということは東京〜箱根を楽々と往復できるのです”と説明していた。

ルーフにはソーラーパネルを装着

 航続距離250km実現のため、FEVでは電気エネルギーを効率よく利用するための工夫を随所に施していた。まず車両の抵抗を減らすことに徹底的に取り組んでいる。空気抵抗を吟味しリファインしたデザインによりCd値0.19を実現。さらに軽量化のためにアルミ素材を積極的に採用し、タイヤも転がり抵抗を大幅に低減した専用品を奢った。

 肝心のモーターも電気エネルギーを抵抗なく回転エネルギーに変換する小型・大出力誘導モーターを新開発し、走行エネルギーをバッテリーに回収する回生ブレーキシステムも装備。さらにルーフ上に設置したソーラーパネルでエアコンやオーディオの電源を得る工夫も取り入れていた。250kmという航続距離だけでなくトップスピード130km/h、ゼロヨン加速20秒とパフォーマンスも実用上十分なレベルを達成したこともポイントだった。

急速充電機構で実用性を向上

 しかしいくら性能レベルが高くても、充電に時間が掛かったらファーストカーとして使えない。FEVはこの点でも画期的だった。FEVは世界初のSQC(Super Quick Charge=超急速充電)機構を搭載したのだ。SQCはバッテリーの技術進化とクルマ側のリファインで実現したもので、僅か6分で電池容量の40%充電を可能していた。6分で実用上十分な充電ができるのなら安心度は高い。さらに200V電源だけでなく、家庭用の100Vにも対応(8時間でフル充電)するなど電源のマルチ化にも取り組んでいた。電源スタンドについて開発エンジニアが、従来のガソリンスタンドと同様のインフラとともに、コンビニの駐車場への充電ステーションの設置や、大規模マンションなどに設置した大型ソーラーパネルを利用するコミュニティ発電・充電システムなどの可能性に言及、現在に通じる建設的な提案を披露していたのも印象的だった。

 1991年に発表されたFEVは、21世紀が求めるEVの理想像といえた。早くから未来をしっかり見据えていたからこそ、日産は世界に先駆けてEVの世界レベルでの量産に舵を切れたのに違いない。期待のリーフのルーツは、ひょっとするとFEVだったのかもしれない。