トヨタESV-II(実験安全車) 【1972】
衝突安全性を徹底追及したコンセプトモデル
1972年の東京モーターショーにトヨタは「ESV-II」を出展する。ESV-IIは、自動車の衝突安全性を高めるため、アメリカ運輸省・高速道路交通安全局(NHTSA)が開発を呼びかけたESV(Experimental Safety Vehicle=実験安全車)の第2弾。メーカーではセリカとの関連を明言していないが、スポーティなイメージのスタイリングと先進メカニズムは、未来のセリカを思わせた。
ESVの開発目標は80km/hでの正面衝突、64km/hでの側面衝突、48km/hでの横転、80km/hでの追突事故に遭遇しても乗員が助かること。当時としては極めて高度な内容だった。
ESV-IIはキャビンスペースをコンパクトにまとめた2シーター仕様。ボディサイズは全長×全幅×全高4150×1780×1290mm。ホイールベースは2300mm。車重は1150kgの設定だった。パワーユニットには、初代セリカ用の1.6ℓの2T型を3速オートマチックと組み合わせて搭載していた。
スタイリングは、有効なクラッシュブルゾーンを確保したロングノーズ造形。前後バンパーは大型シリコンラバー製で、16km/hまでの衝撃を吸収した。足回りは前がダブルウィッシュボーン式、リアがセミトレーリングアーム式の4輪独立システム。ステアリングは正確な反応を示すラック&ピニオン式で、ドアは補強材をビルトインした頑丈な構造である。
室内は、シートベルトを内蔵した大型シート、エアバッグ、分厚いクラッシュパッドを採用。エアバッグは、強い衝撃を受けた場合の展開スピードを調節し、パッセンジャーを有効に保護するシステムとなっていた。
ESV-IIに盛り込まれた安全設計は、その後のトヨタ各車に積極的に採用される。例えば衝撃吸収式のバンパーは、1974年以降のセリカのマイナーチェンジモデルで採用。衝撃を吸収する速度はESV-IIの16km/hではなく、8km/hに変更されたが、それでも従来のバンパーに対して安全性は大幅に向上した。
クラッシャブルボディ構造も、その後の世代で順次導入。4輪独立式のサスペンションは、フロントの形式こそ異なるものの2代目セリカや後のマークIIなどから組み込まれた。ラック&ピニオン式のステアリング構造もその後のトヨタ各車に積極導入された。
トヨタ各車は国内マーケットだけでなく、世界各地に輸出されるワールドカーだった。それだけに安全性に対する配慮は、最高水準が求められた。安全実験車のESV-IIは、その後もトヨタ各車の開発に様々なカタチで貢献する。
1970年代は、エンジンの低公害化とともに、安全性の向上が重視された。ESV-IIがその後のセリカなどをイメージさせるスポーティなイメージでまとめられたいたことは興味深い。トヨタは当時からスピード性能と安全性はともにバランスしてこそ価値があることを知っていたに違いない。