ライフ・ステップバン 【1972,1973,1974】

愛らしく、しかも使い勝手に優れた斬新K-CAR

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乗用車から派生したビジネスカー

 1970年代のホンダは、技術的にもコンセプト的にも日本の自動車シーンを牽引する存在だった。1972年9月にデビューした軽自動車規格のコマーシャルバン、ステップバンもホンダの個性が凝縮した1台である。

 ステップバンの正式名称は、ライフ・ステップバン。ネーミングが現すように軽乗用車ライフの派生車種として開発されていた。ライフは、一世を風靡したN360シリーズの後継車として登場した“まろやか路線”のファミリーモデルである。静粛な水冷エンジン、スペース効率を徹底追及した広いキャビン、4ドアも選べる優れたユーティリティという魅力を持ち、N360同様、軽乗用車リーダーカーの座を獲得する。ステップバンは、そのライフの派生車種だけにメカニズムは基本的にライフと共通。スペース効率やユーティリティを重視した点もライフと同様だった。しかし単なるライフのコマーシャルバンでなかった点がホンダらしかった。

独創のトールデザインでユーティリティを実現

 当時のホンダは、現在よりも自由な発想でクルマ作りに邁進していた。全長や全幅に厳しい制限が課せられた軽自動車で、唯一自由度が高いのが全高。ステップバンは全高に着目し、思い切ったトールデザインとすることで広いラゲッジスペースを実現していた。ステップバンのスリーサイズは全長2995×全幅1295×1620mm。ライフの全長2995×1295×1340mmと比較すると280mmも高い。ステップバンではこの余裕ある全高を生かしてシートポジションをアップライトに変更。パッセンジャーのための十分なスペースを確保した上で、十分なラゲッジスペースを実現する。

 荷室の広さは後席を畳んだ状態で長さ1270×幅1100×高さ1135mmとクラス最大級。後席を立てた4名乗車でも荷室長は640mmあった。メカニズム関係がフロントに集約されたFFシステムの利点で、ラゲッジフロアは低く、しかも後輪のホイールハウスを除き、邪魔な出っ張りがまったくなかったのも見事だった。

 スタイリングも斬新だった。ライフとの血縁関係を感じさせない仕上がりで、しかもキュート。エンジンを収めた短いボンネットとボクシーなスクエアキャビンの組み合わせは、現代のミニバン・スタイリングの先取りともいえるものだった。ユニークだったのは前後のドア下側パネルが同一だったことだ。前後のホイールハウス切り欠き部分のラインを統一して部品の共通化を図ったのである。ちなみにフロントグリルとリアランプは、軽トラックのTN360、リアゲートはLN360用を流用していた。

デスクとして使えたインスツルメントパネル!

 中央にメーターを配置したインスツルメントパネルにもアイデアを凝らしている。手前をフラットな形状とすることで事務デスクとして活用できるように工夫したのだ。グローブボックスにはふたを開けずに伝票などが入れられるように“隙間”を設定。ドアヒンジカバー部分にはペンホルダーも用意していた。インスツルメントパネルをあえてフルトリムとせず、金属面を残したのもマグネットクリップの利用を考慮した結果だった。

 356ccの排気量から30ps/8000rpm、2.9kg・m/6000rpmを発生する直列2気筒OHCユニットと、ローギアード設定の4速マニュアルミッションが生み出すパフォーマンスは必要にして十分なレベル。パワーが限られているため決して速くはなかったが、それでもホンダ車らしいキビキビ感が楽しめる設定となっていた。バリエーションは、ラジオやシガーライター、ブルーガラスなどを標準装備するスーパーデラックスと、シンプル装備のスタンダードの2タイプを用意していた。

 ステップバンは商用車としての高い機能性を実現したうえで、ホンダ独特の“遊びゴコロ”をユーザーに感じさせる逸材だった。スーパーデラックスで40万3000円という当時としては高価なプライス設定も影響して販売台数は決して多くなかったが、ビジネスユースだけでなく、レジャーユースの格好の相棒としても高い人気を集めた。アメリカ西海岸の“バニングブーム”を参考にした、カスタマイズカーも多数現れ、日本のモータリングシーンに彩りを加えた。ステップバンは元祖RVとも言える存在である。