ランサー・エボリューションX 【2007,2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015,2016】

高い戦闘力を携えた新世代ランエボの誕生

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量産車のチューンから始まった三菱のラリー活動

 2007年10月、三菱自動車は本格的なラリーマシンのベース車両となるエボリューションモデルとしては4世代目になるランサー・エボリューションX(通称:エボテン)を発売した。

 1970年代から本格的なラリー活動を行っていた三菱自動車は、当時のギャランやランサー・シリーズの量産車に多少のチューンアップを施し、競技車両としていた。いまだ専用のベース車両などなかった時代である。ライバルであった日産はブルーバード510を、トヨタはカローラ(レビン)をベースに、エンジンをパワーアップし、サスペンションやブレーキを強化してラリーマシンに仕立てあげていた。どのメーカーも似たようなものだった。

 1980年代に入り、WRC(ワールド ラリー チャンピオンシップ)を頂点とするラリーフィールドのマシンは、過激なまでに性能向上の一途を辿る。特に1983年に始まったグループBカテゴリーは、事実上性能向上を野放し状態にしてしまい、エンジンのパワーはターボチャージング技術の向上も手伝って、400ps力から600psと途方もないことになった。駆動方式もフルタイム4輪駆動が常識であり、前後の駆動力を状況に応じてドライバーがコントロールできるものまで登場する。グループBマシンでWRCのスピード性能は向上したが、危険極まる存在となったことも事実で、各地で事故が多発。観客を巻き込んだ死傷事故やドライバー自身の死亡事故も増加することになる。

 1986年のツール・ド・コルスでのドライバーのヘンリ・トイボネンとナビゲーターのセルジオ・クレストが乗ったランチアS4がコースアウト、火災を起こして、ふたりが焼死する事故が起きた。この事故を直接のきっかけに、モータースポーツを統括するFIAは、ラリー競技用のマシンを量産モデルに限る決定を下す。グループAと呼ばれるカテゴリーである。これは、12か月間に5000台以上を生産したモデルをベースとするもので、事実上グループBのようなモンスターは現れないことになった。

三菱、WRCドライバーズタイトル4連覇

 グループAとなった1987年以後もマシンの性能向上は休むことはなかった。やがて世界中の主要なメーカーがWRCへの参戦を表明、空前の混戦模様を呈する。こうした中で、徐々に実力を発揮し始めたのが日本車で、とくに三菱はギャランVR-4やランサーをベースにラリーマシンを開発し、1993年シーズンには最初のランサー エボリューション モデルをデビューさせた。通称「エボⅠ」である。以後、ランサー エボリューションはシーズンを追う毎に完成度と戦闘力を高め、ドライバーズチャンピオンシップでは1996年から1999年まで4年連続でタイトルを獲得、1998年にはマニュファクチャラーズタイトルも獲得している。「ランエボ」は日本製ラリーマシンの代名詞的存在となる。

モーターショーでプロト発表。完成度を高めたエボX

 2005年の第39回東京モーターショーで、三菱はエボXをイメージしたコンセプトモデルであるコンセプトXを発表した。2年後の2007年にアメリカのデトロイトで開催されたモーターショーでは、エボXの具体的なプロトタイプであるプロトタイプXが展示され、徐々に完成度を高めていった。そして、同じ年の10月に「その進化は、一瞬で時代を抜き去る」というキャッチフレーズの下に発表されたのが、今回のメインモデルとなる量産型のエボXだった。

 エボXの直接的なベースとなったのは、国内向けに販売されていたギャラン・フォルティスであった。だがモデル名は海外でも知名度の高いランサーを採用し、ランサー・エボリューションとなっていた。ギャラン・フォルティスと主要部分のシャシーコンポーネンツを流用しているとは言っても、サイズ的にはわずかに異なっており、ホイールベースはエボXが15㎜延長されて2650㎜となっていた。一方、ラリーマシンとしての取り回しの良さを考慮して前後のオーバーハングは切り詰められ、全長は4495㎜と75㎜ほど短くなっている。

 全幅もオーバーサイズのタイヤをカバーするために、フェンダーを拡げたことで50㎜幅広くなっている。全高も10㎜低められた。スタイリングは基本的にギャラン・フォルティスそのままの4ドアノッチバックセダンだが、フロントスポイラーの大型化、グリル開口部分の拡大、リアスポイラーの装備、タイヤの大型化に伴うオーバーフェンダーの張り出し量の増加などがあり、外観上はそうとう迫力を増していた。モデルバリエーションは、標準仕様のGSRと競技車両のベースとなるRSの2種。

新開発パワーユニットを投入

 搭載されるエンジンは、新開発の排気量1998㏄の直列4気筒DOHC16バルブにインタークーラー付きターボチャージャーを装備(4B11型、出力280ps/6500rpm)。トランスミッションは6速のツインクラッチ付きSSTおよび5速マニュアルの2種がある(RS仕様は5速マニュアルのみの設定)。

 駆動方式はフロント横置きエンジンによる4輪駆動方式で、新開発されたクルマの動きを総合的に電子制御するS-AWC(スーパー アクティブ ホイール コントロール システム)が組み込まれている。サスペンションは前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後がマルチリンク/コイルスプリングの組み合わせとなる。ブレーキは4輪サーボ機構付きディスクで、前後にベンチレーテッド式が装備された。価格は装備によっても異なるが、299万7750円から375万0600円となっていた。性能から考えれば、かなりのバーゲンプライスであった。

デビュー以来、毎年の改良でポテンシャルを熟成

 こうして誕生したエボXだったが、ラリー競技の人気の高まりとともに、クルマ盗難のターゲットになってしまう。コンペティション(競技)向けのモデルだから、当然絶対的な生産台数は少なく、たとえ中古車になっても販売価格の低下は少なく、場合によってはさらに高騰することさえ稀ではなかった。

 2009年までに、トヨタやスバルと言ったWRCの常連であったワークスチームは撤退してしまっていたが、三菱だけは参戦を続けるべく様々な手段を講じた。だが、世界的な経済不況やメーカー自体の度重なるトラブルなどがあり、ヨーロッパにあったワークスチームの拠点を閉鎖。復帰は果たせなかった。

 だが歴代モデル同様、ポテンシャルアップは積極的だった。デビュー1年後の2008年10月9日に改良を実施。エクステリアではエクステンション部にブラック塗装を施したリアコンビランプを採用。GSRには、インパネにシルバーのピンモールを追加し、エアコンパネル外周部にメッキリングを追加した。新グレードの「GSRプレミアム」もデビュー。それまでパッケージオプションで展開した「プレミアムパッケージ」に代わるもので、本革シート(フロントはレカロ社製、シートヒーター付き)、ビルシュタイン社製ショックアブソーバー&アイバッハ社製コイルスプリング、ブレンボ社製2ピースタイプフロントブレーキ、HDDナビゲーションシステムなどを標準で装備した。

 その後もエボⅩは毎年、改良を受け、2009年10月には新形状の大型サイドエアダムを採用し、樹脂製エンジンヘッドカバーでフロントまわりを約1.5kg軽量化。2010年10月には、加速レスポンスの向上を図り、ツインクラッチSST車は変速レスポンスを向上。2011年10月には、インテリアの質感の向上を図った。2012年10月には、ボディカラーの設定を見直したほか、メーカーオプションのMMCS(ナビゲーション、オーディオ機能など)を新型に切り替えている。だが残念ながら2015年4月のファイナルエディションを最後に、栄光の歴史にひとまず幕を引いた。