900 【1979~1993】

多彩なバリエーションで人気を博した前衛モデル

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上位移行を想定したニューモデルの開発

 サーブの主力モデルとして1967年にデビューした99シリーズは、その先進的な機構と高効率なパッケージング、そして地道な改良などが功を奏し、10年あまりが経過した1970年代後半でも根強い人気を維持ししてた。しかし、外的要因が同車を襲う。モータリゼーションの発展に伴う自動車死亡事故の増加だ。とくにメイン市場のひとつであるアメリカでは、この対策のため1978年より衝突安全性能テスト(自動車アセスメント=New Car Assesment Program、略称NCAP)の実施が決まっており、この安全基準を99がクリアするのは困難なことが予想された。また、ユーザーニーズを踏まえたモデルの上級化、さらには車種バリエーションの拡大を図るには、基本設計の古い99ではもはや限界があった。最終的にサーブ・スカニア社の首脳陣および技術陣は、99シリーズの後継を担うニューモデルの開発を決断。“X36”のコードネームのもと、新型車の企画が進められた。

新型は安全性を重視した構造を各部に採用

 X36の基本骨格には、開発資金や期間の制約もあり、既存の99をベースとする方針が打ち出される。新しい衝突安全基準に対応する目的で、スチールモノコックのボディはノーズを延長するなどしたクラッシャブル構造を採用。また、衝突時の衝撃をホイールハウジングに伝え、エンジンが後方へ移動することを防ぐクラッシュメンバーを内蔵する。さらに、ピラーやルーフ、ドアの内部には補強メンバーを組み込んだ。キャビンの拡大や走行安定性の向上の狙って、ホイールベースも45mmほど延長(2515mm)。ボディ幅およびトレッドも拡大する。懸架機構はフロントにピボットマウント式のコイルスプリングを組み込んだダブルウィッシュボーンを、リアにリジッドチューブを採用した5リンクをセット。ダンパーには専用セッティングのガス封入式を装備した。また、操舵機構には衝撃吸収ステアリングコラムを組み込んだラック&ピニオン式を採用。ブレーキはダイアゴナル配管2系統式の前後ディスク式を導入する。さらに、バンパーをアルミハニカムブロックを内蔵する復元式衝撃吸収タイプとした。

900シリーズとして市場デビュー

 X36プロジェクトは、1978年5月になるといよいよ陽の目を見る。「900」という車名を冠したサーブの新世代シリーズが、1979年モデルとしてデビューしたのだ。発売は1978年秋で、ボディタイプは3ドアハッチバックと5ドアハッチバックの2タイプでスタート。デザイン部門トップのビョルン・エンヴァールが主導した車両デザインは、前方にスラントしたフロントセクションとファストバックのリアセクション、丸みを帯びたルーフ先端などで最新の空力フォルムを構築する。

インテリアは、サーブ・スカニア社の航空技術を活かしたコクピットデザインを採用したことがトピック。緩やかなカーブを描くインパネは、運転に最も重要な機能(計器類およびコントロールボタン)を集中させた1次ゾーンと付加的な機能を集めた2次ゾーン(照明類や空調類など)でシンプルに構成し、同時にドライバーが手を少し伸ばすだけで主要なスイッチにアクセスできるレイアウトを採用する。99シリーズよりホイールベースを長くした結果、ペダルのオフセットも解消された。シートは確実なサポートと厚いクッションを持たせた新ハイバックタイプをセット。後席には格納機構を内蔵し、ラゲッジ容量は後席使用時で602L、折りたたみ時では1600Lを実現した。

 ハイドロリックエンジンマウントで縦置き搭載されるパワーユニットはB20系の1985cc(本国仕様。日本仕様では1984ccと表記)直列4気筒OHCで、自然吸気のシングルキャブレター仕様(100ps)、ツインキャブレター仕様(107ps)、機械式燃料噴射仕様(118ps)とノックセンサー付きのターボ(145ps)をラインアップする。駆動レイアウトはFF。トランスミッションには4速MTのほか、ボルグワーナーの3速ATを組み合わせた。

4ドアセダンと4ドアストレッチセダンの設定

 99シリーズよりも質感が向上し、しかも走りや居住性、安全性なども向上した900シリーズは、本国での発売直後から好調な受注を記録。また輸出先、とくに米国市場で高い人気を博し、販売台数を大いに伸ばしていく。この好セールスに対応して、サーブ・スカニア社は本国トロールハッタン工場での増産を実施。さらに開発現場では、車種ラインアップの拡大や市場ニーズに合わせた改良を精力的に行った。

 1980年モデルでは、リアコンビネーションランプの大型化およびガーニッシュのブラックアウト化やヘッドレスト調整機構付フロントシートを採用、ターボなど上位グレードへの5速MTの設定を行う。1981年モデルでは新ボディタイプとして3ボックススタイルの4ドアセダンを追加。ルーフをハッチバック比で30mmほど延長し、後席の居住性を高めたサルーン版は、既存モデルと同様にリアシートに後席可倒機構を内蔵。トランク容量は後席使用時で617L、折りたたみ時では1500Lを確保した。またこの時、エンジンのリファインも敢行。通称“H”型と呼ばれる新ユニットは、排気量およびヘッド機構は変わらないものの、ディストリビュータやフューエル/オイル/ウォーターポンプを駆動するアイドラーシャフトの省略(ディストリビュータとフューエルポンプはカムシャフト、オイルポンプはクランクシャフト、ウォーターポンプはオルタネータと同じベルトで駆動)や圧縮比のアップ、ターボタービンの小型化などを実施した。

 1982年モデルになると、ターボエンジンに自動性能制御装置のAPC(Automatic Performance Control。技術発表は1980年)を搭載。さらに、4ドアセダンをベースにホイールベースを200mmほど延長(2715mm)したストレッチバージョンの900CDをラインアップする。1983年モデルでは、ノンアスベストのブレーキパッドの採用やレザーインテリアのオプション設定などを実施した。

米国ASCと共同開発したオープンモデルの登場

 1984年モデルになると、新ボディタイプとして2ドアセダンをラインアップ。廉価版のサルーンモデルとして好評を博した。1985年モデルでは、ターボエンジンの大刷新が図られる。ヘッド機構にDOHC、さらに1気筒当たり4バルブの計16バルブを採用し、同時にAPCと空冷式インタークーラーを組み込んだ新ユニットが設定されたのだ。最高出力は160psに向上し、最高速度はメーカー公表値で222km/hに達した。

 1986年モデルでは、待望の4シーターオープンのカブリオレが登場する。カブリオレは1983年開催のフランクフルト・ショーに参考出品された。メーカーとしては当初、ショーモデルとして考えていたが、米国をはじめとする主要市場から市販化の要望が多く寄せられ、最終的にプロダクションモデルとする決断を下した。車両デザインについては引き続きエンヴァールが主導。開発には米国のASC(American Sunroof Corporation)が参画する。オープンボディ化に当たっては、ウィンドウフレームおよびAピラーの強化やキャビンまわりの補強、サイドシル鋼板厚のアップ、後席背後への横方向ビームの追加などを実施。電動開閉式のソフトトップは多層構造のキャンバスタイプで、リアウィンドウには熱線入りのガラスをセットした。折りたたまれたトップは、トランクとリアシートの間のスペースにきれいに収まるようにアレンジする。生産については、フィンランドのウーシカウプンキ工場が担当した。ちなみに1986年モデルでは、新形状のステアリングやシートの装備、OHCターボエンジンへのインタークーラーの追加(157ps)、そして自然吸気のDOHC16Vエンジン(125ps)の設定なども実施された。

15年あまりに渡るロングセラーモデルに昇華

 1987年モデルになると、比較的大がかりなフェイスリフトが行われる。最も大きく変わったのはフロントセクションで、ノーズをよりスラント化するとともにバンパーをホイールハウス部にまで拡大。スポイラー形状も刷新された。1988年モデルではフロントブレーキのベンチレーテッドディスク化や水冷式ターボチャージャーを採用を実施。1989年モデルでは、ABSを設定するなどの改良を図る。また、このモデルイヤーを最後にOHCエンジンはカタログから外れた。

 1990年モデルでは、新エンジンのDOHC16Vライトプレッシャーターボ(LPT。145ps)を追加設定。同時に、全モデルの燃料タンク容量を63Lから68Lにアップする。ちなみに1990年中には、サーブ・スカニア社の乗用車部門がゼネラルモーターズ (GM) との折半出資会社のサーブ・オートモビルに移管された(2000年にはGMが完全子会社化)。1991年モデルになると、既存エンジンのボアを90.0mmから93.0mmに広げて排気量を2119ccとした新しい直列4気筒DOHC16Vエンジン(140ps)をラインアップ。1992年モデルでは、カブリオレの一部装着パーツのデザイン変更などを実施した。
 1993年になると、オペル・ベクトラのプラットフォームを使用した第2世代の900シリーズが市場デビューを果たす。99から続くサーブ独自の基本骨格を採用した“Classic 900”は、同年3月に生産を終了。15年あまりに渡って生み出された台数は、90万8817台(内カブリオレは4万8888台)にのぼった。