フェアレディZ 【1978,1979,1980,1981,1982,1983】

1980年代にふさわしいZカーを目指して--

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大ヒット作の後継モデルの模索

 1969年10月の発表以来、世界中、とくにアメリカの自動車マーケットで高い人気を集め、スポーツカーの勢力図を塗り替えたフェアレディZ。しかし、1970年代中盤ごろになるとユーザーのスポーツカーに対する要求性能はより高度になり、しかも社会状況としては省燃費や低公害、安全性の向上などがクルマに求められるようになる。

 来るべき時代の要請を先取りするためには、次期型フェアレディZにどんな性能を持たせればいいか--。開発陣は様々な角度から議論を重ねる。そして、導き出した開発テーマは「従来のフェアレディZで培った伝統を継承しつつ、1980年代のスポーティカーにふさわしい動力性能と走行性能、さらに快適性・居住性・安全性とが高いレベルで融合した1台に仕上げる」ことだった。

 外装に関しては好評だったロングノーズ・ショートデッキのフォルムを基本に、空力特性のいっそうの向上と洗練度のアップを図る。フロント部にはフード一体型バンパーを採用。リア部はラバー付き大型バンパーや角型テールランプなどを装着してダイナミックなスタイルを創出する。ボディ長と幅は従来のS30型系より拡大させた。肝心の空力特性はS30型系のCd値(空気抵抗係数)0.467を大幅に凌ぐ0.385を実現。またS30型系のウィークポイントとされた高速走行時のノーズリフトを改善するため、フロントの揚力係数は従来の0.41から0.14にまで低減させる。ボディタイプはS30型系と同様、2シーター(ホイールベース2320mm)と2by2(同2520mm)を用意した。

パワフル&ワイルドな280Zを新設定

 エンジンのラインアップについては、従来のS30型系から採用しているL20E型1998cc直6OHC(130ps/17.0kg・m)に加え、従来は北米仕様に搭載していたL28E型2753cc直6OHC(145ps/23.0kg・m)を国内仕様にも設定する。また、2種のエンジンともに最新の日産排出ガス清浄化システムである“NAPS”を組み込み、当時最も厳しいとされた昭和53年排気ガス規制をクリアした。

 サスペンションに関してはフロントが従来のS30型系と同形式のマクファーソンストラット式を採用するが、リアは従来のトランスバースリンクによるストラット式からセミトレーリングアーム式に一新する。さらにフロントのストラットやリアのショックアブソーバーの摺動摩擦を低減するなど、大幅な改良を施した。ステアリングギアの改善にも力を入れ、操舵時の剛性感のアップや摩擦抵抗の低減などを実施する。また、西ドイツ(現ドイツ)のZF社と提携して開発したインテグラルパワーステアリングも設定した。装着タイヤは175SR14と195/70HR14を用意。このうち195/70HR14サイズには、ミシュランタイヤのXVSを組み合わせた。

 開発陣は居住空間の快適性向上についても大いに注力する。室内幅は2by2が従来比75mm、2シーターが同30mmほど拡大。さらに、インストアンダーカバーや一体成型ダッシュインシュレーターなどを装着してパワートレイン関係の騒音振動対策を施す。空調に関しては室内空気流の見直しや換気量のアップ、大容量ヒーターコアシステムとブロアモーターの採用などで理想的な冷暖房性能を追求。オートエアコンも新開発した。

 インパネのデザインはスポーティな中にも高級感を感じるような造形にアレンジし、そのうえでコンソールや台形2本スポークステアリング、フロアマットなどとトータルでカラーコーディネートする。シートは2シーターがスポーティなハイバックタイプで、2by2が豪華なローバックタイプ。運転席にはシートリフターおよびランバーサポートを装備した。装備品については、アンビエンスシステム付き4スピーカー・カセットステレオや多機能4桁蛍光管表示デジタル時計、ASCD(自動速度制御装置)、集中警報装置などの先進アイテムをふんだんに盛り込んでいた。

キャッチフレーズは“Z ZONE”

 80年代に向けたスポーティカーの新基準を目指して開発された新型フェアレディZは、S130の型式を付けて1978年8月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは“Z ZONE”。大ヒットした初代フェアレディZの伝統を受け継ぎ、そのうえで進化させたことを主張したコピーだった。

 S130型系フェアレディZの車種展開は非常にシンプルで、2by2と2シーターの2ボディ、L20E型とL28E型の2エンジン、5速MTとニッサンマチック(3速AT)の2ミッションで構成する。グレードについては、最上級仕様のZ-Tを筆頭に、上級モデルのZ-L、ベーシック版のZをラインアップした。
 市場に放たれた2代目フェアレディZの中で、最も注目を集めたのはL28E型を積んだトップモデルの280Zだった。豊かな低中速トルクによる力強い加速、安定感が高まった走行性能、快適性が増した室内空間など、従来よりワンクラス上のラグジュアリーなスポーツ性が好評を博す。また当時の自動車マスコミでは、「スポーツカーから快適なハイウェイクルーザーに変身した」と評した。

 S130型系フェアレディZは初代と同様、海外にも積極的に輸出される。海外市場での月販目標台数は、国内市場の1500台に対して8500台に設定。その大半が北米市場向けだったが、快適性が大幅に引き上がった新型は日本以上に好評を博し、目標台数を楽々とクリアした。

Tバールーフ仕様の追加

 好評をもって市場に受け入れられたS130型系フェアレディZは、デビュー後も着々と進化を図っていく。 1980年3月にはL28E型エンジンに電子集中制御システムのECCS(Electronic Concentrated engine Control System。EGRと三元触媒を使用する空燃比フィードバック制御の燃料噴射、点火時期、アイドリング回転数などを統合制御する機構)を採用。同年11月には、ガラス製の脱着式ルーフを組み込んだ“Tバールーフ”仕様が登場する。同時に、L20E型エンジンのECCS化や新色の“マンハッタンカラー”(ボンネットからドア上にかけてシルバーに塗ったツートンのカラーリング。後にS130型系随一の人気色となる)の設定なども実施された。ちなみに、フルオープンではなくTバールーフにした理由は、当時の日産スタッフによると「フルオープンはアメリカ市場では保険料が非常に高い。しかし、Tバールーフならクーペボディと同レベルの金額に収まった」からだという。

 1981年10月になると、S130型系のマイナーチェンジが敢行される。バンパー形状やリアコンビネーションランプなどのデザイン変更、ミッションギア比の見直しなどが主なメニューだったが、最も注目を集めたのはボンネットに配されたエアダクトで、日産ではこれを“NACAダクト”と称した。NACAはNational Advisory Committee for Aeronauticsの略で、日本語に訳すと国家航空諮問委員会。現在のNASA(アメリカ国立航空宇宙局)の前身に当たるこの組織は、空気抵抗を増やさずに効率よくフレッシュエアを取り入れることのできるダクト形状を考案したのだが、これが多くの欧州製スーパースポーツカーに採用された。最新鋭の空力パーツを国産のフェアレディZが装着した--。当時のクルマ好きは、こうした点に着目したのである。

Z初のターボエンジンの搭載

 好調に販売成績を伸ばしていったS130型系フェアレディZ。しかし、デビューから3年あまりが経過するとライバル車のソアラやセリカXXの追い上げなどもあって、販売台数は次第に鈍化する。この状況を鑑みた開発陣は、次期モデルの開発と並行して新エンジンの搭載に着手した。

 1982年10月になると、国産フェアレディZ初のターボチャージャー仕様が登場する。動力源は430型系セドリック/グロリアやC210型系スカイライン、F30型系レパードなどに採用していたL20ET型で、145ps/21.0kg・mのパワー&トルクを発生した。またターボ仕様には専用デザインのラジエターグリルやアルミホイールなども備わり、他グレードとの外観上の差異化が図られる。ちなみに、輸出向けモデルにはL28E型エンジンにターボチャージャーを組み込んだL28ET型ユニットも設定された。

 初代のS30型系と同様に世界的なヒットモデルに昇華したS130型系フェアレディZは、1983年9月になるとフルモデルチェンジが実施され、3代目となるZ31型系に移行する。その3代目は搭載エンジンを一新し、新開発の“V型6気筒”が採用された。結果的にS130型系は、「最後の直6エンジン搭載のZ」となったのである。