パトロール 【1960〜1980】

タフさで世界に愛された日産製4×4車の第2世代

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新しい時代の多用途車を企画

 官公庁用として警察車両や消防車などに広く活用された4W60型系の初代日産パトロール。その販売過程で日産自動車の営業部門は、市場から「もっと色々な場面で使える多用途車が欲しい」という意見を耳にする。1950年代後半は住宅や道路など、建設ラッシュの真っただ中。産業界は大いに盛り上がり、そのための新しい多用途車が求められたのだ。また開発部門では、ジープスタイルにこだわらない、より民生用に適した4×4車を企画するべきという意見が沸き起こっていた。最終的に日産の首脳陣は、次期型パトロールをより多目的に使える新機動車にすることを決断。開発にゴーサインを出した。

 初代以上に多用途性を持たせるためには--。まず開発陣は積載性に着目し、2タイプのホイールベースを設定する旨を決める。また、スタイリングについてはジープの呪縛を解き、機能性の高さが外観からもわかる新時代のエクステリアで仕立てる方針を打ち出した。

60の型式を冠して市場デビュー

 世間では池田勇人首相が高度経済成長・所得倍増計画を発表して大きな話題を集めていた最中の1960年10月、日産自動車は第2世代となるパトロールを市場に放つ。ボディタイプは2200mmのショートホイールベースと2500mmのロングホイールベースという2タイプを設定。車両型式はショート版が60(前席2名乗車400kg積または6名乗車)、ロング版がG60(A型=前席2名乗車400kg積または8名乗車/B型=前席2名乗車750kg積または8名乗車。後に前席3名乗車を設定)を名乗った。また、ボディタイプでは後に2800mmのスーパーロングホイールベース(H60)も用意する。ボディ仕様としては、スチールドア+幌ルーフのほかにハードトップをラインアップ。後にバンやステーションワゴン、ピックアップ、消防用シャシーなども製造した。

 基本骨格については、強固な梯子式箱型断面フレーム(高137.4×幅80×板厚3.2/2.3mm)に各車体寸法を従来より拡大したうえで剛性を高めた新ボディを架装する。サスペンションは前後ともに縦置リーフスプリング+油圧式複動筒型ショックアブソーバー+トーションバー式スタビライザーをセット。リーフスプリング長×幅×厚-枚数はフロントが1100×70×6.5㎜-3+1100×60×6㎜-1、リアが1300×70×7.5mm-5で、ロングホイールベースの750kg積(G60B)やファイヤーパトロールなどではフロントが1100×70×6.5㎜-5、リアが1300×70×7.5mm-7+8.0mm-1という強化タイプを組み込む。また、リーフスプリング自体にはテーパーをつけ、積載性と乗り心地の両立を図った。タイヤは6.50-16 6Pサイズのラグタイプが基本で、強化サス仕様には同サイズの前6PLT/後8PLTタイプを装着する。操舵機構にはギア比を23.6に設定したヒンドレイ・ウォーム・ローラー式を採用。制動機構には油圧式全4輪制動の前後ドラム式を採用した。

搭載エンジンは4Lガソリンユニットの1機種

 第2世代のパトロールの搭載エンジンには、カウンターウェイト付クランクシャフトや分離型メタル付コンロッドなどを組み込んだ改良版ガソリンユニットのP型3956cc直列6気筒OHVを採用する。圧縮比は7.0に設定。最高出力は125ps/3400rpm、最大トルクは29.0kg・m/1600rpmを発生した。組み合わせるトランスミッションは2速と3速にシンクロメッシュを取り入れた3速MTで、駆動システムには2WD(FR)/4WDハイ/4WDローの選択が可能なパートタイム式4WDを導入。後に2WD仕様も設定した。

 エクステリアに関しては、スタイリッシュ性をより強めたことが訴求点となる。フロントマスクは丸目2灯式のヘッドランプにメッシュタイプのグリルを装着し、下部にはクランク軸に棒を差し込んで手動スタートができる穴をレイアウト。フロントバンパーはフレームの前端メンバーを兼ねていた。ドアは前ヒンジ式のスチール製に変更。フロントフェンダーは新たにフラッシュサイド化される。ボディサイズは60系が全長3770×全幅1693×全高1980mm、G60系が同4070×1693×1980~2015mmに設定。最小回転半径は60系が5.5m、G60系が6.2mで、最低地上高は213~223mmを確保していた。

 第2世代のパトロールのインテリアについては、機能性を最大限に重視する。ボディ同色のフロントパネルには丸型の速度計とコンビネーションメーター、ライティングスイッチ、空調レバーなどを機能的に配置。ステアリングにはスポーク部をメッキ仕上げとした3本スポークタイプを装備する。前席フロアの中央部から生えるレバーは4本。H字形ゲート(左ゲート手前が1速で、右ゲート前方が2速、手前が3速。後退は左ゲート前方)の3速MTギアチェンジレバー、4WDのハイ・ローチェンジレバー(前方がローで後方がハイ)、4WD切替レバー(前方が2WDで後方が4WD)、駐車ブレーキレバーをセットしていた。

時代の要請に合わせた改良を実施

 従来のジープタイプから、いわゆるランドローバータイプの近代的なスタイリングに刷新された60型系パトロールは、その大柄なボディや大排気量ガソリンエンジンゆえに一般ユーザーにはあまり普及せず、メインの顧客は官公庁、とくに消防車=ファイヤーパトロール(FG60)として多く納入される。消防用に改良したシャシーとエンジン、防水性や耐久性に優れる専用機構などを採用していたことも消防隊員や団員たちから好評を博した。また、パトロールはオーストラリアやアメリカ、中南米、インド、中東などの海外市場にも多く輸出され、このうちインドではライセンス生産を実施。 Vehicle Factory Jabalpur (VFJ) においてインド版パトロールが製造され、ジョンガ(JONGA=Jabalpur Ordinance aNd Guncarriage Assembly)の名でインド軍にも納入された。

 日本の官公庁や海外市場で高い評価を獲得した2代目パトロールは、デビュー後も時代の要請および法改正に即した改良を鋭意行っていく。1961年にはロングホイールベースのシャシーを活用したライトバン(VG60)をリリース。後席は折り畳み式で、2名乗車で400kg、5名乗車で250kgの積載量を確保した。オールスチールボディは、2枚のドアと上下開閉式のリアゲートを設定。リアサイドガラスは引き戸式で、ラゲッジ左側面にはビニールカバー付きのスペアタイヤをセットする。外装色には上部クリーム/下部グリーンのツートンカラーを採用した。このライトバンをベースにして、後に乗用タイプのステーションワゴン(WG60)もラインアップ。さらに、後席部を荷台に充てたピックアップ(62ZG60H)も用意した。

 1964年になるとP型エンジンの改良が実施され、圧縮比を7.6に高めるなどしてパワー&トルクが130ps/30.0kg・mにまで引き上がる。1960年代後半から1970年代前半にかけては、前席の3名乗車化や全樹脂製2本スポークステアリングの装着、インパネ部へのパッドの追加、ターンシグナルの独立化、制動機構へのバキュームサーボの組み込み、ワイパーの3連化、マフラーの変更(サイド出しからテールエンド出しへ)などを敢行。また、1973年にはヘッドランプの間隔を広げたうえで前にやや突出させたFH60/FHN60型ファイヤーパトロールをリリースした。

消防用シャシーに改良エンジンを搭載した「ファイヤーパトロール」

 2代目パトロールの数ある車種ラインアップの中で、最も親しみを感じたモデルといえば、消防署のみならず地方の消防団などでも活用された「ファイヤーパトロール」だった。

 FG60の型式をつけたファイヤーパトロールでは、750kg積用をベースとした強化版のシャシーに専用セッティングのPF型3956cc直列6気筒OHVのガソリンエンジンを採用する。ボディサイズは全長4405×全幅2000×全高2100mm/ホイールベース2500mmで、乗車定員は8名を確保。中央部動力取り出し装置からポンプ動力を取り出す、いわゆる低置式ポンプ架装を可能とし、運転席および荷台にゆとりを持たせることでクルマの安定性を引き上げていた。また、副変速機とポンプ間の結合にはラバーカップリング方式を導入して使い勝手をアップ。さらに、リアボディの延長による格納箱の増設や8m以上のソフト吸管および2.1mのストレート吸管の積載、ウォーター補助クーラーのフロントバンパー直後への移動による扱いやすさの向上、計器盤への消防用計器の組み込みスペースの確保、燃料タンクの後方床下への移設による格納箇所の増設などを実現していた。

基本設計を変えることなく長寿を全う

 1975年になると日本仕様のボディタイプがロングホイールベースに1本化され、型式はG60Hとなる。そして、1979年には昭和54年排出ガス規制および騒音規制に対応したG61H型に移行。変更点は改良型EGRおよびカップリングファンの採用、リブタイヤの装着、サイドステップの標準装備化、脱落式インサイドミラーの設定、カウルサイドベンチレーターの廃止、セルモーター出力のアップ(12V-1.2kW)など多岐に渡っていた。

 他メーカーの4×4車とは異なり、基本骨格やパワートレイン、車両デザインなどを大きく変えることなく生産され続けた2代目パトロールは、1980年6月になるとついに全面改良が実施され、160の型式をつけたサファリに切り替わる。2代目パトロールが20年あまりに渡って生き永らえたのは、耐久性の高いボディやパワフルかつスムーズな4lガソリンエンジン、そしてテーパーがつき、しかも長めに設定した前後リーフスプリングによる優れた乗り心地と高い積載性などが、日本以上に海外のユーザーから高く評価されたからだろう。その証拠に、サファリの輸出モデルはパトロールの車名が継続して使用された。4×4車のカテゴリーでワールドワイドに“技術の日産”を知らしめた真の実力車--それが2代目パトロールの名車たる所以なのである。