バモスホンダ 【1971,1972,1973】
自由を感じさせた個性派オープン
1970年10月に発売された軽自動車初のスペシャルティーカーであるホンダZに続いて、同年11月に発売されたのが多目的レジャーカーのバモスホンダだ。実用的な乗用車やバン、ワゴンだけでは面白くないとばかりに、ホンダ独自の自由闊達な発想から生み出されたモデルだった。
安価に楽しく遊べるクルマという基本的な考えからデザインされており、使われているコンポーネンツは可能な限り量産モデルのものが流用されていた。バモスのシャシーやサスペンション、エンジンなどは、キャブオーバータイプのトラックであったTN360そのままで、強固なフロアパンを残して、全く異なるスタイルのボディーを組み合わせたのだ。
スタイルは、フラットな床板にフロントウインドーとヘッドライトを支える傾斜したパネルを取り付けただけのものだった。ヘッドライトはカエルの目玉のようにフロントのパネルから飛び出ており、その間にスペアタイヤが収まる。左右のバックミラーは細いステーで支えられているから、フロントマスクは巨大な昆虫を思わせた。
サイドにドアはなく、ボディーの一部が切り欠いてあって、乗員の乗り降りを容易にしている。前席の後方にはロールバーが取り付けられており、フロントのパネルとロールバーにはスイング式のガードバーがあってドアの代用となっていた。後部は商業車登録だけにピックアップ式に下ヒンジで開くアオリがあり、荷物の積み込みも楽にできるようになっていた。荷台部分の三方向に低いガードバーを巡らしたのもポイントで、ロープフックとしても使えるだけでなく、スタイル上のアクセントにもなっていた。
ボディバリエーションはオープン型一種だが、2人乗りシートで300kg積載可能なバモス2(32万1000円)、4人分のシートを装備して200kg積載を可能としたバモス4(35万1000円)、さらに荷台部分までをすっぽりと覆うことのできる大型のホロを装備したバモス・フルホロ(36万9000円)の三車種があった。オプションで雨よけのサイドカーテンも用意された。
ドライブトレーンはTN360そのままとなっており、エンジンは後車軸直前に置かれる(つまりバモスはミッドシップエンジン)排気量354ccの空冷2気筒OHCエンジンは、30ps/8000rpmの最高出力を発揮、マニュアル型4速トランスミッションを介して、車重540kgと決して軽くはないバモスを最高速度90km/hで走らせた。この種のレジャーカーとしては十分な性能だ。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット/コイルスプリング、リアは半楕円リーフスプリングを使ったド・ディオン型アクスルであった。ブレーキはTN360と共通の4輪ドラムのままであり、タイヤも5.00-10サイズとTN360と変わりはなかった。ただしオプションでオフロード指向の深いミゾを持つタイヤも設定されていた。
バモスホンダは、オリジナルモデルの発売から6ヵ月を経た1971年5月から、ベースとなったTN360がTN-Vへとチェンジされたことに伴い、バモス系もエンジンに変更を受ける。最高出力が27ps/7000rpmに落とされたが燃費はわずかに向上した。スタイリングやモデルバリエーションに変更はない。
バモスホンダはホンダが1974年10月に軽自動車の生産から一時的に撤退したことで生産を終了する。およそ4年間に及ぶ生産期間での生産台数はわずか2530台といわれる。
バモスホンダは、デビューした時期が少しばかり早過ぎた。それは、本田宗一郎という奇代のエンジニアによって創業されたホンダというメーカーの持って生まれたDNAとでもいうべきものなのかも知れない。今、4WDシステムを装備して、あのスタイルのままバモスホンダが発売されたらファンカーとして人気を得るに違いないのだが……ちなみにバモスの名だけは、軽自動車規格のワゴンのネーミングとして1999年に復活を果たした。