コンチネンタルGT  【2003,2004,2005,2006,2007,2008,2009,2010】

新生“フライングB”を象徴した超高性能スポーツクーペ

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VW傘下で新生ベントレーが始動

 1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界は、ワールドワイドで自動車メーカーの資本提携や吸収合併が進んだ時代だった。経済マスコミからは「400万台レベルの生産台数を確保しないと自動車メーカーとして生き残れない」、また「ブランドイメージの向上を果たさないと世界市場での販売台数は伸びない」などと指摘された。

 ドイツ最大の自動車企業であるフォルクスワーゲングループは企業価値を一段と高めるため、1998年には英国の重工業メーカーのヴィッカースから自動車部門のロールス・ロイスおよびベントレーを買収する。このとき、同じドイツの自動車企業であるBMWも同社と買収の交渉を進めていたためにトラブルが発生。最終的にベントレーがフォルクスワーゲンに、ロールス・ロイスはBMWに属することとなった。

 ベントレーとフォルクスワーゲンの首脳陣は、早々にベントレー・ブランドの活用方法を検討する。得られた結論はダイナミックなものだった。ベントレー創業初期のイメージの復活である。創業初期のベントレーは、エンブレムの“フライングB”に象徴される、高級かつ高性能なスポーツカーを生み出すメーカーとして市場で認知されていた。ル・マンをはじめとする名レースでの数々の勝利、そして“ベントレーボーイズ”と呼ばれた若手ドライバーの活躍も、クルマ好きの心に深く刻まれていた。しかし、1931年からのロールス・ロイス傘下、さらに1973年からのヴィッカース傘下でのベントレーはレース活動が封印され、しかも開発・生産するモデルはロールス・ロイス車のバッジ違いのオーナーカー版にとどまっていた。今後は、ベントレー本来の高性能スポーツカーというキャラクターを復活させる。これがベントレー、フォルクスワーゲンの首脳陣の共通テーマになった。
 フォルクスワーゲンからは数百万ポンドにおよぶ資金や最新の技術、さらに多くのエンジニアが送り込まれ、一方のベントレーでは新たな開発・生産体制が構築される。そして、新生ベントレーの最初の量産モデルとして、“MSB(Mid-Size Bentley)”と称する新しい高性能スポーツクーペの企画が推し進められた。

超高性能4シータークーペのデビュー

 新生ベントレーが放つニューモデルは、2003年開催のジュネーブ・ショーでベールを脱ぐ。車名は「コンチネンタルGT」。1952年に斬新なプレーンバックの流線形スタイルを纏ってデビューした「Rタイプ・コンチネンタル」をモチーフとする、新世代スポーツクーペが発表されたのだ。

 コンチネンタルGTにはフォルクスワーゲンの最新技術が目一杯に盛り込まれていた。フロントに搭載するエンジンはV型6気筒の2基を72度で組み合わせたW12ユニットをベースに、過給器などを加えて専用セッティングを施した5998cc・W型12気筒DOHC48Vインタークーラー付ツインターボユニットを採用する。エンジンマネジメントには専用タイプのボッシュME7.1.1を装備。圧縮比は9.0に設定し、最高出力560ps(412kW)を6100rpm、最大トルク66.3kg・m(650N・m)を1600〜6100rpmの回転数で発生した。組み合わせるトランスミッションは専用セッティングのZF製6HP26A型6速ティプトロニックAT(ステリングコラムパドルシフト付)の1機種。駆動機構にはトルセン式センターデフを組み込むフルタイム4WD(AWD)を採用した。

 プラットフォームはフォルクスワーゲン・フェートンに採用するD1タイプをベースに、スポーツカーの特性に合わせて緻密かつ大がかりな改良を実施する。組み合わせるボディは、センターピラーを省略したファストバッククーペで仕立てた。懸架機構は前ダブルウィッシュボーン/後マルチリンク式で、電子式連続可変ダンピングコントロール・セルフレベリングエアサスペンションをセット。ダンピング調整はマニュアルでの設定も可能とした。制動機構には前後ベンチレーテッドディスクブレーキを採用。操縦安定性を統合的に電子制御するエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)も組み込む。装着タイヤは275/40R19サイズが標準で、20インチ仕様(275/35R20)をオプションで用意。パフォーマンス面では、最高速度が318km/h、0→100km/h加速が4.8秒と公表された。

伝統と革新が融合した造形。室内は4シーターレイアウト

 スタイリングに関してはベントレーのトップデザイナーであるラウル・ピレスが開発を主導する。伝統と革新を融合させた力強いファストバッククーペのフォルムには、ボンネット一体型のマトリックスグリルや“フライングB”エンブレムを飾ったラジエターシェル/トランクリッド/ホイールセンター、ウォッシャージェット内蔵ツインバイキセノンヘッドランプなどを装備。さらにリア部には、ロアスクリーンに組み込む自動格納式スポイラーをセットした。

 ボディサイズは全長4808mm、全幅1916mm、全高1390mm、ホイールベース2745mmに設定。高級スポーツカーらしく、ボディ塗装には入念な処理を施した。4シーターレイアウトのインテリアは、レザーやウッドパネル、光沢クロム仕上げのパーツをふんだんに盛り込んで豪華かつスポーティに演出したうえで、最新のエアコンやナビゲーションシステムなどを採用して最上レベルの快適性を確保する。安全装備にも抜かりはなく、前2席&サイド&カーテンSRSエアバッグやブレーキアシスト、雨滴感知式ワイパーなどを組み込んだ。さらにベントレーは、細かな注文装備にも対応。製作は長年のパートナーであるコーチビルダーのミュリナー(Mulliner)が担当した。

4ドアサルーンとコンバーチブルでラインアップ充実

 大規模な設備投資を行った英国本社のクルー(Crewe)工場で生産する新世代ベントレー車のコンチネンタルGTは、発表から最初の1台が納車されるまでの約8カ月で3200台あまりの好調な受注を記録し、ベントレー復活の起爆剤になる。この勢いにさらに拍車をかけようと、同社の首脳陣および開発陣はコンチネンタル・シリーズのラインアップ拡充を鋭意計画した。

 まず2005年には、全長を503mm、ホイールベースを320mm延長して4ドアボディ化した高級サルーンの「コンチネンタル・フライングスパー」を発表する。搭載エンジンはGTと共通の5998cc・W12ツインターボユニット。シートレイアウトは5人乗りと4人乗りを用意した。
 2006年になると、コンバーチブルモデルの「コンチネンタルGTC」を追加する。ルーフ部は7本のフレームで支えた3層構造のファブリック製トップとヒーター付リアガラススクリーンで仕立てられ、開閉機構には電動油圧式を採用。開閉に要する時間は約25秒とされた。また、オープンボディ化にあたってはサイドシルやウィンドフレームの補強、アンダーフロアへのクロスブレースの追加、リアサブフレームマウントの改良などを行って剛性を高める。エンジンなどの基本スペックはクーペのGTと基本的に共通だった。

ハイパフォーマンス仕様のGTスピードを設定

 2007年にはハイパフォーマンス仕様の「コンチネンタルGTスピード」が市場デビューを果たす。搭載エンジンは新設計のコンロッドやピストン、エンジンマネジメントシステムなどを採用した5998cc・W12ツインターボユニットで、パワー&トルクは610ps(449kW)/76.5kg・m(750N・m)にまでアップ。シャシーにも変更が加えられ、エアスプリングおよびダンパーの強化とともに車高を前10mm/後15mmほどダウンさせる。シューズには275/35R20タイヤ+9.5J×20アルミホイールをセット。パワーステアリングのプログラムには専用セッティングを施した。

 ほかにも、ダーククロム仕上げのフロントグリルやツインオーバル形状のステンレススチールテールパイプ、ブラックペイントのエンジンカバー、3本スポークタイプのステアリング、ダイヤモンドキルティングハイド表地のシート&ドアトリム、スポーティングギアレバーといったスペシャルアイテムを標準で装備する。性能面では最高速度が326km/h、0→100km/h加速が4.5秒とアナウンスされた。一方、GTスピードの登場に合わせて標準モデルのコンチネンタル・シリーズのマイナーチェンジも実施される。改良項目は、エンジンクランクケース内部の形状の見直しやカムシャフト駆動用チェーンドライブのシングル化、懸架機構へのアルミ部材の拡大展開、パワーステアリングのセッティング変更、フロントデザインのリファイン(エアフローが14%アップ)など。緻密なモディファイによって、コンチネンタル・シリーズの完成度はいっそう高まった。

トップスピード329km/h! 最強スーパースポーツ登場

 2008年になると、GTスピードと同様のハイパフォーマンス化を施した4ドアサルーンの「コンチネンタル・フライングスパー・スピード」を、2009年にはコンバーチブルモデルの「コンチネンタルGTCスピード」を追加する。さらに同年には、最強バージョンの「コンチネンタル・スーパースポーツ」をリリースした。

 搭載するW12エンジンは、ターボのブースト圧アップなどによってパワー&トルクが630ps(463kW)/81.6kg・m(800N・m)にまで向上。また、使用燃料をE85(バイオエタノール15%混合の燃料)フレックスフューエル対応とする。6速ATには新たに変速タイムの50%縮小やダブルシフトダウンを可能にしたクイックシフトシステムをセット。シャシー面では専用セッティングを施すとともに、一部パーツの軽量化を敢行。AWD機構は前40:後60(標準は前50:後50)をベースとするシステムに変更した。さらに、ダイナミックモードを加えた進化版のESPやカーボンセラミックブレーキ、20インチ・10スポーク軽量アルミホイールといった高性能アイテムも装備する。性能面では最高速度が329km/h、0→100km/h加速が3.9秒と公表された。
 2010年にオープンボディの「コンチネンタル・スーパースポーツ・コンバーチブル」を設定した新世代コンチネンタル・シリーズは、同年11月になるとクーペモデルのGTが第2世代に移行する。2011年にはコンバーチブルのGTCも新型に切り替わった。

 ベントレーの復活を象徴した高性能スポーツカーの初代コンチネンタルGTシリーズは、最終的に約2万3000台の生産台数を記録する。この数字は、それまでのベントレー車の累計生産台数約1万6000台を大きく上回る驚異的なレコードだった。ベントレーのクラフトマンシップとフォルクスワーゲンのテクノロジーが融合すれば、世界に冠たる高性能スポーツカーを生み出すことができる−−。それを証明したのが、コンチネンタルGTというエポック車だったのである。