フェローSS 【1968,1969,1970】

鋭い加速、スパイシーな走りの軽スポーツセダン

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


好調なフェローを襲ったホンダN360の衝撃

 ダイハツは1966年9月、同社初の軽乗用車フェローを発売する。フェローはミゼットやハイゼットによって、軽商用車の分野で確固たるポジションを築いていたダイハツが満を持して市場に送り出した自信作だった。スタイリングは“プリズムカット”と呼ぶ、リアに独立したトランクスペースを持つ3BOXスタイル。エンジンはハイゼット用をリファインした2ストローク2気筒。駆動方式はFRというダイハツらしい堅実な成り立ちを特徴としていた。

 フェローは、運転のしやすさと広い室内、信頼性に優れたメカニズム、そして4輪独立サスペンションが提供する乗り心地の良さをセーリングポイントに順調に販売を伸ばす。旧態化が目立ちはじめたスバル360や、マツダ・キャロルに対し、フレッシュに見える点も追い風になった。

 しかし、1967年3月にホンダN360が発売されると、一気にその影は薄くなってしまう。パワー、メカニズム、スタイリングのすべての点に置いて“常識破り”のN360に対し、フェローは、軽自動車の枠のなかでの“正統派”を貫いていたからだった。フェローは保守的な比較的年齢層の高いユーザーには、引き続き支持されたものの、目覚ましい伸びを示していた若年層には見向きもされなくなってしまう。

走りでユーザーを魅了したフェローSS

 N360対策として1968年6月に誕生したのが、軽自動車初の本格スポーツモデル、フェローSSだった。フェローSSは、エンジンをツインキャブ化と高圧縮比化で32ps/6500rpm、3.8kg-m/5000rpmまでチューニングし、4速フロアシフトを採用。内装にはタコメーターやイタリア・ナルディ風の3本スポークステアリング、サポート性を重視したシートを備え、外観もフロントグリル回りとホイールに赤いラインが走るなど精悍だった。

 フェローSSは別格の走りでユーザーを魅了する。標準仕様の23psから9psもアップしたエンジンは4500rpm以上で実力を発揮。性能を引き出すには相応のテクニックを必要としたが、パフォーマンスの向上は目覚ましく、腕に覚えのあるドライバーが操ると0→400m加速を21.2秒で駆け抜け、トップスピードは115km/hに達した。パフォーマンスはホンダN360を凌ぎ軽自動車トップ。サニーやカローラなどの小型車を相手にしても信号からの発進加速では負けない高い実力を誇った。

 FFのホンダN360と違い、ハンドリングにクセがないFRレイアウトだった点もフェローSSの美点だった。適度に固められたSSの足回りは32psの高出力をしっかりと受け止め、軽快な操縦性を披露した。フェローSSはドライビングの腕を磨くのに最適なスポーツモデルとしてマニアから高い評価を得る。

ライバルに大きな刺激を与えた“羊の皮をかぶった狼”

 地味な印象の強かったフェローは、SSの登場によって復活した。N360とは別種の本格派の味わいで人気を博す。ダイハツは小型乗用車のコンパーノや、レーシングプロトタイプP-5などで積極的にモータースポーツ活動を展開。もともとスポーツ分野への造詣が深いメーカーだった。フェローSSは、その経験をフルに生かしたモデルだけに完成度が高かった。しかもベースモデルが大人しい印象だったため、SSは当時圧倒的な人気を誇ったスカイラインGTに通じる“羊の皮を被った狼”的なイメージを発散した。いわば通好みのクルマだったのである。

 フェローSSの成功は、ライバルメーカーに大きな影響を与える。各社がスポーツモデルを開発するきっかけを与えたのだ。スズキは36psの3キャブレター仕様のフロンテSSを、三菱は38psのミニカGSS、スバルも36psのヤングSS、そして高性能軽自動車の火付け役ホンダもN360に36psのツーリングを設定する。その様相は、まさに“パワーウォーズ”という表現が適当なほどだった。本来ベーシックカーであるはずの軽自動車のスポーツモデルは、限られた排気量の中で、極限までパワーを追求した超ホットモデルだった。続々と登場するライバルの中にあって、フェローSSの高性能ぶりは相対的に目立たなくなる。ダイハツは、現行フェローSSの更なる高性能化を目指すのではなく、クルマそのもののモデルチェンジを急ぐ作戦を選び、1970年4月にFFレイアウトを採用した次世代のフェローMAXを送り出す。そしてMAXのラインアップに40ps仕様の新生SSを加えた。