シトロエン・メアリ 【1968〜1987】

ABS樹脂製ボディを採用した2CV派性の小型MPV

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名車2CVのワイドバリエーション化

 どの国にもクルマが一般大衆に普及するきっかけとなったエポックメイキング車がある。フランスでは1948年に市場デビューを果たしたシトロエン社の「2CV」がその役割を担った。しかし、1960年代に入ると2CVの旧態化が目立つようになり、ライバルの追い上げも激しくなる。小型車市場のシェアを堅持するためには、いかなる戦略が必要か−−。さまざまな検討の結果、開発陣は、2CVの基本コンポーネントを改良しながら可能な限り流用して新型車を開発することを決定した。企画したのは3車種。上級モデルの4ドアセダンと2CVの進化バージョン、そして新種の多目的車だった。また、ベーシック車として2CVもマイナーチェンジを施しながら継続して販売することとした。

 新型車として最初に登場したのは4ドアセダン=ベルリーヌで、1961年4月に「アミ6(Ami6)」の車名を冠して市場デビューを果たす。当時のチーフデザイナーであるフラミニオ・ベルトーニが手がけたスタイリングは、ラウンディッシュなフロントマスクおよびエンジンフードにプレスラインの入ったサイドパネル、クリフカットのリアビューなどで独特なセダンルックを創出。搭載エンジンには既存の425cc空冷水平対向2気筒OHVのボアとストロークを延長して602ccとした新ユニットを採用する。さらに1964年9月には、リアボディをワゴン化した5ドアのブレークと、これのフロントドア&リアゲートを残してリアサイドセクションをパネル化した商用モデルのコメルシアルを追加した。

シンプルで実用的な新顔、ディアーヌの登場

 1967年7月になると、シンプルで実用的なキャラクターに仕立てた進化版2CVである「ディアーヌ(Dyane)」を発売する。外装は元パナールのデザイナーであるルイ・ビオニエが担当。左右フロントフェンダー部に埋め込んだヘッドライトにフラット形状になったルーフ、厚みを増したうえでプレスラインを加えたドア、大型化したテールゲートなどにより、近代的なスタイリングを構築する。内装では、ステアリングコラム左右に主要機能のスイッチレバーを配したり、ベンチレーターを改良したりと、各部で使い勝手の改善を図った。エンジンに関しては2CV用425cc空冷水平対向2気筒OHVを使用するものの、チューニングを見直して最高出力を引き上げる。また、翌1968年1月には上級仕様の「ディアーヌ6」を発売。搭載エンジンにはアミ6と同ユニットの602cc空冷水平対向2気筒OHVエンジンを採用した。

新種のマルチパーパスビークルを発売

 上級モデルのアミと進化バージョンのディアーヌに続き2CVのワイドバリエーション化の仕上げとしてデビューしたのは、異色の多目的車だった。車名は「メアリ(Mehari)」。砂漠地帯などで移動・運搬用として活用されるヒトコブラクダの一種のMEHARIに由来した車名を冠していた。

 メアリの基本骨格はディアーヌ6用のシャシーをベースに、鋼管フレームを要所に配した専用タイプで仕立てる。サスペンションにはセッティングを見直した前リーディングアーム/コイル、後トレーリングアーム/コイルをセットし、ディアーヌ6と同様に前後関連懸架とした。架装するボディはオープンタイプで、成型のしやすさや軽量性、各部の交換やメンテナンスのしやすさなどを狙ってABS樹脂製のパネルをボルト留めする。ABS樹脂はアクリロニトリル (Acrylonitrile)/ブタジエン (Butadiene)/スチレン (Styrene)の合成樹脂の総称で、ABSは原料の頭文字に由来。1954年にU.S.Rubber社で初めて量産化された工業用の新素材だった。

 熱可塑性のABS樹脂は、剛性や硬度が高く、また加工性や耐衝撃性などに優れることが特長。さらに、表面はFRP樹脂などと比べて見栄えよく仕上がった。ボディパネルにABS樹脂を導入するのは、メアリが市販車で初めてだった。
 スタイリングは、当時のオフロード車の典型であるジープ・タイプを範とし、可倒式フロントウインドシールドスクリーンやセンターロールバー、スリット付きサイドパネルおよびフロアパネル、下ヒンジ式リアゲートなどを採用する。フロント左右の乗降部は転落防止用のチェーンのみの設定で、間もなく前ヒンジのドアが用意された。ルーフおよびリア部の覆いには、折り畳みが可能なソフトトップを装備。ABS顆粒に顔料を加え、熱処理して着色パネルに仕立てたボディカラーは、デビュー当初、Rouge HOPI(レッド)/Vert MONTANA(ライトグリーン)/Beige KALAHARI(ベージュ)をラインアップした。ボディサイズは全長3520×全幅1530×全高1635mmで、ホイールベースが2400mm。最低地上高は一般的な未舗装路の走行に十分な180mmを確保していた。

すべてがシンプル!トップスピードは100km/h

 メアリの内装は、シンプルな造形のインパネに2CVから流用したメーターやステアリングなどを装着。シフトレバーはセンター前部から伸びるように配される。縦溝を刻んだシートは前2席のみの設定で、背後はラゲッジスペースとしてレイアウト。また、リアサイドにはスペアタイヤを配置する。後に、2名掛けのベンチ式リアシートを用意した。

 搭載エンジンはディアーヌ6と基本的に同ユニットの602cc空冷水平対向2気筒OHVで、トランスミッションには4速MTをセット。駆動機構は4×2(FF)で仕立て、最高速度は100km/hと公表される。制動機構には4輪ドラムブレーキを装備。タイヤには135×380サイズを装着した。

 新種のマルチパーパスビークルとして市場に放たれたメアリ。車両価格は2CVやディアーヌ6よりも高く、またその特異なキャラクターからユーザーは限られると当時の識者は予想したという。しかし、その見解はあっという間に覆された。デビュー年こそ837台の生産にとどまったが、1969年には受注が大幅に増えて生産台数は1万2624台へと急伸長。その後も、1万台オーバーをコンスタントに記録した。メアリはさまざまな仕事のパートナーとしてはもちろん、アクティブなレジャー用としても愛された。

 売れるクルマは、ユーザーのさらなる要望に応えるのがマーケティングの常道である。メアリもこれに倣い、地道な改良と車種ラインアップの追加を実施していく。1969年モデルではエンジンのセッティングを見直して出力をアップ。走行性能を着実に引き上げる。1971年モデル以降では、ABS樹脂製のハードトップやフロント部とリア部を仕切るABS樹脂製パネル(ピックアップ化)、スライドスクリーン付きフロントドアをラインアップした。

走破性を高めた4×4モデルを設定

 1979年になると、4×4がラインアップに加わる。駆動機構は2WD(FF)と4WDの切り替えが可能なパートタイム式で、2速副変速機付のトランスファーを装備。さらに、リアデフには機械式デフロック機構を内蔵した。また、足回りでは前後関連懸架を省略し、サスペンションシリンダーを半浮動固定から固定式へと変更。後輪を駆動させるプロペラシャフトが通るため、シャシーの強化も図る。ブレーキは前後ディスクに一新した。

 メカニズム以外では、外装で前後パイプガードの装着やボディ下面の平滑化、スペアタイヤのフロントフード上への移設などを実施。内装では2WD/4WD切り替え用と副変速機切り替え用の2本のレバーの追加や丸型メーターの採用などを行った。ただし、4×4がラインアップされたのは1982年モデルまでで、生産台数は1213台にとどまる。多くのユーザーがプラスαの料金を出してまで4WDの性能を求めなかったこと、またメアリの4×4化の主目的は軍用モデルの開発だったことが、早々に製造を取りやめた理由だった。

シトロエンが生産を中止した後も有志が製造を継続

 2CVの基本コンポーネントを改良して使った1960年代生まれの兄弟車であるアミ6が1971年、ディアーヌが1984年にカタログモデルから外れた後も、4×2(FF)のメアリはフロントグリルの変更や安全装備の強化、内装パーツの近代化などを図りながら販売が続けられる。1983年モデルではブルーカラーのドア&センターロールバーにブルーとホワイトの縦縞シートを装着した700台限定のスペシャルモデル、「メアリ・アズール(Azur)」もリリースされた。

 最終的にメアリは1987年まで生産が続けられ、総生産台数は14万4953台に達する。20年近いロングセラーに昇華したのは、そのユニークなキャラクターとともに、実用に優れる特性を備えていたことが多くのユーザーに支持されたからだろう。華も実もある実力車のメアリは、長く愛されるクルマの特長をしっかりと備えていたのだ。生産中止後にフランスの小規模ファクトリーが「MEHARI CLUB CASSIS」を名乗ってシトロエンから残ったパーツを買い取り、足りないパーツは独自に作って、21世紀に入ってもメアリの再生産を続けて世界中に販売していることは、その何よりの証なのである。

メアリの車名は2015年に電気自動車として復活

 シトロエンによるメアリの生産中止から28年あまりが経過した2015年12月、シトロエンのプレスリリースに再びメアリの名が躍る。電気自動車の「E-メアリ」を開発したというニュースだ。E-メアリの基本スタイルは4シーターのオープンボディで、レジャービークル然とした雰囲気は往年のメアリを踏襲。また、オレンジ/ベージュ/イエロー/ブルーという4タイプのカジュアルなボディカラーも、メアリを彷彿させた。

 ボディサイズは全長3810mm、全幅1870mm、全高1650mmで、脱着式のルーフを装備する。駆動コンポーネントはフランスのBollore社製で、駆動用バッテリーには30kWhリチウムメタルポリマー電池を採用。モーターは最高出力が50kW、定格出力が35kWとなる。最高速度は110km/hと公表。充電時間は10Aで13時間、15Aで8時間でこなし、満充電からの航続距離はアーバンモードで200kmとアナウンスされた。