イスト 【2002,2003,2004,2005,2006,2007】

SUV感覚を加味した上質コンパクト

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1クラス上のコンパクトカーを目指して

 21世紀に向けた新世代のコンパクトカーとなるヴィッツやハイトワゴンのファンカーゴおよびbBの大ヒットによって、同クラスのシェアを大幅に高めていた2000年代初頭のトヨタ自動車。一方で開発現場では、「若者のモビリティライフに応える最上のコンパクト車」の提供を念頭に置いた新たなジャンルのコンパクトカーを企画していた。具体的には、アクティブ感と洗練さを融合させたスタイルに新感覚のインテリア空間、優れた走行性能、クラストップレベルの安全・環境性能などを特長とする上質コンパクトカーの創造を目指す。

 ちなみに、新コンパクトカーの開発にあっては時間を大幅に短縮できるフルデジタル設計の“ビジュアル・バーチャル・コミュニケーション”(V-comm)を導入する。CAD(Computer Aided Design)やCAM(Computer Aided Manufacturing)、CAE(Computer Aided Engineering)等を3次元データで統合、運用する最新バージョンのCATIA(Computer graphics Aided Three dimensional Interactive Application)をフル活用し、コンピュータ上で設計・試作・実験などを行う先進の開発プロセスは、期間の短縮のみならず精度アップや費用の削減も可能としていた。

SUVテイストとモノフォルムの融合

 新コンパクトカーの外装デザインに関しては、力強く塊感のあるモノフォルムをベースにSUVテイストあふれる張り出したホイールアーチと大径タイヤを装備。さらに、ワイドで立体感のあるグリルや相似形のフロント&リアコンビネーションランプ、サイドからリアにかけて連続感をもたせたウィンドウグラフィックなどを採用。従来モデルにはない新感覚のスタイリングを構築する。

 内装では、プレーンな面質で前後に凸ラウンドさせたうえで幾何学パターンの表面処理を施したインスツルメントパネルや楽しみながら収納できるアンバー照明のイルミネーテッド・マルチボックスなどを設定し、洗練さのなかにも遊び心のあるアレンジを実施した。

 シャシーおよびエンジン等のメカニズムについては、基本的にトヨタ製コンパクトカー群の既存ユニットを流用しながらオリジナルのチューニングを施す。搭載エンジンは、VVT-iの採用や斜めスキッシュ燃焼室の形状改善などにより燃焼効率を向上させた1NZ-FE型1496cc直4DOHC16Vと2NZ-FE型1298cc直4DOHC16Vの2機種をラインアップ。組み合わせるミッションはフレックスロックアップ機構を組み込んだSuper ECT(4速AT)のみで、駆動方式はFF(1NZ-FE/2NZ-FE)とフルタイム4WD(1NZ-FE)を設定した。

 開発陣は安全および環境性能についても注力する。安全面では全方位コンパティビリティの概念を追求し、衝突安全ボディGOAのさらなる進化や歩行者障害軽減ボディの採用、EBD付きABS/ブレーキアシスト/WIL(頸部障害軽減)コンセプト導入シート構造の装備などを敢行。環境性能では、全車で「平成12年基準排出ガス75%低減レベル」を達成したうえで、FF車では「平成22年燃費基準」もクリアした。

発表から1カ月で4万2000台を受注

 トヨタ渾身の新ジャンルコンパクトカーは、まず2001年開催の第35回東京モーターショーで「ist」(イスト)の車名を冠して参考出品され、そのスタイルをほぼ踏襲した市販版が2002年5月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは「istという個性」。

 車種展開はFF仕様に1.5S(1NZ-FE)と1.3F(2NZ-FE)、4WD仕様に1.5Sと1.5F(ともに1NZ-FE)が用意され、S系グレードには充実装備のLエディションを、F系グレードにはLエディションのほかに廉価版のEエディションを設定した。

 SUVテイストあふれる新コンパクトカーのイストは、ひとクラス上の上質でスタイリッシュな外観や装備内容に比して割安な価格設定(118~165万円)などが好評を博し、たちまち大人気モデルに昇華する。受注もうなぎのぼりで、発売2週間で月販目標7000台の4倍に迫る約2万6000台を記録。発売1カ月では、同6倍となる約4万2000台に達した。この数字は、当時の歴代トヨタ車のなかで最高の記録となったのである。