ラッシュ 【2006,2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015,2016】
キュートなスタイルの本格クロスカントリーSUV
ラッシュは2006年1月、トヨタ最小サイズのSUVとしてデビュー。実態はダイハツ・ビーゴのOEM供給車である。したがって開発と生産は、トヨタではなくダイハツが担当していた。特徴はコンパクトサイズながら、オフロードをしたたかに走り抜ける本格クロスカントリー設計にあった。
ラッシュのボディサイズは全長×全幅×全高3995×1695×1705mm(4WD)。都会から田舎まで、日本の道路インフラにベストマッチの取り回しに優れたサイズ設定だった。しかも最小回転半径は4.9mと小回りが利いた。
メカニズムはリアルオフローダー。コンパクトSUVというと、FFハッチバックモデルをベースにしたクルマが多い中、ラッシュは、完全独自設計。駆動方式は2種類。エンジン縦置きのセンターデフ式4WDを基本に、FRレイアウトを設定。ボディ構造は強靭なビルトインフレーム式モノコック方式。最低地上高は200mm(4WD)とたっぷり確保されていた。4WD車にはスイッチ操作でセンターデフをロックする機構を盛り込み、オプションで後輪用LSD(リミテッドスリップデフ)も用意された。足回りはたっぷりとした有効ストロークを確保した前ストラット、後5リンク式の組み合わせ。16㌅サイズの大径タイヤと相まって、ラッシュの走破性は超一級だった。4WD車は積雪路はもちろん、オフロードを難なく走り切った。さすがにトヨタ・ランドクルーザーには敵わなかったが、2ℓクラスのRAV4と比較すると、ラッシュのほうが走破性は高かった。
ラッシュがなぜ走破性を重視していたのか。それはラッシュ(そしてビーゴ)が、日本以上に東南アジアの市場をターゲットにしていたからだった。東南アジアは、まだまだ劣悪な道路環境が多い。SUVに期待されるのはファッション性ではなくパフォーマンス。したたかにどんな道も走り抜けられる走破性である。ラッシュがすべてにヘビーデューティなメカニズムを採用していたのは、東南アジアの市場ニーズをきちんと盛り込んでいたからだった。ちなみに東南アジア向けにはラッシュのホイールベースを105mm伸ばした3列シート車(ネーミングはダイハツ・テリオス)も設定されていた。
ラッシュの車種構成は、上級版のGとシンプル装備のXの2グレード構成。全車パワーユニットは1495ccの直4DOHC16V(109ps/14.4kg・m)。トランスミッションは4速ATと5速MTを設定していた。駆動方式は前述のように4WDとFRの2種である。
走りはしっかりとした印象。フレームをビルトインした効果でボディは強靭そのもの。実用域のパワーを重視したエンジンチューンと相まって力強い走りが味わえた。オフロードに分け入っても、信頼感は抜群だった。ステアリングの反応は素直。小回りが利いたので、狭い道でも持て余す心配はなかった。
スタイリングは4本のタイヤがしっかりと踏ん張ったキュートで安定感重視の造形。リアゲートに配置したスペアタイヤがタフなイメージを訴求した。室内は快適性を追求。メーターはスポーティなイメージの3眼式。中央部にナビ&オーディオと空調コントロールをビルトインし、小物入れを各所に配置する。4速ATはインパネシフト、5速MTはフロアセレクト方式だった。シートは前後ともに快適な座り心地を持つファブリック張りの大型サイズ。後席は6対4分割のダブルフォールディング機構付き。後席使用時のラゲッジスペースはさほど広くなかったが、後席を畳むと自転車がそのまま積めるほどの自由空間が出現した。
ラッシュはデビュー後、2008年11月に内外装をリファインするマイナーチェンジを実施。2013年1月には4WD車に車両安定装置(VSC)とトラクションコントロール(TRC)を標準装備(以前はオプション)するとともに、MT仕様を廃止する。そして2016年3月に販売を終了。約10年のモデルライフに幕を下ろした。後継モデルは残念ながらなかった。地味ながら内容が濃い良質車だった。