カレン 【1994,1995,1996,1997,1998】
伸びやか造形の2ドアスペシャルティ
カレンは1994年1月に登場したブランニューの2ドアスペシャルティだった。ただしブランニューとは言っても、実質的にはセリカの2ドアクーペという性格で、シャシーやインテリアは1993年10月に登場した6代目セリカと共通。セリカとの相違点はリア回りがノッチバックのクーペスタイルとなっていること。そしてフロントマスクが大小4個の丸形ランプを配置したセリカと異なり、オーソドックスに仕上げていることだった。
全長4490×全幅1750×全高1310mmのボディサイズは、セリカと比較して55mm長く、5mm高い。1750mmの全幅と2535mmのホイールベースはセリカと共通である。カレン(CURREN)という車名は、英語のCURRENT(カレント:時勢の、流行の意)より命名している。
カレンはセリカの2ドアクーペ版ながら、メインターゲットを女性ユーザーに置いていた。6代目セリカはWRC(世界ラリー選手権)で活躍するGT-Fourのイメージが強く、女性ユーザーが乗り回すにはいささかハードなクルマに映った。当時のトヨタのスペシャルティカー・ラインアップは、ターセル&コルサをベースにしたサイノス、カローラ&スプリンター・ベースのレビン&トレノ、FRスポーツのスープラ、高級感あふれるソアラなど多彩だったが、ミディアムサイズでしかもエレガントな女性が似合うクルマはちょうど空白だったのだ。
4ドアスペシャルティのカリーナEDやコロナ・エクシヴほど生活臭がなく、セリカほどハードではない。ほどほどにお洒落でカジュアルな雰囲気がカレンの個性と言えた。しかしメインターゲットが女性とはいえ、その基本骨格はセリカと共通である。優れたロードホールディングを誇る前後ストラット式の足回りや、ハイパワーなパワーユニットなど走りのポテンシャルは非常に高かった。ボディもハッチバック構造のセリカと比較すると剛性が高く、車重が僅かとはいえセリカより軽量なのもマニアには魅力に映った。カレンは女性ユーザーとともに一部スポーツマニアからも注目される存在だった。
デビュー当初のラインアップはシンプルな3グレードだった。エンジンは全車が1998ccのDOHC16Vユニットを搭載する。マニア向けのスポーツモデルはZSを名乗り、180ps/7000rpm(ATは170ps/6600rpm)のハイパワー仕様3S-GE型ユニットを搭載。高いコーナリング能力が自慢の前輪スーパーストラット式サスペンションを持つスポーツ・パッケージ仕様も設定した。しなやかさと日常性能を磨いたXSとFSはトルクフルな140ps/6000rpmの3S-FE型を積み、XSでは最小回転半径4.7m(標準仕様は5.2m)を実現した4WS(4輪操舵システム)も選べた。どのグレードを選んでもカレンの走りは素直でスポーティ。静粛性も高く快適性も優秀だった。
装備も充実していた。全車に環境負荷の少ないノンフロンの134a冷媒を採用したオートエアコンとチルト機構付きパワーステ、パワーウィンドー、集中ドアロック、フォグランプなどを標準装備し、SRSエアバッグやABS、本革シートなどをオプションで用意していた。オーディオシステムもカレン専用の8スピーカー式のスーパーサウンドシステムを選ぶことができた。
カレンの月販販売目標台数は3000台に設定された。しかしデビュー当初から販売は苦戦する。クルマ自体の完成度は非常に高かった。スタイルも上品で申し分なかった。171万5000円から217万7000円の価格設定も内容を考えるとリーズナブルだった。問題は市場動向である。1990年代半ばは、ステーションワゴンやミニバンに代表されるユーティリティモデルが持てはやされていた。スタイルよりも実質機能と、生活に広がりをもたらすクルマかどうかが人気を左右したのだ。その面でカレンを見ると、いささか旧守派だった。カレンは1995年10月のマイナーチェンジで経済的な1838ccエンジン仕様を追加する。しかし販売は上向きにならず結局1998年7月、1代限りで表舞台から姿を消した。カレンがもし1980年代後半に登場していたら、きっと人気モデルになっていたに違いない。時代がカレンに合わなかったのである。