日産レパードvsトヨタ・ソアラ 【1980,1981,1982,1983,1984,1985,1986】
1980年代初頭に勃発したビッグスペシャルティ対決
オイルショックと段階的に実施された厳しい排気ガス規制を乗り越え、開発体制をクルマの高性能化にシフトできるようになった1970年代終盤の日産自動車とトヨタ自動車。日本の自動車市場をリードする2大メーカーは、1980年代に向けてどうしても開拓したいジャンルがあった。
1970年代後半、日産はブルーバードの2000G6シリーズ、トヨタはコロナ・マークIIの2600シリーズといった“高級パーソナルカー”をリリースしていた。これらのユーザーからは、「もっと高品質で高性能なモデルを−−」という声が日増しに高まる。メーカー側としてもその要求は十分に把握しており、排気ガス規制対策に目処がつけば、早急に新しい高級パーソナルカーの開発を本格化させたいと思っていた。そして1970年代終盤になって、ようやく開発環境が整ったのである。
新しい高級パーソナルカーを企画するに当たり、2社に共通していたのは「既存車のバリエーション拡大では、もはや限界」という認識だった。そして、機構的にもイメージ的にも、斬新なニューモデルでなければ1980年代の高級パーソナルカーには仕上がらない、と判断する。結果的に2社の開発陣は、従来モデルには縛られない新ジャンルの高級パーソナルカーの創出を目指すこととなった。
最初に新世代の高級パーソナルカーをリリースしたのは、日産自動車だった。同社は1980年9月に、F30型系の“レパード”(日産店向け)と“レパードTR-X”(チェリー店向け)を市場に放つ。
レパードは多くの点で時代を先駆けていた。スタイリングはシャープな直線を巧みに組み合わせたエアロフォルムで、空気抵抗係数(Cd値)は0.37を実現する。ボディタイプは2ドア/4ドアハードトップの2タイプを用意した。総ソフトトリムで仕上げた室内には、マルチ電子メーターやドライブコンピュータ、オートボリュームコントロールといった先進機構を満載。メカニズム面でも、オートレベライザーやASCD(オートスピードコントロール装置)、ワイパー付きフェンダーミラーなどを装備した。
一方、搭載エンジンは従来の改良版で、ECCS(エンジン電子集中制御システム)を組み込んだL28E型2753cc直6OHC(145ps)とL20E型1998cc直6OHC(125ps)、そしてZ18型1770cc直4OHC(105ps)の計3機種を設定する。また、ステアリング機構にはラック&ピニオン式を、四輪独立懸架の足回りにはゼロスクラブサスペンション/リアスタビライザー/スチールラジアルタイヤを採用し、操安性と乗り心地の向上を図った。
レパードがデビューしたのと同年、トヨタ自動車は大阪国際オートショーの舞台に“EX-8”という参考出品車を展示する。そして翌年2月、EX-8の市販版であるMZ11/GZ10型系“ソアラ”を市場に送り出した。
キャッチフレーズに“スーパーグランツーリスモ”と称したソアラは、レパード以上に新機構を満載していた。四輪独立懸架の足回りを採用したシャシーは新設計で、しかも四輪ベンチレーテッドディスクブレーキやミシュラン製ラジアルタイヤなども組み込む。搭載エンジンは新開発の5M-GEU型2759cc直6DOHC(170ps)と改良版の1G-EU型1988cc直6OHC(125ps)を設定した。
ソアラは内外装についてもトピックが目白押しだった。2ドアノッチバックのスタイリングは、台形フォルムを基本に流麗で端正なルックスを構築。Cd値も0.36に達した。一方、上質な素材で覆われた内装には、最新のエレクトロニクス技術が積極的に採用される。具体的には、エレクトロニックディスプレーメーター/デジタル式任意速度警報装置/マイコン式オートエアコン/スピークモニター/クルーズコンピュータなどの先進機構が組み込まれた。
1980年代初頭に相次いで登場した高級パーソナルカーのレパードとソアラは、やがて“ビッグスペシャルティカー”という新カテゴリーに位置づけられるようになり、市場での注目度を高めていく。ただし、販売シェアに至ってはソアラがレパードを圧倒した。エンジンに最新のDOHCを採用し、スタイリングや内装の高級感も上回っていたことが、ソアラ人気を高めた要因だった。
販売シェアを奪回しようと、日産の開発陣はレパードに様々な改良を加える。1981年7月にはL20ET型エンジン(145ps)を積むターボ仕様を追加。1982年9月にはマイナーチェンジを実施し、内外装の洗練度を高める。そして1984年6月になると、VG30ET型2960cc・V6OHCターボエンジン(230ps)を搭載する300ターボをラインアップに加えた。
一方のソアラも負けてはいない。1981年7月にはM-TEU型エンジン(145ps)を積む2000ターボ仕様を設定し、翌'82年3月には最上級グレードの2800GTリミテッドを追加。1983年2月にはマイナーチェンジを敢行し、内外装の変更や1G-GEU型1988cc直6DOHC24Vエンジン(160ps)の設定などを行う。そして1985年1月になると、6M-GEU型2954cc直6DOHCエンジン(190ps)搭載車が登場した。
結果的にソアラの圧勝に終わったビッグスペシャルティ市場でのシェア争い。その第2章は、2車ともに全面改良を実施する1986年から展開されることとなる。