ターセル 【1986,1987,1988,1989,1990】
主力を横置きエンジンのFFに一新した3代目
若々しくてフレッシュなスタイリングや明るくワイドなイメージのキャビン空間などを創出し、ヒット作に昇華した2代目ターセル(とコルサ/カローラII)。FF大衆乗用車の定番モデルに成長した同シリーズのフルモデルチェンジに際し、開発陣は販売の中心となっていた2ボックス車の3/5ドアハッチバックだけの全面改良を決断する。3ボックス車(ターセルとコルサ)4ドアセダンについては、従来型をベースに内外装を一部変更するのみにとどめた。
当時のトヨタ自動車のスタッフは「4ドアセダンを廃止する計画もあったが、販売側(ターセルがビスタ店、コルサがトヨペット店)からコンパクトで安価なセダンを残してほしいという要望があり、マイナーチェンジの形でラインアップすることにした。両店ではカローラ(カローラ店扱い)やスプリンター(オート店扱い)のようなベーシックセダンは貴重だった」と、その内情を解説してくれた。加えて、「そのぶん、2ボックス車の全面改良は思い切ってやった」そうだ。
3代目となる2ボックスのターセルを企画するに当たり、開発陣は2ボックス車のユーザー指向を徹底的に精査する。そして、近年の2ボックス・ユーザーはスポーティ指向の若者層からファッショナブル指向の女性層、経済性および実用性重視のファミリー層まで、多様化し個性化していることを把握した。また、すべての層に共通して、クルマの質感向上や高性能化、利便性のアップなどを求めているのが分かった。
ユーザーニーズに対応するため、開発陣はターセルのボディスタイルを3タイプに大別する。スポーティ指向にはクラス初のフルリトラクタブルヘッドライトやフラッシュサーフェス化したキャビンなどを採用する3ドアリトラを、ファッショナブル指向には薄型ヘッドランプや明快なサイドシルエット、利便性の高い装備類を持つ3ドアを、実用性重視の層にはシックスライト・ウィンドウのスタイルにロングキャビンを有する5ドアを創出した。ボディカラーは透明感と輝きのあるニューメタリック色を開発し、ウォームグレーメタリックやベージュメタリックなど計6タイプを設定する。
開発陣はメカニズムについても大刷新を図る。エンジンは新開発の“レーザー3E-12バルブ”1456cc直4OHC12V(79ps/12.0kg・m)と“レーザー1Nディーゼルターボ”1453cc直4OHCディーゼル+ターボチャージャー(67ps/13.3kg・m)、改良版の“レーザー2E-12バルブ”1295cc直4OHC12V(73ps/10.3kg・m、パーシャルリーンシステム仕様67ps/10.0kg・m)という3機種を設定。駆動レイアウトは横置きエンジンのFF方式に一新した。
オートマチックトランスミッションには2ウェイオーバードライブ付4速ATと2ウェイ3速AT、3速ATの3形式を用意し、イージードライブの需要に対応する。シャシーに関しては、フロントサスペンションにマクファーソンストラット式を、リアに新開発のスタビライザー内蔵トレーリングツイストビーム式を採用し、操縦性と走行安定性の向上を図った。また、女性向けグレードおよびスポーツパッケージには、エンジン回転数感応型パワーステアリングを装備する。
3代目となるターセルは、兄弟車のコルサ/カローラ㈼とともに1986年5月に市場デビューを果たす。グレード展開はスポーティ仕様の3ドア・リトラVS、3ドアおよび5ドアのVX/キューティ/VL/VCをラインアップした。
1986年9月になると、スポーティ指向の真打ちといえるモデルが登場する。3ドア・リトラ“GPターボ”の追加設定だ。搭載エンジンは新開発の“レーザーα3E-12バルブターボ”1456cc直4OHC12V+空冷式インタークーラー付き2モードターボで、パワー&トルクは通常モード時が110ps/17.2kg・m、LOモード時が97ps/15.2kg・mを発生する。また、GPターボでは足回りの強化や内外装のスポーティな演出、TEMS(トヨタ電子制御サスペンション)および新プログレッシブパワーステアリングのオプション設定化なども実施した。
ユーザー指向を大別してグレードごとのキャラクターを鮮明化し、2ボックス車としての魅力度を存分に引き上げた第3世代のターセル。その開発方針は、以降のモデルにも引き継がれていくこととなった。